31、トレジャーハンターは芳しい香りに誘われて
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ワイルドキャットのキッチンで何やら料理の試作をしているスミレ達。
「まだか!いつまで我を待たせるつもりだ!?」
「もうちょっと待ってよ。今、いいところなんだから…」
急かすリューを尻目にスミレは黙々と鍋と向き合っていて、休業日の店内にはスパイスの良い香りが充満している。
「わ〜〜!いい香り〜!!」
香しい香りに誘われて、自室がある2階からハルアが降りてくる。
「おはようハルアちゃん。お父さんはまだ寝てる?」
「はい。最近は特に忙しかったのでもう少し静かにしてようかと」
「ハルアちゃんは優しいわね」
お父さん思いでいい子よね。その頃の私に見せてやりたいくらい。あの頃は絶賛思春期中で父親とは碌に話を聞かなかったから。結局親には内緒で東京に出て、家族はテレビで初めて私がアイドルだったことを知った。
あの時はめちゃくちゃ驚かれて、しこたま怒られた。それも今ではいい思い出だけどさ。
お父さん達、元気にやってるといいけど……。
「所でこの良い香り、何を作ってるんですか?」
「カレーよ」
「カレー?」
カレーは私がこの世界で初めて作った料理。あの時偶然カレールーが手に入らなければ今の私は無かったと思う。
それ以来カレーはリューの大好物。一度作ればまた作れと催促され続けた結果、とうとうカレールーは底をついてしまった。
それからも度々リューにせがまれるため、遂に私は一からカレーを作る事に決めたのだ。
カレーを作るために必要なスパイスはざっくり分けて3つ。
クミン、ターメリック、コリアンダー。それさえあればカレーらしいものは簡単に出来上がる。
勿論、他にもカルダモンやチリペッパーなどの様々なスパイスを組み合わせることでより奥深いカレーが作れるのだが、流石に異世界ではハードルが高過ぎる。
街中の市場を見て回り、なんとかその3つに良く似たスパイスは集められた。後はトマトをベースにして野菜や肉と一緒に煮込んでいけば、簡単トマトチキンカレーが出来る筈。
「頃合いね。そうだ、ハルアちゃんも味見してみる?」
「いいんですか!?食べたいです!」
「その前に我が先だ!」
「一緒に食べればいいでしょ」
少量ずつ皿に盛られたカレーをリューは一瞬で完食してしまう。
「早っ!」
流石の食べっぷりね。見てるこっちも気持ちいいわ。
「じゃあ私達も」
「いただきます!」
追いかけるようにスミレ達も食べ始める。
「どう?」
「美味しいです!こんなの初めて食べました!」
「そう。良かった」
しかし、感激するハルアの様子とは打って変わってスミレの表情はいまいちパッとしていない。
「どうしたんですスミレさん?」
「ん?あー、ちょっとね」
「?」
確かに美味しい。だけどこれは何かが違う。
「ねぇ、リューはこのカレー気に入った?」
「美味いは美味い。が、これは我の好きなカレーではない」
「だよね〜。私も同じこと思ってた」
カレー作りには成功した。ちゃんとそれっぽい味もするし、これは普通に美味しいトマトカレーだ。
でも、私やリューが食べかったあのカレーではない。
私達が作りたいのは小学生から大人まで、おじさんもお姉さんもドラゴンまでもが美味しいと認めるカレールーで作ったあのカレーなのだ。これは少々オシャレすぎる。
そもそもスパイスカレーとルーで作ったカレーとはジャンルが違う。冷静になって考えてみたら、ルーを使ったカレーの味を一から家庭で再現だなんて日本でも難しい気がする。てか絶対無理ね。
こんなことになるなら最初からこんなことやらなきゃよかった。
「あーあ、やっぱりカレールーで作ったカレーを異世界で再現するのは無理なのかなーー」
「ならばダンジョンにでも潜ってみるか?」
「ダンジョン?」
それ、なんかゲームとかで聞いたことある。
「ダンジョンとはこの世界に数多存在する迷宮のことだ」
「そういえば今朝、王都の中にもダンジョンが現れたって噂になってましたよ」
「え、こんな街中なのに!?」
そういうのって森の奥とかにひっそりあるものなんじゃないの。
「ダンジョンがいつ何処に、どうやって現れるのか、それは竜王である我にも分からん」
「へぇー、リューにも分からない事があったんだ」
「勘違いするな。興味の無いことは知る必要が無いだけだ」
「で、わざわざダンジョンに行く理由はなんなの?疲れてるからできればゆっくりしてたいんだけど」
昨日の夜は買い出しで今日は朝一でカレー作り。それまでもずっとハルアちゃんの手伝いで店に出突っ張りだったからくたくたなのよね。出来ることなら1週間くらいずっと寝てたい気分。
「宝探しに決まっておるだろ」
「へぇー宝探しか…宝探し!?」
不思議よね。そのワードを聞いたら疲れてたのになんだかワクワクしてきた。
「でもさ、宝探しとカレーになんの関係があんのよ」
「ダンジョンで見つかる宝箱の中には、異世界からの漂流物が眠っている場合があるのだ。運が良ければお前の望む物も手に入るかもしれん」
「マジ!?それならそうと先に言ってよね!なら行くに決まってるでしょ!」
私は直ぐにエプロンを脱ぎ捨て簡単に身支度を整える。
「そうと決まれば急ぐぞ。モタモタしていると他の冒険者に持ってかれる!」
「分かってるわよ!ごめんハルアちゃん、キッチンそのまんまにして。後でちゃんと片付けるから!」
「それはいいですけど、危険ですよ!ダンジョンには未確認モンスターもいっぱいいるって」
「それなら大丈夫」
「え?」
スミレは市場で買った冒険者向けの白いロングコートを華麗に羽織った。
「私もリューもそこそこ強いから」
「そこそこじゃない。圧倒的に強いのだ」
「はいはい、急ぐわよ!」
「あ、待って!」
「カレールーは我らの物だ!!」
ロングコートを靡かせながら、スミレ達はダンジョンに向かって大急ぎで店を後にした。
「スミレさん達大丈夫かな……?コートのタグ付けたまんまだったけど」
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