28、おかえりなさいませご主人様
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あれから一週間。
連日大盛況だったレストラン〈セレブリティ〉にはここ最近閑古鳥が鳴き続けていた。人っこ一人来なくなった店内では豪華絢爛な装飾も物悲しいだけ。今までの活気が嘘のように静まり返っている。
「……一体何がどうなってるんだ!」
キッチン厨房で響き渡るは〈セレブリティー〉のシェフ、タンダドールの怒声。ここ最近タンダードルの機嫌は益々悪くなっていくばかり。
「落ちついてくださいシェフ!」
「これが落ちついてられるか!なんで客が来ないんだ!!」
別に味が変わったわけでも接客態度が悪くなったわけでもない。なのにある時を境にパッタリと客が来なくなった。その理由が未だに分かっていない。
「このままじゃウチは潰れる。そうなったら本店の奴らに何を言われるか……」
本当なら私がこの店を成功させて手柄を挙げ、華々しく本店に返り咲くはずだったんだ。同期のシェフ達にも置いていかれた私にとってこれは最後のチャンスなのだ。
「どうしてこんなことに……!」
怒りだけ募るタンダードルの元に部下が一枚のチラシを見せる。
「あの、シェフ。ウチの店に客が来なくなった原因は多分これだと思います」
「これは……?」
「ウチの近くにあった寂れた食堂がリニューアルオープンしたらしくて、これがそのチラシです」
「あんな店が新しくなった所でたかが知れてるだろ」
「もしかして本当に知らないんですか?」
「?」
部下がタンダドールを連れて〈キッチンワイルドキャット〉にやってくると信じられない光景を目の当たりにした。
「これは、どうなってる!?」
店の前にはずらっと客が並び、その列は最後列がここから見えなくなるほど長く伸びている。
「なんでこんなに客が集まってるんだ!?ちょっと前まで客なんて一人も来てなかったじゃないか!」
女性や家族連れもちらほら見受けられるが、圧倒的な数を男性客が列を占めている。普通、食堂やレストランに来る客層は家族連れや女性が殆ど。これほどの男性客が挙って集まるのは居酒屋や露店で意外ではとても珍しい。
それに店の看板や外観も以前から一新されていて、店の前で好き放題に荒れていた植物は綺麗に整えられていて実に清々しい。
「何がどうなったらこんな急に人が集まるんだ!」
店の外観をちょっと良くしたからってこんな簡単に客が集まるわけが無い。何か仕掛けがあるはずだ。
「ちょ、シェフ!?」
「どうせここに集まってるのは全員金で集められた奴ばっかりなんだろ。同業者として文句言ってやる!」
「ダメですよ。だとしても列はちゃんと並ばないと!」
「知るか!」
列を無視して無理矢理店に入ろうとするタンダドールを部下が必死に押さえつける。
「いいから落ち着いてください!」
「これが落ちついていられるか!」
「ただでさえウチの店は今評判が悪いんです。こんなのでまたへんな噂でも広がったらそれこそ取り返しつかなくなりますよ!」
「それは、困るな……」
「でしょ?だから文句を言うにしてもちゃんと列はならびましょう」
「……っ!」
部下の説得に渋々応じたタンダードルは大人しく列の最後尾に並ぶ。
店から出て行く客は皆笑顔でなんだが興奮しているようだった。普通の食堂から考えられないその様子を見るたびに私の疑問は増えるばっかりだった。
それから約3時間。ようやくタンダードル達の番が訪れた。
「ようやくですねシェフ」
「この私をどれだけ待たせたら気が済むんだ……!」
この3時間の間で溜まりに溜まった鬱憤を晴らそうと、扉を勢いよく開ける。
「おいっ!これはどういう、なっ!!……」
「「おかえりなさいませご主人様♡」」
「!!……」
怒り心頭なタンダードル達を迎えたのは、フリフリのフリルや大きなリボンが可愛らしいメイド服で着飾ったスミレとハルア達だった。
ハルアに至っては猫耳のカチューシャまで付けていて、リュードヴルムも店の雰囲気に合わせて執事のようなスーツ姿でおめかししている。
「めちゃくちゃかわいい……!」
「なんなんだこの店は!?本当にあの食堂なのか?……」
タンダードルは店の思わぬ変貌ぶりが信じられず外に出て店の看板を確認する。
「(店の名前は合っている。だとしたら一体この店に何があったと言うんだ)」
店内の雰囲気も食堂というよりメイド喫茶のように大きく様変わりしているではないか。
「その肩に乗っているドラゴン…お前、あの時の客か!?」
「お席ご案内しますね〜!」
「お、おい!なんか言ったらどうなんだ!」
スミレはオーナー達の存在に気づきながらも顔色ひとつ変えず毅然と振る舞う。
「ご主人様、こちらメニューになります」
何ひとつタンダードルの疑問は解決されないま渡されたメニューを見てみる。
「もえもえオムライス?」
「こっちにはもえもえかぞくどんなんてのもありますよ」
「さっぱり分からん……」
「ご主人様、ご注文はどうなさいますか?」
「注文とかそんなのどうでもいい!これは一体どういうことなんだ!!」
一人声を荒げる男の様子に店内の冷たい視線が集中する。
「うぅぅ……ご主人様、いきなり怒らないでください〜!!」
「だからなんで泣くんだ!」
確実に嘘泣きなのだが完全に店内はアウェーとなり、タンダードル達に大きなブーイングが飛びまくる。
「オーナー、取り敢えずここは何か頼んでおいた方がいいのでは?…」
「それもそうだな…なら、このもえもえオムライスとやらを1つ」
「僕も同じ物を」
「かしこまりましたご主人様!」
してやったりとばかりにスミレはけろっとした様子で直ぐに顔を上げる。
「ハルアちゃん頼める?」
「はい。じゃなくて分かりましたにゃん♡……」
ハルアは若干照れながら返事をすると、やっぱり恥ずかしかったのか逃げるように厨房へと向かった。
「店員に獣人の真似をさせるとはどういうつもりなんだ?」
「だってかわいいと思いません?」
「うん。かわいい!!」
「おい」
「あ、すみません……」
部下の人は正直で宜しい。それに比べてこの人はめちゃくちゃ堅物ね。さっきから一度も笑ってない。
「そういう問題じゃないんだよ。大体この店はどうかしてる」
私達のかわいい姿を見ても笑顔にならない方がどうかしてると思うけど。
「そうですか?」
あざとくぽかんと惚けて見せるスミレ。はっきりしないスミレの様子にタンダードルは苛立ち始める。
「当たり前だろ!そもそもなんで部屋中こんなピンク一色なんだ!」
「だって、かわいくないですか〜?」
「まだそれか…じゃあ食堂なのになんでメイドの格好してるんだ!」
「普通のエプロン姿よりこっちの方がかわいいでしょ?」
「「かわいい!!」」
店の中にいるすべての客が口を揃えて答えた。全然話が通じないスミレの様子にタンダードルの顔色だけがどんどん悪くなっていく。
「……食堂をこんな風にしてまで、お前は一体何がしたいんだ?」
「ご主人様の店に行って私気づいたんです。人を笑顔にする方法は別に美味しい料理を出すだけじゃないって」
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