25、ヤクザ顔の魔法使い
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「うぅ……」
硬い地面の寝心地の悪さとどこらか吹き込む気味の悪い冷たい風が私の目を覚ました。
「いたた…」
まだあの時受けた痛みが残ってる。あの時の痛みはまるでスタンガンを喰らった時のようだった。といっても喰らった事は一度も無いから想像でしかないんだけど。
「ここは一体……」
照明は薄暗く窓のような物もここからは見当たらない。どこかの倉庫にでも閉じ込められているのかも。
ついでに手足はロープのような物で縛られていて自由に身動きは取れそうにない。これじゃ助けを呼ぶどころか近くを探索することすら困難だ。
「スミレさん…?」
「ハルアちゃん!?こんな所で何してるのよ!?…ってその様子、私と一緒か」
「はい。突然後ろから誰かに襲われて……」
やっぱり私と一緒だ。一体誰がこんなことを……。
「それに同じ目に遭った人は私達だけじゃないみたいで」
改めて周囲を確認してみると私達と同じように手足を縛られた女性達が捕まっている。それも私達と同じ美人で歳頃の女性ばかり。
「これってもしかして、巷で流行ってるって噂の神隠し?」
あの時は他人事のように聞いていたけど、まさか自分が当事者になるだなんて。でも状況から察する感じ、神に誘拐されたってよりはただの人攫いな気がする。ここがとても天国には思えないし、地獄だとしてもぬる過ぎるもの。
「一体これから私達はどうなるんでしょうか?……」
「分からない。だけど碌な事じゃないの確かね」
人攫いの考えてる事だなんて想像もしたくないけど、これから私達に起きそうなことは不思議と想像出来てしまう。
「あの、」
「ん?」
「スミレさんはどうしてそんなに冷静にいられるんですか?私はとても……」
自分でも正直驚いている。こんな状況だってのに不思議と怖いとは全く思ってないんだから。その理由はきっとリューと出会ったからだ。それにリューのことだからきっと今頃…。
「それが普通よ。てか私もアイドルなんだからハルアちゃんみたいに怖がらなきゃね」
「アイドル?…」
「人を笑顔にする仕事のことよ。その為にもまずは、ここから逃げる方法を探さないとね」
「でもどうやって?」
「こうすんのよ。……ふんっ!!」
私は渾身の力で腕を縛っていた紐を引きちぎってみせる。
「えぇ!?」
その気になれば面白いように紐がちぎれていく。
「(この感じちょっと気持ちいいかも)」
スミレはさらに足の紐まで引きちぎると、ハルアや他の人質達の紐まで引きちぎっていく。どうやら私は自分が思っている以上に強くなっているみたいだ。これなら誘拐犯なんて怖くはない。
「さぁ、みんな一緒に逃げるわよ」
「あ、はい!」
誘拐されたというのに驚くほど堂々としているスミレに呆気を取られるハルア達。
「なんの騒ぎだ?……なっ!?」
人質達の様子を見に来た男達は自由になっているスミレ達を見ると、分かりやすいほどに慌てだす。
「コイツらなんで?…おいお前ら、ちゃんと縛っておかなかったのか!?」
「縛った!」
「オラも縛った!!」
「じゃあどうして自由になってるんだよ!!こんなの親分にバレたら大変だぞ〜……」
なんか、悪党とは思えないほど可哀想な3人組だこと。
「誰にバレたら大変だって?」
「そんなの親分に決まって!……え?」
「まさかその声は……」
「オラ、イヤな予感するだ…」
三人揃って恐る恐る後ろを振り返ると、そこにいたのは怖いほど笑顔で笑っている親分の姿であった。
「「「親分!!!」」」
「テメェら生ぬるいことしてんじゃねえよ!!」
「「「スミマセンっ!!!」」」
先程までの笑顔は一瞬で裏返り鬼のような形相で三人を叱り続ける。あの三人には悪いけど、おかげで今は私達の事など誰も見ていない。
「スミレさん……」
「そうね。今の内逃げるわよ」
足音を立てないように男達の側を通りすがろうとするが、突然目の前に弾丸のような物私の頬を掠める。
「きゃあ!!」
「バレてないとでも?」
「マジか……」
男が人差し指を私達の方に向けると、圧縮された空気が弾丸のようになって壁を貫いた。
「今のは警告だ。次はどうなるか、分かるよな?」
男の左手には小さな杖のような物が握られている。
「アナタ、見かけによらず魔法使いなんだ……」
見た目はヤクザみたいなくせに。
「意外だったかお嬢さん?」
「まぁね。なんとなくカタギじゃないとは思ってたけど」
「そういうお嬢さんも大したもんだ。普通、死にそうになったらそんな堂々となんかしてられないぞ」
「それはどうも」
男の威圧感にやられビクビクと震えるハルア達を庇ってスミレは更に一歩踏み出す。
「おいそこの女止まれ!!」
「それ以上動いたら殺すぞ」
「オラがただじゃおかないぞ!」
先程までのミスを挽回しようと三人組も飛び出してくる。
「やめろ……」
「大丈夫です親分!」
「次こせ絶対失敗しません!」
「オラ達に任せてくれだ!」
「…いいからお前らは黙ってろ!」
「「「はい……」」」
無謀に飛び出た杭は呆気なく打たれてしまった。
たった一言であれだけうるさかった三人組が大人しくなった。それにさっきの魔法といい、あの男結構の手練なのかもしれない。
「ねえ、そこの親分さん。私と取り引きしない?」
「ほう?」
「聞いていれば親分と取り引きだって?ふざけんな!」
「そうだ!自分の立場を忘れるんじゃない!」
「人質が生意気なんだ!」
「おい、黙ってろって言ったろ……」
「「「スミマセン……」」」
二度目のお叱りにとうとう三人組はダンゴムシのように丸くなってしまった。
「悪いな。話の途中だったのによ」
「気にしないで。仲間を束ねるって結構大変よね。私もグループやってるからちょっと分かるわ」
「一番上ってのはそういう役回りなんだから仕方ないのさ。で、取り引きって?」
「この子達を解放して。その代わり私はここに残るから」
あの三人組はなんとかなるとしても、いくら私がちょっと強くなってるからってこれだけの人数を守りながらあんな魔法を使う男となんてとても戦えない。でも、私だけならまだなんとかなる。と思う…。
「これから自分の身に何が起きるか分かっての発言か?」
「もちろん。覚悟の上よ」
当然何が起きようとそんなのお断り。そうなる前に逃げてやるわ。
「スミレさん何考えてるんですか!?そんなのダメですよ!」
「その子の言う通りだ。自分より他人を優先するだなんて普通そんなの有り得ないだろ」
「なら私は普通じゃないのかもね」
実際、竜王の眷属なわけだし嘘は吐いてない。
「お嬢さんとその子達は自らの命を差し出してまで守りたいと思うほどの関係なのか?」
「そう言われると別に。殆ど初対面だし」
「なんだよそれ」
スミレは髪を靡かせながらお得意のキメ顔で男に近づいていく。
「(握手会で数多のファンをイチコロにしてきた私の技を見せてやるわ)」
男の手を優しく包み込むように握りしめ、上目遣いで男の顔をじっと見つめる。
「なんのつもりだ……?」
「自分で言うのもなんだけど、ここにいる子達の中で一番かわいいのは私だと思いません?」
「まぁ、確かにそうかもな…」
男は少し満更でもない様子で笑う。
「でしょ?そんな私が残るんだから他なんているだけ無駄よ。寧ろ私なんかと比べられてあの子達が可愛いそうだわ」
「そうだなぁ……」
スミレはトドメを刺そうと耳元で何か一言囁こうとするが、男はそれを拒みスミレの額に指を突きつける。
「でも悪いな。こっちは質より量を求めてんだ」
「交渉決裂ってことかしら…?」
「そういうことだ。頭ぶち抜かれたくなきゃ大人しくしてな」
相手の気分次第で私はいつ死んでもおかしくない。私の命は男に握られているということか。映画とかで拳銃を突きつけられるシーンとかはよく見るけどこういう気持ちなのね。やっぱり思ってたより怖いわ。
でも、死にそうになったのはこれが初めてじゃない。
「いいわ。やれるもんならやってみなさいよ」
「なに?」
私は額に突きつけられた指を力強く掴み向かい合った。
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