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24、父として再び、油揚げにご注意を

閲覧感謝です!


「ったく、神隠しだ?…そんなのあるわけねぇだろうが。どいつもこいつも暇なのかよ!」


 〈キッチンワイルドキャット〉の店主ダグラスは酒に飲まれ項垂れていてた。読んでいた新聞はくしゃくしゃに丸められ、ただただ酒を浴びつづけている。


「おい、酒が無くなったぞ!酒だ、酒を持ってこい!」


 酒が無くなれば物に当たり娘をこき使う。少し前まで子煩悩と知られた男の姿はそこにはない。


「ハルア!早く買ってこいよ!!」


 店内にダグラスの怒鳴り声が響きわたる。しかしハルナからはなんの返事も返ってこない。


「おいハルア!!…いないのか。父親を放っておいてどこ行きやがった…くそっ!」


 空っぽになったグラスを地面に叩きつける。それでも空っぽになったダグラスの何かは埋まらなかった。


「ダグちゃん大変だ!!」


「あぁ?…」


 近所の酒屋を営む幼馴染ゴンバが血相を変えて店に乗り込んでくる。


「丁度いいところに来たな〜ゴンバ。酒が無くなったんだ。なんでもいいから持ってきてくれ」


「それどころじゃないんだよ!!いいか、落ち着いて聞けよ?実はな、」


「知るか。こっちは酒が無くなってイライラしてんだ。早く持ってこい」


「…オレ、見ちまったんだよ。ハルアちゃんが男達に攫われるところを!早く探さないと!」


「は?…」


 ダグラスは微かに笑いながらゴンバの胸ぐらを掴む。


「あのは、イライラしてるって言ったろ!冗談ならよそで言え。そんなことより早く酒をよこせ」


「こんな冗談言うわけないだろ!!」


 ゴンバは緩みきったダグラスの頬を思いっきり張る。


「テメェ……」


「しっかりしろよダグちゃん!お前はたった1人の父親だろ!!」


「…どうせ碌でもないオレに嫌気がさして家出でもしたんだ。アイツの母親もそうだったからな」


「そんなことならとっくの昔にハルアちゃんはお前のことなんか見限ってるよ。あの子、お前と違って頭いいからな」


「ったく、言い過ぎなんだよ。男が出来たならちゃんと言えってあれだけ言ってたのによ……」


 この時ダグラスの酔いは既に覚めていた。今頃になってあの子の笑顔や小さな頃一緒に食べた食事の思い出が頭の中を駆け回っていた。


「(まだ酔ってるのか…涙が止まらねぇ……)」


「酒なら後で好きなだけ用意してやる。だからお前の出来ることをしろよ。オレ達も手伝うからよ」


「……そうだな。だが、酒ならもういらねぇ」


 ダグラスはゴンバの肩を叩くと、そのまま店を後にしていった。


「これ以上ハルアに恥ずかしい姿は見せられねえ」


 子煩悩だった頃を忘れ、酒に飲まれてどうしようもなかった男の顔は再び子を想う父の顔へと変わった瞬間であった。


 ◇◇◇◇◇◇


 それと同じ頃、リューは人気の無い街外れにある小さな祠に訪れていた。祠の中を進むと異世界では珍しい真っ赤な鳥居が立っている。


「できることなら会いたくないのだがな……」


 その鳥居を無作法にも真ん中から突っ切ると、先程まで何も無かったはずの場所から小さな部屋へと繋がった。

 部屋の中にある家具類はこの世界の物とは思えない物ばかり。革張りのシックなソファーがあったと思えば、冷蔵庫や液晶テレビまで存在している。


「また妙な物ばかりを集めおって…」


 しかしリューはそれらの物を見ても驚くどころか呆れた様子まで浮かべている。


「僕のコレクションは気に入ってくれたかい?」


「いいや。お前と我とでは趣味が違うのでな」


 隣の部屋からバスローブ姿の男が現れると男は冷蔵庫から慣れた手つきで缶ビールを開ける。


「どう?君もたまにはさ」


「酒は口に合わん」


「そう。ならいいや」


 男は喉を鳴らしながら美味そうにビールを一気に飲み干した。


「かぁーーっ!!やっぱり酒は異世界の物に限るね〜」


「お前、昔会った時よりちょっと太ったか?」


「君は相変わらず失礼だね。まあ、事実なんだけどさ」


 男はテレビを付けると、そのままソファーに寝転がる。テレビには今日のリュードヴルム達の様子が密着ドキュメンタリー風に映し出されていた。


「盗み見とはお前こそ相変わらずだなイナリ。暇なのか?」


「そうだよ。だから君を呼んだんだ。面白い事に巻き込まれてるみたいだしさ」


 イナリは笑いながらきざんだ油揚げをスナック感覚でつまんでいる。


「だけどびっくりだよね。本来なら今頃君はとっくに眠りについている筈だろ?」


「少々事情が変わってな…」


「それってあの子が現れたからなんだろ?」


「分かってるならわざわざ聞くな」


「そうかっかしなさんな。君も食べるかい?油揚げ」


「それからは野菜の匂いがする。我は肉食だ」


「その割には肌がツヤツヤだよね〜まるで野菜でも食べて健康に気を遣ってるみたいだけど」


「触るな」


 肌を触ろうとするイナリの手を弾くと、リューもソファーの肘置きに寝転がる。少し硬めなところが逆に心地良く気持ちがいい。


「地面に寝転がるよりよっぽどいいだろ?」


「さあな。で、今日は何のようなんだ?」


「なんでそんなに焦るのさ。ここではどんなにゆっくりしたっていいって分かってるだろ?」


「いいから答えろ」


「君が人間に興味を持った事が興味深くてさ。君にとって人間はただの食料にしか過ぎなかった筈だ」


「別に。たまには他の物も食べてみたくなっただけだ」


 そう言うとリューは油揚げをつまみ始める。


「つまり今はそういう気分ってわけか」


「そういうことだ」


「ずっと気になってたんだけど君はあの子と一緒にいる時になんで姿を変えないんだい?どう考えたって君達が面倒ごとに巻き込まれるのはその姿が原因だとぼくは思うけどな」


「我の勝手だろ」


 機嫌を悪くしたリューは油揚げの入った袋を無理矢理奪い取る。


「どうしてさ?君ほどの力を持っていれば僕のように人間になることくらい容易だろ」


「お前と一緒にするな。この姿は我のプライドであり誇りなのだ!人間には絶対ならん!絶対にな!!」


 リューはイナリに執拗に詰め寄り声を荒げる。


「分かった、分かったってば!そんなむきにならなくてもいいじゃないか…」


 文句も程々にリューは奪った油揚げを全て食べ終えてしまう。


「まぁまぁだったな。ごちそうさん」


「全部食べておいてよく言うよ。僕のとっておきだったのに〜」


「このまま食べても悪くは無かったが、スミレの作る料理の方が上だな」


「なら今度は一緒においでよ。僕もあの子の作る料理を食べてみたいしさ」


「気が向いたら来てやる」


「楽しみにしてるよ」


 すると、部屋のチャイムが鳴る。


「おっ!頼んでたきつねうどんが届いたみたいだ」


「きつね、うどん?何だそれは?食べ物か?」


「僕の大好物さ。そういうことだから、うどんが伸びる前に君とはお別れだ。またね〜」


「おいっ!」


 イナリが手を振ると、一瞬でリューは部屋から弾き出され、気づいた時には祠外まで戻っていた。


「…あっちから呼んでおいて勝手に追い出しやがった。まぁ奴のことだ、碌な事など考えてないのだろうが…ん?

 」


 あの場所からスミレの反応が移動している。それにこの妙な動き、自分の判断では無さそうだな……。


「また新たな面倒ごとか。やれやれ…世話のかかる料理番だな」


 リューは小さな翼を精一杯はためかせ大空へと飛びたった。

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