22、トラブルメーカー
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「またあんなことを言って本当に良かったのか?」
「あの子のあんな姿見てたら黙ってられるわけないでしょ」
確かに不安はあるけど、後悔はしてない。あの子もあのどうしようもない店主もみんなまとめて笑顔にするって決めたんだから、もう迷ってはいられない。
その為にもまずは敵情視察よ。
「リューはお腹空いてる?」
「あの程度では腹の足しにもならんわ」
「だよね。じゃあ2軒目行くわよ」
「ほう?」
私達がやってきたのは〈キッチンワイルドキャット〉から徒歩5分の所にあるレストラン〈セレブリティー〉だ。
名前の通り、外見からとても煌びやかな出立のレストランだ。
ワイルドキャットとは実に月とすっぽん。見た目だけで既に負けている。あっちは壁に蔦まで伝っていたからね。こんな豪華絢爛な建物が近くに建っていたら、あんな店など目にも入らないだろう。高級レストランのチェーン店だけあって、財力はやっぱり敵わない。こうなれば勝負出来るのは味しかなさそう。
「どう?」
「どうとはなんだ」
「ほら、さっきみたいにいい匂いとかするの?」
「いや、何にも感じない。そんなことより本当にこんな所で食べるのか?」
「そうよ。勝負に勝つためには敵のことを知らなくちゃね」
しかし、リューはあまり乗り気では無いようだ。
「我はこんな所で腹を満たす為にお前を生かしているわけでは無いのだぞ。我はお前の料理で腹を満たしたいのだ」
「リュー……」
さらっと嬉しいこと言ってくれるじゃないの。
「ありがと。でも、それとこれとは別の話だから」
「なっ、待て!考え直せ!この店からは何か嫌な予感がするのだ!」
「行けば分かるわよ!いざ潜入!」
◇◇◇◇◇◇
店内はまるで屋敷の様。煌びやかな装飾と明らかに高そうな美術品がそこら中に飾られている。
「マーケットさんといい、金持ちはみんなこういうのが好きなのかしら」
見せたがりというか、なんというか。
ウチのメンバーにも私服が全身高級ブランドで包まれてる根っからのお嬢様がいたけど、昔からそういうの私にはよく分からないのよね。その子自体はいい子で意外と仲良くやってたんだけど、気づいた時には俳優との不倫スキャンダルが原因で卒業してしまった。それからは音信不通になって行方不明。事務所も連絡が取れなくなって困ってるってずっと嘆いてたっけ。
奥さんに刺されただなんて噂になってた時もあるけど流石にそれは無いと思う。
あの子今頃何してんだろう……って、異世界にいる私が他人の心配してる場合じゃないか。
「こちらの席にどうぞ」
「ありがとうございます」
席までエスコートしてくれた店員さんも清潔感たっぷりのイケメンだった。
リューのことも歓迎してくれたし、接客態度も文句の付け所が無いくらい完璧だった。対してあっちは髭面の巨漢オヤジで、気に食わないとすぐに水をぶっかけられる。
ダメだ。料理を食べる前から一つも勝てる点が見つからない。こんなにちゃんとした素敵なお店なら料理も美味しいに決まってる。流石は〈セレブリティー〉名前に負けず劣らずのサービスっぷりね。
メニューを開くと、噂通り値段も他の食堂とかと殆ど変わらなそう。どうりで賑わってるわけね。だけど書いてるある料理の名前が一つも分からない。こうなったら困った時の魔法の言葉を使うしかないわね。
「ご注文お決まりですか?」
「オススメを2ついただけますか?」
「オススメですね。何か苦手な食材などはございますか?」
「いえ、大丈夫です」
「畏まりました」
うわっ、何アレ。びっくりするほど完璧じゃん!しかもイケメンって、これはヤバいわ。こんなの益々勝てる気がしなくなってきた。
「お待たせしました。本日のシェフのオススメ、グランドバイソンのソテー、ラッシュベリーのソースがけでございます」
「マジ……?」
「だから言ったろ。嫌な予感がすると」
名前は高級レストランのそれっぽいし、見た目も悪くはない。大きな皿に余白を残して肉がちょこんと乗っている感じも実にそれっぽい。
なのに何故か提供されたのは真っ黒に焦げ上がった肉の塊。まるでこの前の悪夢が蘇ったようだった。
「丸こげじゃん!!」
その瞬間、側にいた店員は当然のこと近くにいた客達全員と目が合った。
「あ、えっと……」
私としたことがつい口に出てしまった。
よくよく周りを見てるとみんな同じように真っ黒に焦げた肉を実に美味しそうに召し上がっているではないか。私の分だけが不良品とかそういうわけじゃなさそう。
だったら、高級レストランらしくわざと焦がしてあるんじゃ?見た目はあえて炭のように焦がしてあるけど中身は丁度良い焼き加減になってたりして……
「オーマイガー……」
炭のようにこんがりと焼き上がった肉は、硬くて刃が通らないどころか、刃を入れた瞬間ホロホロと崩れていく。
丸こげとかどころの騒ぎではない。ただの炭だ。あっちの串焼きも相当なもんだったけどまだマシだったと思える方だ。
こうなることは心のどこかで分かっていたのかも。だとしてもちょっとは期待したいじゃない。だけどその期待は簡単に裏切られた。
マッチングアプリで知り合った人と実際会ってみたら、写真と顔が全く違うみたいな。そんな気分。アイドルだから私はやったことないけどね。
期待外れもいいところよ。
こんなの食べずとも味は分かる。というか食べていいのかしらこれ?どう考えてもこんなの全部食べたら体のどこかが悪くなるに決まってる。
「(こうなったらソースだけでも…)」
藁にもすがる思いで舐めたソースもびっくり仰天。
「甘っ!!」
これはもうソースではない。もはやソースの域を超えたただのジャム。それでもこれは甘過ぎる。パンにつけて食べるならまだしも、こんなものを肉と一緒に食べるだなんて、ここのシェフは一体何を考えているのよ。
見た目が完璧だっただけにほんと残念。あの黒焦げやきとりが美味しいと行列になる世界だもの、冷静になって考えたら分かったことよ。
「昨日から考えていたのだが、人間はこんなものをよく平気に食べれるものだな。これを作る奴もこれを美味そうに食べる奴もどうかしている」
「喋る従魔とは大変珍しい。しかし今の言動は聞き捨てなりませんね」
「(ヤバっ。聞かれてた……)」
「こんなのとはどういう意味でしょうか?」
「いや、それはですね…長っ!!」
恐る恐る振り返ってみるとびっくり。男が被っていたコック帽は天井スレスレまでに届くほど異常に長かったのだ。
「はい?」
「あの、失礼ながら帽子長すぎません?……」
「ああ、これですか。これは私のオーナーシェフとしての誇りなんです」
「誇りですか……」
「申し遅れました。私オーナーシェフのタンダドールと申します」
そういえばコック帽の長さは長ければ長いほど地位が高いとか聞いたことがある。つまりこの人は相当偉いってことになる。それにしてもこの長さは異常な気がするけど、それほどプライドも高いということかしら。
「それをアナタ方は侮辱しようとしている。その意味がお分かりですか?」
「侮辱とかそういうつもりでは……」
「では、どうしてお二方は我々が丹精込めて作った料理を一切お召し上がりにならないのですか?」
「それは、ちょっと体調が悪くなってしまって、すみません」
嫌な予感がした私は金貨数枚をテーブルに置き、そそくさと席を後にしようとする。
「少し多いようですが」
「お釣りは結構です。リューも行くわよ!」
「…つまらん。そんなものがいくらあったところで腹の足しにもならん。その程度で傷つく誇りならそこら辺のゴブリンにでも食わせておけ!」
「なに?……」
嫌な予感、当たっちゃった……。
「まぁ、ここまで焦げた肉だとゴブリンでも食わんだろうがな」
「黙って聞いていれば随分勝手な事を言うんですね」
そうよ。言い過ぎ!面倒ごとに巻き込まれたくないって言ってるのになんで余計な事を言うのよ!バカなの!?
「お言葉ですが、モンスターであるアナタに人間の食べる料理の味が分かるのですか?」
「分かるとも。それを分かっていないのは寧ろお前達人間の方だろう。大体これを料理とは呼ばん」
隣で頭を抱える私をリューは全く気にしていない。
「ではなんなんでしょうか?」
「ゴミだな。ゴミ!」
「(リューのバカ……。いくら嘘がつけないからってもっと言い方があるでしょ…あーーどうしよう……)」
店内の空気は一瞬で凍りつき私達にとってアウェーな空間へと変貌した。
「私達の作った料理をゴミと一緒にされるとは…こんな屈辱は初めてです!!」
今まで冷静さを保っていた男もとうとう声を荒げた。
「すみませんでした!今のはちょっとした言葉の文みたいなもので、ほら、リューも謝って!」
「断る。これでは命を奪われたモンスター達が報われん。それこそ侮辱以外のなにものでもない!」
リューってばっ!こういう時くらい言うこと聞いてよね!!
「スミレ、お前だって同じことを思っている筈だろ?毎回食事の時にわざわざ手を合わせるのだって、奪われた命に対して祈りを捧げているからじゃないのか」
「それはさ……」
ここで私に振らないでよ!ほら、怖い顔してめっちゃ見てる!
「従魔は従者と一心同体。故に従魔が問題を起こせばその責任は従者にある。我々を侮辱した責任は如何されるおつもりですか?」
「責任!?そんな大袈裟な……!」
どうしよう。リューが喋れば喋るほど事が大きく膨らんでいく。
「ならばその責任、我らとの勝負に勝ったなら好きなだけとってやろう」
「勝負?」
「そうだ。近くに〈キッチンワイルドキャット〉という名の店があるだろ。そこでお前達と我らの料理勝、」
「それ以上はダメーっ!!」
私は慌ててリューの口を両手で塞ぐ。
「ふぉい、ふぁひふをふるっ!!(おい、何をするっ!!)」
「いいから黙ってて!!」
「ふぉれはかなふぁずかふぇるひょうぶだぞ。ふぁぜふぃげる!?(これは必ず勝てる勝負だぞ!何故逃げる!?)」
「そういう問題じゃないのよ!」
ただでさえ面倒なのに、料理勝負なんてこれ以上付き合ってられないわよ。
「なんですって?よく聞こえないんだが、」
「聞こえなくていいです!すみません!ごめんなさい!とにかく今日のことは全部忘れてください!失礼します!!」
「ふぉいっ!」
スミレはリューを強引に連れて、逃げるように店を去っていった。
「なんだったんだアレは……」
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