21、私は涙を流しても誰かの涙は見たくない
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「本当にこんな所でメシを済ませるつもりなのか?」
リューの疑問もごもっともだ。店に入って早々いきなり水をかけられた。普通だったらそんな店に長居する理由なんかこれっぽっちも無い。
「まぁ、お手並み拝見ってやつよ」
私相手にこれだけのことをした店主が作る料理がどれ程の物なのか率直に気になる。後は単純にお腹が空いた。正直今は食べれるならなんでもいい。
「お待たせしました!!」
席に座って待つこと早十分。
ようやく私のもとに料理が運ばれてきた。
「(さて、どんな物を食べさせてくれるのかしら?)」
「当店自慢の逸品、ギガントバードの家族どんぶりです!」
これは……なんかみたことのある見た目をしている料理だこと。肉と玉ねぎが卵と一緒にご飯の上に乗っている。
見れば見るほど私の知っているとある料理によく似ている。やっぱりこれは家族どんぶりっていうより、
「親子丼ね」
「え?」
「あ、いや、私もこれとよく似た料理を知っていたので」
「そうなんですね。これは父の故郷に古くから伝わる家庭料理の一つなんです」
へぇ〜。やきとりならまだしも、まさか親子丼までこの世界に存在するとはね。
前々から薄っすらとは感じていたけど、この世界の食文化や食材は日本とよく似ているように感じる。でもまだ発展途上なのだろう。それは食べずとも分かる。
前回の丸こげやきとりは基、火を通し過ぎてカチカチに固まった卵と、死んだように項垂れたしんなりし過ぎた玉ねぎがその証拠だ。
でも驚くべきなのはそこではない。
重要なのは異世界にも米があったという事実だ。これはとんでもない発見よ!
「うぅぅ……!」
「え?」
まさか米を見て涙を流す日が来るなんて夢にも思わなかった。
どんぶりの中からひっそりと見え隠れする、照れ屋の白米さん。こんな所で再会出来るだなんて、日本人として実に誇らしいわ。
「なぜ泣く必要がある。まだ食べてもないのだぞ」
「そうですよ。そんなにお腹が空いていたんですか?」
「うぅうぅ……どっちも〜!!……」
「やれやれ、怒ったり泣いたり忙しい奴だな…」
この一瞬で様々な感情が入り乱れて、最早なんでこんなに涙を流しながら喜んでいるのかも分からなくなってきた。
程なくして私は落ち着きを取り戻し、ようやく親子丼に手を付ける。
「……いただきます」
軽く深呼吸を済ませて、いざ白米との再会!私の柄にも無く大口を開けて親子丼を頬張ってみせる。
「…………」
「どうですか?」
そんな期待されても困る。
「うん……そうね。うん、美味しいと思うわ」
「ありがとうございます!」
店主やその娘さんが見ている手前、ああ言ったが本当はあまり美味しくはなかった。見た目は親子丼だが味は全くの別物。だが決して食べれなくはない。
ただ見た目通り卵はカチカチで親子丼特有のあのふわふわとろとろ感が全く感じれない。肉も玉ねぎも似たような物で全体的に火を通し過ぎている。それに白米についても少々期待しすぎていたのかもしれない。やはり日本の米と違い、異世界の米は海外の米のように粒が細くパサつきが気になる。
ここは異世界だ。日本と同じ物を想像していた私が悪いのよ。
だけどちょっと期待外れ。
しかし言わずもがな、それらの点を踏まえてもこの前の丸こげ串焼きと比べれば完成度はこちらの方がはるかに上だ。だってこっちは食べれるもの。対してはあれは人間が食べるような物では無かった。
あの串焼き屋だって相当儲けていたのだからこの食堂が人気だったのは容易に頷ける。となると、店に客が来なくなったのは味が原因ってわけじゃないのかも。多分、一つは店の見た目ね。店構えがあんなんじゃ寄りつく客も寄りつかない。まずは掃除からしなくちゃね。
「リューはどうだった?」
「……まあまあだな。だがおかわりは必要無いぞ」
リューも私と同意見ってところかしら。だけどあんな風に言ってる割には米一粒どんぶりには残っていない。
嘘が苦手なリューが吐き出さなかっただけマシだったってことね。
だからこれはある意味ラッキーと言える。これだけ親子丼のベースが出来ているのなら、店の建て直しは案外難しくないかもしれない。
幸い親子丼のレシピは私も持っているしさほど難しくはないから。
「ごちそうさまでした。あの、少しお話いいでしょうか?」
「はい。なんでしょうか?」
無事親子丼を完食した私達は久しぶりの客に嬉しそうな笑顔を見せるハルアを前にいよいよ本題に入る。
「あの、実は私達客ではないんです」
「え、」
それを聞いた途端、店主達の顔色が一変する。ハルアに至ってはさすまたのようなものまで持ち出す始末だ。
「待ってください!だとしてもちゃんとお金は支払いしますから!ほら、見て!」
私は誠意を見せる為にも親子丼の値段以上の価値がある金貨を見せつける。
「じゃあ、なんなんですか?……」
今ので完全に怪しまれてる。私としたことがちょっと話題の切り出し方を間違えたかもしれない。
「私達がここに来たのはマーケットさんに頼まれたからなんです」
「アイツが?……」
マーケットの名前を聞いて、店主は一歩前へ出てくる。
「おい、嘘を吐くならもっと上手い嘘を吐いたらどうなんだ?」
おいって失礼な人ね。
「スミレです。こっちのドラゴンはリュー。これからは名前で呼んでください」
「ドラゴンね…それすら怪しいのにお前の話が信じられるわけねぇだろ」
「嘘じゃありません。信じられないと言うのなら直接マーケットさんに確認して貰っても構いません」
「女のくせに生意気言いやがって……」
出た出た。男っていつもピンチになると決まってこう言うのよね。だったらこっちも強気で行かなくては失礼だ。
「(こう見えても目力には自信があるんだから!)」
倍ほどある大きな体と怖い顔で睨みつける店主をスミレはものともせず、ただただ無言で店主の顔をじっと見つめる。
「チッ……」
先に目を背けたのは店主の方だった。
「(勝った……)」
「大体な、アイツと俺の関係はもう終わってるんだよ。それなのに一体何を頼まれたって言うんだ」
「それは、」
「もしかして借金の催促ですか?」
「いえ、そんなんじゃなくて」
「それならちゃんと来月には滞納分も纏めてお支払いしますので、もう少し待ってください!」
私の話を遮ってまでハルアは私に頭を下げて懇願する。切羽詰まってるのは分かるけど人の話は最後まで聞いてほしいな。
「だから、そうじゃなくて」
「足りない分は私の体を売ってでも必ずお支払いします!だからこの店だけは奪わないでください!!」
私に必死に懇願する彼女の瞳には涙が溜まっているように見えた。
「あの、」
「お願いします。お願いします!!」
呆れた。父親よりも先に娘が謝ることにも驚いてたのに、ここまで娘に言わせるだなんて。この人がマーケットさんにどれだけの貸しを作ってるかなんて知らないけど、正直見てられないわ。
それをさぞ当たり前のように黙って見てるこの男の顔は特にね。
「あのっ!!」
「はい……」
「待ちますよ」
「ほ、本当ですか!?」
「もちろん。だって私は借金の催促に来たわけじゃありませんから」
「え、……」
「じゃあ何しに来たんだよ?」
その言葉を待ってました。これでようやく本題を話せる。
「私はこの店を立て直しに来たんです」
「立て直すだ?…」
「はい。私が必ずこの店に活気を取り戻して見せます。そして二度と娘さんにあんなことを言わせはしません!!」
「スミレさん……」
「店を立て直すだ?……ふざけんな!素人が好きかって言いやがって、さっさと帰りやがれ!」
激昂した店主は私の空のコップを投げつける。
だがスミレは顔色一つ変えないまま投げつけられたコップをキャッチすると、優しく机の上に置く。
「お前……」
勢いよく投げられたコップもその時だけはスローモーションのようになって見えた。これもリューの眷属になったおかげだ。
「言われなくても今日の所は帰ります。また来ます。ハルアちゃんも今日はありがとね」
1枚金貨をテーブルに置き、私はそのまま店を後にした。
「2度と来んな!!ハルア!塩撒け、塩!!」
最初は嫌々でこんな頼み断るつもりだった。ここまで来たのも断る理由を探してたから。だけど今は違う。
必要も無い涙を流す人が私は大嫌い。子供の頃の私の周りがそうだったから。
だから私はアイドルになったんだ。そんな人をちょっとでも笑顔に出来たならと思ったから。
だから私はアイドルとして、彼女もその父親もみんな纏めて笑顔にしてみせる!
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