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20、ぶっかけでびしょびしょ

閲覧感謝です!


「えっと、ここら辺だと思うんだけどな〜」


 私達はマーケットから聞いた情報を元にとある食堂を目指していた。


 ――


「食堂を立て直してほしい!?」


「はい。どうかお力を貸して頂けませんか?」


「いや、私そういうのは……」


「お願いします!もうスミレ様に頼るしか方法が無いのです」 


 マーケットの必死な説得に折れた私は取り敢えず話だけを聞いてみることに。


 端的に説明するとマーケットさんの友人が経営している食堂が今にも潰れかけていて、それを私の力でなんとかして欲しいというものだった。


 数年前までは王都の中でも5本の指に入る名店として連日大行列の人気店だったらしい。


 しかし、近くに貴族御用達の高級レストランが庶民向けに低価格を売りにした店をオープンしたことで状況が一変。

 他の店とほぼ変わらない値段で、貴族と同じ物が食べれるという点が庶民に大受けしたらしい。


 それが原因でマーケットさんの知り合いの食堂からは行列も消え、今では店に入ってくる客も殆どいなくなったそうだ。


 ――


「お前はお人好しだな。嫌なら断ればいいものを、こんな面倒な事をあんな簡単に引き受けおって」


「あの空気で断れるわけないでしょ」


 あっちもそれが分かっててあのタイミングでわざわざ話をしたんだろう。流石は商人よね。あー見えてもやることちゃんとやってるんだから。ズル賢いというかなんというか…


「それにマーケットさんも友人の危機を放っておけないのよ」


「そうか?大分借金があるみたいだからな、それを返して欲しいだけだろ」


「かもね…」


 だとしても芸能人が考案したレシピで潰れかけの店を救うか。まるでバラエティー番組の企画みたいで、ちょっとワクワクしてる。

 実はこういう企画、一度やってみたかったのよね〜。


 目的の食堂に向かっている最中、井戸端会議をしているおばさん達から少し気になる噂が聞こえてくる。


「奥さん聞いた?神隠しの話」

「聞いたわよ。最近年頃の女の子が突然いなくなるってやつでしょ?本当物騒な世の中になったものね〜」

「もしかしたら今度は私達の番かもしれないわよ?」

「「や〜ね〜!あはあは!!」」



 神隠しか…モンスターも魔法も当たり前の異世界だけど、都市伝説みたいなのはどこにでもあるものね。まぁこれもただの噂でしょうけど。

 私には関係ない話だ。


「おい、さっき言ってたのってここじゃないか?」


「え?ほんとだ。ここよ、私達が探してた食堂は」


 どうやら目の前のここが私達が目指していた食堂らしい。〈キッチンワイルドキャット〉店の名前も聞いていた通りだ。


 しかし、店の看板も薄汚れ、建物の外観もとても食堂とは思えないほど見窄らしい酷い有様だ。経営難に陥ってから店の質も大きく下がったとは聞いてたけど、まさかここまでとはね……。


「だけどよくここだって分かったじゃない。パッと見じゃ分からないのに」  


 実際、素通りしかけたし。


「薄っすらだが、中からいい匂いがした」


「匂い?…何も香らないけど?」


「人間には分からん。しかし、竜王である我には分かるものがあるということだ。分かったか?」


「はいはい。分かったから行くわよ」


 リューのいつものくだりを軽くあしらいながら、私達は店へと足を踏み入れた。私もだんだんリューの扱い方が分かってきた。


「すみませーん」


 声をかけてみても一向に返事が返ってくる気配はない。


「あのー、誰かいらっしゃいませんか〜?」


 しかし、私がいくら声を張り上げても返事は全く返ってこない。


「もしかして留守?」 


「それはない。気配はある」


「そうなの?なら、店の奥にいるとか?」 


「いや、お前の後ろだ」


「後ろ?」


 リューは何を言ってるのかしら。私が入ってからこの店には誰も入ってきていない。なのに出入り口の方向に人なんているわけが……。


 振り返った先にいたのは、顔が金色に覆われた女らしき人の姿だった。


「きゃあ〜〜〜〜!!!」


 私は恐怖のあまり大声をあげ、思わず尻もちをついて倒れてしまう。 


「ウソ…幽霊!?マジ無理!そういうのだけはマジで無理だから!!」


「落ち着けスミレ!目の前のは幽霊とやらではない!」


「あの、大丈夫ですか?」


「え?……」


 幽霊が喋った……。いや、本当に幽霊じゃない?

 よく見たらちゃんと脚ももあるし、金色に見えた顔も長い金髪に覆われているだけだ。


「すみません。驚かしてしまったみたいで」


「えっと、人間だよね……?」


「はい。もちろんです」


 だよね〜良かった。それにさっきまでは顔が髪に覆われていてよくわからなかったけど、よく見たらこの子めちゃくちゃかわいい!


 食べちゃいたいくらい!


 同業者だと言われても信じて疑わないくらいのとんでもない顔面偏差値。こんなかわいい子を幽霊なんかと一緒にした自分が恥ずかしいわ。


「もしかしてこのお店の店員さん?」


「やっぱりお客さんなんですね!嬉しい!ウチは従魔の方も大歓迎です!」


「え、あ、いや、」


「お好きな席にどうぞ。お父さん、お客さんだよ!!」


 困ったわね。今更客じゃないなんて言える空気じゃない。


「お父さんってば!!」  


「うるさいな……ハルア、朝っぱらから騒ぎやがって、ちょっとは静かにしろ」


 店の奥から無精髭を豪快に生やした巨漢が渋々姿を見せる。


「お父さん!ほら、お客さんだよ!」


「客?」


「どうも…」


 私を見るや否や、店主らしき巨漢は花瓶に生けられた花を捨て、花瓶の水を私にぶっかけた。


「帰れ」


「ちょっとお父さん!!」


「…………マジ?」


 ドッキリ?いや、ドッキリでも今更こんなのコンプラ的にあり得ない。なんなのよこのおじさん。会って早々いきなり水をかけられるとかあり得ないでしょ!


 あーーなんかイライラしてきた。


「すみません!今すぐ何か拭けるような物持ってきますから!」


「いや、結構です」


「え?」


 私はビショビショに濡れた髪を掻き上げると、そのまま席に座る。


「オススメを2つください」


「なに?……」 


「え、食べてってくれるんですか?……」


「もちろん。これでも一応客なんで」


「はい!喜んで!!」


 ハルアと呼ばれた少女は嬉しそうに店主を連れてキッチンへと消えていく。


 逆に清々した気分。こうなったらとことんまで付き合ってやるわ。

ここまで閲覧頂き誠にありがとうございます。


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