2、華麗なカレーに酔いしれて
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「私なんかよりもっと美味しい物を食べさせてあげる!!」
「なに?……」
その瞬間、私の必死の叫びがドラゴンの顎を閉じさせなかった。
「だから、私を食べないで……」
「その言葉嘘ではなかろうな?」
「も、もちろん!」
「…良かろう。お前を食べるのはそのもっと美味しい物とやらを食べてからにしてやる」
とは言ったものの、咄嗟にあんなこと言って本当に良かったのかな〜!?
でも、おかげでなんとか首の皮一枚繋がった。上手くいくとか行かないとかじゃない。死にたく無かったらやるしかない。
なんとしてでも生きて元の世界に帰ってやるんだから!
「だけどその代わり約束して。私の料理で満足したら私を絶対に食べないって」
「いいだろう、考えてやる」
「絶対だからね!」
「だが、何を作るつもりだ?」
問題はそこなのよね。
パッと見た感じ、野菜はなんとかなりそう。この世界の野菜は私が知っている野菜とそっくりだ。
「ねぇ、ここにある野菜は好きに使っていいのよね?」
「野菜は食わんと言っておるだろう」
「使っていいの?それともダメなの?」
「見た目と違って強情な女だ。好きにしろ。それでどうなっても知らんがな」
でもどうたものかしら。確かにこの調子じゃ野菜を使った料理なんか出したらもっと怒らせそう。
それに、包丁も道具も無いからやれる事は限られてくるし、このままじゃ野菜をちぎっただけのサラダくらいしか思いつかない。
「さっきまでの威勢はどうした?もう諦めるのか?」
「諦めないわよ。考えてるからちょっと黙ってて……」
必死に頭を抱えながら何とか他の方法を模索しようとする。
「ん?…」
すると、ちょっと奥にガラクタが不法投棄されたような場所を見つけた。
「ねぇ、あれってただのゴミ?」
「似たような物だ。この地は少々特殊でな、偶に異世界からの漂着物が流れ着く。まぁ、お前のような人間が流れ着くのは初めてだがな」
「異世界からの…もしかして使えるかも!」
「おい、そんな物どうするつもりだ!」
私は慌ててその場を漁り出す。
本当に誰かが捨てたあとみたいだ。古くなったテレビや壊れていそうな洗濯機。何に使ったか分からない謎の部品まで、とにかくなんでもござれって感じだ。
「何か、何かないの……!」
すすだらけの洋服に、焼けこげたブルーシート。バーベキューでも失敗したあとだろうか。
それらのガラクタを退かしていると、奥からゴツい形のケースが見つかった。
「このケースのロゴってよくアウトドアショップで見るやつだわ!お願いだから中身は無事でありますように!」
私は期待を膨らませながらケースを開ける。
なんとケースの中は私の期待に応えるように大量のキャンプグッズが敷き詰められていた。
しかも全部未使用だ。
皿にコップ。木製のまな板、携帯ナイフ。カセットコンロまで料理に使う物ならなんでも揃ってる。
「これならいけるわ!」
それに、キャンプケースのあった場所の近くには幾つもの調味料などが入っているケースも見つかった。これは何回か使った形跡があるけど、まだ全然使えそう。もしかしたらキャンプブームに飽きた人が捨てたヤツだったりするのかも。
「キャンプだもんね。一緒にあると思ったのよ!」
これを使えば私は卑怯なのかもしれない。命がかかってるんだもの。このくらい許されるわよね。献立に困った主婦の味方、カレールー(中辛)!!
「勝った…」
「何を勝手に決めておる。まだ何も出しておらんだろうが」
そうだった。勝負はこれからだ。
「待ってなさい。アナタの野菜嫌い、私が治してあげるわ!」
「ほう…大した自信だな。やれるものならやってみろ!」
やってやるわよ。私の技術とメーカーの企業努力、味合わせてやる!
まずは、ジャガイモ、ニンジン、タマネギはできるだけ細かくきざんでおく。そしてナス、カボチャ、ピーマンは食べ応えのおる大きさに切り分けておく。
「ほんと、野菜が知ってるものばっかりで良かった」
「お前の世界でも同じ野菜があるのか?」
「まぁね。味は食べてないから分からないけど、見た目は本当にそっくり」
「そうか。もしかすれば、お前さんのいた世界とこの世界は何か繋がりがあるのかもしれんな」
「そうなの!?」
「知らんけど」
ドラゴンのくせにどこで覚えたのよそんな言葉。
まぁいいわ。今は料理に集中しないと。
カセットコンロの火をつけて、大きめのクッカーには油と、ナス以外の野菜を入れて炒めていく。
ちょっと前に番組の企画でキャンプグッズを使ったキャンプレシピを提案した事があったから、ある程度のグッズの使い方は分かってる。そもそもそんなに難しくは無いしね。
「本当に野菜を使うのか?」
「そうよ。これしかないんだから我慢して」
「野菜を使った料理とやらで我を満足させられると思っているとは、随分と舐められたものだ」
それはこっちのセリフよ。カレーがどれだけの野菜嫌いの子供達に好かれてきたか目にもの見せてやるわ!
野菜には塩を振っておく。これによって野菜から水分が脱水して火が通りやすくなり、更に旨味も凝縮する。
普通に作ってもつまらないからね。私が作るのは名付けて、たった一日で2日目の野菜カレーよ!
本当ならご飯があれば尚良いんだけど、流石に米までは見当たらない。
だからご飯なしでも食べれるように満足感のあるドロっとしたスープカレー風に仕上げるつもりだ。
どうして2日目のカレーが美味しいか知ってる?それは火が通った野菜が時間経過と共にルーに溶け込むから。
それなら最初からよく火を通して煮込めば、それっぽくなるってわけ。
「おのれ…野菜のくせになんだかいい香りがしてきたぞ」
「まだまだ、驚くのはこれからよ」
「なに!?」
「ねぇ、水ってどこにある?」
「そこの湧き水を使え。この森の自然と精霊が作り出した奇跡の湧き水だ。本来、人間などが使っていいものでは」
「へぇー、そんなにいいものなんだ。でもいいでしょ。食べるのはアナタなんだから」
「ま、まぁな…」
どんな凄いものだろうが知ったことでは無い。躊躇なく湧き水をクッカーに注ぎそのままじっくりと煮込んでいく。
「まだ待たせるつもりか?」
「まだまだよ。最低でも1時間くらいは煮込むつもりだから」
「い、1時間だと!?そんなに待つのか!?」
「ええ」
「ふざけるな!そんなに我を待たせるとは何のつもりだ!!」
怒号と共に眼光を鋭く尖らせ凄むドラゴン。
さっきまでとは明らかに気迫が変わったのが分かる。
正直、今からでも逃げ出したいくらい。
だけど、
「……そんなの決まってる。死にたくないからよ!!」
「貴様…」
だけどここで逃げたら全てが台無しになる。私が売れるために勉強した料理の技術を、生きるために使う。
「いいから黙って待ってなさい。アンタの野菜嫌いも一緒に克服させてあげるから」
「フッ……ここまで言っておいて我を満足させられなかった時のお前の表情が楽しみだな」
言ってなさい。そうしてられるのも今の内よ。
そうこうしていると、鍋に火をかけ続け約1時間程が経過しようとしている。
その間も少しずつ灰汁を取り除きじっくりと煮込み続けたことで水には野菜の旨みと出汁が染み渡った黄金色の濃厚なスープが完成した。
野菜と水の相性が良かったみたい。こんな短時間でここまで野菜がスープに溶け込むなんて、やっぱり精霊とやらの特別な天然水のおかげかも。
「ようやく完成か。にしてもただの野菜がここまで水と一体になるとはな」
「まだよ」
「まだ!?これ以上煮込んで何を作るつもりなのだ!?」
「寧ろ本番はこっからなんだから」
野菜が溶け込んだスープにいよいよ市販のカレールーを入れていく。後は、度々混ぜながらルーにとろみが出てくるまで煮込んでいけば殆ど完成だ。
「色が変わった…それに何だこの胃袋を刺激する匂いは!?」
「お腹空いてきたでしょ?」
「ま、まぁな……」
やっぱりカレーって偉大だ。この食欲をそそる魔性の匂いはドラゴンであっても効果的面らしい。
「そろそろね」
野菜嫌いに野菜を食べさせるにはまず形を残さないのが手っ取り早い。
だから私はルーに野菜を溶かしその姿を隠した。見た目も味も分からないほどに。
だけどそれじゃ野菜嫌いを克服できたとは言えない。野菜を食べた気になっていなければ本当に克服したとは考えられないからだ。
そこで私はトッピングとして、予め軽く焦げ目が付く程度に焼いておいたナス、カボチャ、ピーマンを堂々と盛り付ける事を考えたの。
こうしたほうが野菜を美味しく食べれたって実感が湧いて克服しやすくなるのよね。
「よし完成!」
「おおっ!」
「名付けて〈野菜溶け込むスープ風カレー〜焼き野菜添えて〜〉って感じかな?」
「これがカレー。肉どころか上にのっている野菜以外、他に具が入ってないではないか。こんなので我が満足すると本気で思っているのか?」
そんな言葉と裏腹に盛り付けられたカレーを目の前に、ドラゴンは食べる前からヨダレをダラダラと流している。
「いいから食べてみて」
「仕方ない。で、これはどうやって食べればよいのだ?」
「そんなのスプーンで、って無理よね……」
ドラゴンのこの巨大な手に人間ようのスプーンは小さいし、持ちづらそう。仕方ない。こんなことするの、私も子供だった時にしてもらって以来だけど…。
「じゃあ特別に私が食べさせてあげる。はい、あ〜ん♡」
こんなの素の自分じゃやってられない。
だからアイドルモード全開でいっその事このドラゴンを落としてやる。
「ば、バカにするでない!我は竜王だぞ!食事くらい一人で、」
「いいから。素直になって。お腹空いてるんでしょ?」
「よ、よせ!よさんか!」
「早く食べないと冷めちゃうよ。ほら、あ〜ん」
甘い声で執拗に誘惑する純恋に、竜王もとうとう押し切られる。
「こ、これは!……」
「どう?」
「よこせ」
一口カレーを食べた瞬間、竜王の様子が一変し純恋から容器ごとカレーを奪い取る。
「ちょっと!?」
「もう面倒だ!」
竜王は皿ごとカレーを一口で頬張った。
バリンバリンと口の中から皿が割れる音が聞こえる。
「ぐうぅっ……」
「だ、大丈夫?皿なんか一緒に食べるからよ」
「…美味い。美味いぞおおおおっ!!」
竜王は口から炎を吹き出しながら空高く叫んだ。
「こんな美味いもの初めて食べたぞ!これが野菜か!?信じられん!」
「良かった。意外と野菜も美味しいでしょ?」
「ああ。上にのっていた色とりどりの野菜も実に香ばしく、カレーとやらと実に相性がいい。こんなにも野菜が美味かったとは……」
気に入ってもらえて何より。これで他の野菜も好きになってくれるといいけどな。
「この世にこんなにも濃厚で奥深いの味がする食べ物がこの世にあるなんて。しかもほんのりと口の中を刺激するこの痛みは一体なんなのだ!?」
「もしかして辛いの苦手だった?中辛だからそこまで辛くは無かったと思うけど」
「辛い…そうか。これが噂に聞く辛味というやつか!」
「辛いの食べるの初めてなの?」
「当然だ。普通の奴はこんな刺激物、好んで食べようとは思わん。食べるのは人間とバカだけだ」
バカって……まぁ、否定できないかも。確かに言われてみれば変だよね。
辛くて苦しい思いをお金を払ってまで味わおうとするんだから、冷静に考えたら正気ではないのかもしれない。
「だが、初めてこれを好む人間の気持ちが分かった気がする。こういうのも悪くない」
「でしょ?」
「我は気に入ったぞ。このカレーを!!」
良かった。これで私も食べられなくて済みそうだ……。
「女!おかわりはあるか?」
「あるけど、」
「よし全ていただこう!」
「待った!」
今度はカレーの入った鍋ごと食らおうとする竜王を慌てて止める。
「何だ!?」
「食べるのはいいけど、容器ごと食べないで。まだ使うかもしれないんだから」
「仕方ない…だったらお前が食べさせろ」
「しょうがないわね…じゃあ口開けて」
「あーーーん」
竜王は上向きに口を大きく開け、そこからカレーを口目掛けて流し込む。まるで何かの餌付けのようだ。
「やっぱり美味いぞ!!」
「じゃあ私も、」
「それも我によこせ」
余程このカレーを気に入ったのか竜王は私の分のカレーにまで手をつけようとする。
「ダメよ!これは私の分。さっきあれだけ食べたでしょ!?」
「まだ足りん」
「でも我慢して。私だってこの世界に来てまだ何も食べてないんだから」
「……仕方ない。特別に許してやろう。だが一杯だけだぞ」
何様よ。私が作ったカレーなのに……。
まぁいいわ。なんだか一息ついたら私もお腹空いちゃった。
「いただきます!……美味しい〜!!!」
煮崩れた野菜と旨味が溶け込んだルーが疲れ切った体に沁みるようだ。
トッピングのナスも具材としていい活躍をしている。後からほんのりと感じる辛味が更に食欲をそそる。
不思議。こんなにカレーって美味しかったっけ?
こんなの食べたら、自然と笑顔になっちゃう〜!!
「!!……」
アイドルが見せる満面の笑み。これは演技でも化粧ないまっさらな素顔。
この世界でもまた一人、いや、一体。彼女の虜になってしまったことを本人も彼女もまだ知らなかった。
「自分で作ったくせに、我より美味そうに食べるではないか」
「自分で作ったんだから当然でしょ?」
「意味が分からん」
私だって最初は料理なんて全く出来なかったし、正直する気もなかった。
料理をするようになったのはアイドルとして売れる為の武器が欲しかったから。ただの下心。そうでも無ければ一生料理をしようだなんて思わなかったかもしれない。
そういえば、私が初めて作ったのもカレーだったけな。
あの時は今日みたいな工夫も全くなくて、ただ箱の裏面に書いてある通りに作っただけ。
それなのに不思議と普通に作ったカレーがどんなレストランで食べたカレーよりも美味しく感じた。
それから私は料理を好きになっていった。
「アナタも料理をしてみたら分かるわよ。私の気持ちが」
「いや、結構。分かりたくもない」
「あっそ。ならいいわ」
なんなのよ。ちょっとは分かるいい奴だと思ったのに……。
「だが、我はお前の事をとても気に入ったぞ」
「ありがとう。じゃあ、これで私は助かったのよね?」
「だから決めた。我はお前を喰らう!」
え!?今なんて言った?
「何よそれ。私の料理を気にいってくれたんじゃないの!?」
「ああ。気に入った。だから気になるのだ。このような美味い料理を作る人間がどんな味なのかますます興味深い!」
「ちょっと待ってよ!それじゃ話が違うわ!」
「違わん。我はあの時、考えると言っただけ。それでこれが考えた結果だ」
確かに言われてみればそんな事言ってた気がするけど、そんなのただの屁理屈よ。
「その顔、まだ納得できていないようだな」
「当たり前でしょ!」
「…だったらこうしようではないか。お前は我の料理番となり、今後、我の全ての食事はお前が作れ」
「私が?……」
「その間は生かしておいてやる。この世界での暮らしも我が助けてやろう。しかし一度でも我の舌を満足させられなければ、その時は分かるな?」
よっぽど私の料理が気に入ってくれたのね。だけど複雑な気分。私を脅してまで、私の料理が食べたいだなんて狂ってる。
「もしも私が断ったら?……」
「その時はここでお前を喰らうだけ。それをお前が望むのなら我はそれでも構わない。どうぞ断ってくれ」
私が断れないって分かってくるくせに。こんなの選択肢があるようで選択肢なんか最初から存在しないのだ。
私だって死にたくない。
「……分かったわよ」
「何が分かったのだ?」
コイツ……。
「だから、アンタの料理番になるって言ってんの!」
「良い選択だ。我もその選択を受け入れよう!」
すると竜王の周りが赤くが輝きだし、それに共鳴するように私の体が火照り熱くなっていく。
「何よ、これ、急に体が…」
「安心しろ。すぐに治る」
「何したのよ?……」
「たった今より、お前を我の眷属とした。これでお前は我の許可無しに何たりとも死ぬことはできない。勝手に死なれては困るからな」
「それっていいことなわけ?」
「好きに解釈しろ」
自ら命を絶って逃げる事も、誰かによって命を落とすことも私はできなくなった。つまりはもう私を逃がさないって意味か。
とんだサイコパスなストーカーね。でもこの際丁度良かったかも。
「…良かった」
「なに?」
「上等よ。これで死なずに済むんでしょ。私は生きて必ず元の世界に帰ってみせる」
これが私のこの世界での生きる理由だ。
「やはりお前は強情な女だ。そういえばまだお前の名前を聞いていなかったな」
「そういうのは尋ねる方が先に名前を名乗るのが筋なんじゃなくて?」
「フッ。我相手によく言うものだ。良かろう。我の名はリュードヴルム。暴食を司る竜王である」
「リュードヴルム…じゃあ愛称はリューね」
「我のことをそう呼ぶのはお前が初めてだ。良い、許そう」
「私は南雲純恋。愛称はすみにゃん。この世界で1番可愛いアイドルよ」
リュードヴルムはゆっくりと手を差し出し、私もその手をぎゅっと握った。
「よろしくな。すみにゃん」
「こちらこそよろしく。リュー」
私はいつか日本に帰る夢を叶えるため、竜王の料理番として、そして眷属として、リュードヴルムと共に生きていくこととなった。
そしてこれが私達の始まりの1ページだ。
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