16、私のからあげはどこに消えた?
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材料の調達を終えた頃、既に陽は沈み辺りは暗くなっていた。
しかし今夜は満月。煌々と輝く月明かりがスポットライトのように私の周りを明るく照らしている。まるで満月までも私の料理を楽しみにしているようだ。
舞台は人気の無くなった広場。普段はそこで子供達が和気藹々と走り回ったりしてるのだろう。
夜空をバックに月明かりを受けながらクッキングとは、中々エモい。
「スミレ。準備は出来たのか?」
「バッチリよ」
肉屋や市場に寄って、必要な物は大方揃えてきた。
「師匠。今から一体何をお作りになられるのですか?」
「子供人気トップクラス。大人も大好物なお肉料理の大定番からあげです!」
「から、あげ?」
作り方は至ってシンプル。まずは肉屋で買ったギガントバードというモンスターの肉を一口大に切り分ける。
さっき串焼きを作った時も思ったけど、モンスターと言っても肉になってしまえば見た目は私が知ってる鶏肉とさほど変わりはない。
そのおかげか得体の知れないモンスターの肉も不思議と躊躇なく食べられる。
切り分けた肉は多めの塩と、市場で仕入れたニンニクと生姜をすりおろしたものをよく揉み合わせる。
今回は醤油が無いから、ニンニクと生姜をよく効かせた塩からあげを作っていく。
「ニンニクと生姜がこんな簡単に粉々に…師匠は不思議な道具までお持ちなんですね」
最近のキャンプ道具って本当になんでも揃ってる。携帯用のおろし金まで用意してくれた前の持ち主には感謝しかないわ。
ここで本当なら少しでも長く漬け込んで置きたいところだけどそんな時間は無い。その代わりに、肉に味が馴染むように念入りに小麦粉と一緒によく揉み込んでおく。
「脂身が溶けて液状に…」
クッカーにこれでもかと大量に敷き詰められた脂身が、熱によってじわじわと溶け出していく。
「捨てるしか使い道が無かった脂身にこんな使い方があるとは驚きです」
「ラードは食材にコクを足してくれるんですよ」
「コク?」
「旨味みたいなことです。要は普通に作るよりもっと美味しくなるってこと」
ラードはスーパーでも無料で手に入る便利食材だ。ラードを使って焼けば、安い肉も美味しくなるし、キノコだって肉のような風味を付けることもできる。この手のレシピは主婦受けがいいから、よくバラエティ番組で紹介したものだわ。
完全に脂身が溶けたら、箸に少し粉を付けて温度の確認。ぷつぷつと泡が出てきたら頃合いよ。
「よしいい感じ」
「それでどうするんだ?」
「こっからが醍醐味。こうするのよ!」
「え!?」
ラードの海へと優しく放り込まれた肉はパチパチといい音を奏でながら揚がっていく。
「溶けた脂身の中に肉を入れた!?」
「まあ、見ててくださいよ」
私みたいな日本人にとって揚げ物なんてもう当たり前だけど、それを知らない人からしたら揚げるなんて行為はとても信じられない。かぼちゃのような硬い野菜も生で食べる世界だ。煮るどころか茹でることすら知らないこの世界にとって揚げるなど前代未聞。まさにアンビリーバブルってやつ。
「こんなやり方で美味しい料理が作れるとはとても思えません。これならさっきのように串焼きを作った方が良かったのでは?」
「そうですね〜私の作った串焼きも美味しかったですけど、下手したらこっちの方が美味しいかもしれませんよ」
「流石にそれはありませんよ。あ、俺はいりませんからね。串焼きは裏切れません」
なんて一途な人なの。でもさ、魔性ともいえる揚げ物の魅力に耐え切れるかしら?
パチパチと気持ちのいい音を奏でながら衣にこんがりとした色がつき始める。
「あれだけ白かったはずの肉が黄金色に変わった……!」
「そろそろか!?そろそろなのか!?」
「ちょっと、そんなに覗き込んだら危ないわよ」
リューは跳ねる油も構わず、前傾姿勢で鍋を覗き込む。こんななはしゃいじゃってまるで小さな子供みたい。
「こんな美味そうなものを目の前にしてそんなの構ってられるか!早くよこせ!」
私は見せびらかすようにこんがり揚ったからあげをリュー目の前に持ってくる。
「食べたい?」
「食べる!!」
「でも残念」
大口を開けたリューの前を素通りしてからあげは再び油の中へ戻っていく。
「なっ…!!もう完成したのではないのか!?」
「このままでも美味しいんだけど、どうせならもっと美味しいのを食べたいと思わない?」
「もっと、だと!?……」
相変わらずいいリアクションするわね〜。なんだかこっちまで気分がいい。
気分が上がったついでに火も強くして温度も上げちゃうわよ。
「そしてここが今日のすみにゃんポイント!」
「師匠?」
「…それまたやるのか?」
「あ、」
まただ。またやっちゃった。
癖ってものは本当に恐ろしい。頭で考えるより、体が先に動いてしまう。
誰かに見られるのは慣れてるけど、カメラも無いのにいつもこんなことやってるって思われたら私お嫁に行けなくなる。
「今のは忘れてください…」
「あ、はい。でもかわいかったですよ」
「それはどうも…」
褒められてるのに恥ずかしすぎて素直に喜べない。
「そんなことはどうでもいい。これに一体なんの意味があるのだ!?」
「二度揚げよ」
「二度揚げ?」
「揚がったからあげは一度空気に触れさせてから、温度を上げてもう一度揚げると、よりカリカリでジューシーになるのよ」
少し面倒な手間ではあるんだけど、これをやるとやらないとはでは全然違ってくるのよね。
どうせ食べるならベタっとしたからあげよりカリッとしたからあげの方がいいに決まってるもの。
「たかが料理にここまで手間をかけるんですか?」
串焼き屋の店主とはとても思えない言動ね。私は別に料理のプロでは無いけれど、それなりにプライドもこだわりも持ってる。
「料理だから手間をかけるんです。どんなに簡単な料理であってもその気持ちだけは忘れちゃダメなんです。私の弟子を名乗るなら二度とそんな事は言わないでください」
「はい……って、今、私の弟子って言いました?」
「え、いや、言ってません?……」
「言いましたよ!」
私としたことが、勢いでつい口を滑らせてしまった。
「言ってませんよ。聞き間違いじゃありませんか?」
「言ったな。確かに言っていた」
「ほら!師匠のパートナーもそう言ってますよ!」
リューのヤツ、私が動揺してる様子を楽しんでるな〜。
「俺、今の絶対忘れませんから!」
「……ほら!そんなことは置いておいて、からあげがいい感じですよ〜!」
私はからあげを利用して話の話題を変える。
そうこうしてる間に、衣もこんがりとした色が一層濃くなり、箸越しでもカリカリ感が伝わってくる。油を良く切ったら、これでもかと豪快に山盛りにして皿に盛り付ける。
「これで、異世界流塩からあげの完成です!!」
こんがりと揚がった肉は見た目だけで食欲を誘い、揚げ物特有の香ばしい香りが理性を奪う。
「さぁ、召し上が」
「うまいっ!!!」
て、もう食べてるし。
「うまい。うまいぞ!!こんなうまい肉料理がこの世にあっていいのかーーー!!!」
姿が小さくなっても食べる量は相変わらず。あんなに口一杯にほうばっちゃって、ほんと子供みたい。でもめちゃくちゃ幸せそう。
「おい、もう終わるぞ」
「え、もう食べちゃったの!?」
「当たり前だ。早く次を揚げろ!」
「分かったわよ。でも、今度は私の分もちゃんと残しておいてよね?」
こうなることだろうとは薄っすら思っていたけど、まさか私が味見する余裕すら無いだなんて。恐ろしいわ、からあげの魔力。
リューのリクエストに応えるように、私はとにかくからあげを揚げ続けた。
揚げては食べられて、食べられたらまた揚げる。永遠とも思えるその繰り返しが一向に終わらない。
「あ、よかったらインガスさんもどうぞ」
「俺もよろしいんですか!?」
さっきまで食べないと言っていた人とは思えないリアクションね。隣であんな美味しいそうに食べるリューの姿を見てたら、食べてみたくなるのも無理はないけど。
「インガスさんがいなければ必要な材料も揃いませんでした。だからこれはお礼です」
「気にしないでください。ただ、弟子として認めてくれれば」
「それはお断りします」
そうはさせないわよ。どさくさに紛れてちゃっかり弟子になろうだなんて甘いんだから。
「もう、師匠ったら強情なんですから…」
「諦めろ。我が会った時からスミレはこういうヤツだった」
「そうなんですか!?」
「竜王である我に喧嘩を売るような奴だぞ。ちょっとやそっとで考えが変わるような女ではない」
「竜王?」
「わーー!!」
私は慌ててリューの口を塞ぐ。
「師匠?」
「そんなことより、インガスさんも冷めない内に食べてください。美味しいですよ〜」
「あ、はい。ではお言葉に甘えて」
インガスはリューのように大きな口を開けてからあげをかぶりついた。
「こ、これは!!…カリッとした心地の良い衣の食感と噛むたびに溢れるジューシーな肉汁が口いっぱいに広がっていく!!」
「食レポうま…」
インガスの想定外の才能に思わず唖然としてしまう。
「凄いですよこれは!料理界の革命ですよ!!」
「革命って、それは言い過ぎですよ」
からあげを考えたのは私じゃないしね。
「言い過ぎなもんですか!これは絶対に売れますよ!」
あんな丸焦げの串焼きが普通だと感じる世界で、からあげ屋でもやったら大繁盛するのは目に見えてる。そうなったらきっと億万長者も夢じゃないでしょう。
「私のレシピで良ければお譲りしましょうか?」
でも私はアイドルだ。目先のお金に興味はないし、からあげ屋になるつもりはさらさらない。
「レシピは料理人の命。そんな大事なもの、本当によろしいんですか!?」
「構いませんよ。後で詳しく紙に書いてお渡ししますね」
「ありがとうございます!!」
インガスは本当に嬉しそうに涙まで浮かべて喜んでいる。これで弟子にしてくれとか言わなくなるといいんだけど…。
「本当に良かったのか?益々手放してしまって後で後悔しても知らんぞ」
「するわけないでしょ。私のレシピは広まってなんぼなんだから」
私が作ったレシピが誰かのためになるってなら、それほど嬉しい事はない。それで誰かが笑顔になってくれるなら、私も鼻が高い。
「やはりお前は人間のくせに変わってるな」
「放っておいて」
ちょっとくらい変わってなきゃアイドルはやっていけない。
「さてと、そろそろ私も食べようかな。お腹すいた〜あれ?」
からあげ作りもひと段落を終え、いよいよ私がからあげに手を伸ばそうとすると、そこにあった筈のからあげがどこにもない。
「……ねぇ、ここに山ほどあったからあげは?」
「とっくの昔に全部食べた」
「え!?あんなにあったのに!?」
「我は満足だ」
「ごちそうさまでした!師匠、おいしかったです!」
この男ども…………。
「私の分取っておいてって言ったじゃん!もう〜お腹空いた〜〜!!」
ついには私も私も子供のように大声をあげながら地団駄を踏むしか無かった。
何はともあれ、こうして初めての王都での長い一日は空腹のまま終わりを迎えたのであった。
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