1、幸か不幸か、アイドルと竜王
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「#/&$<÷○(竜王様、どうぞ彼女をお召し上がりください)」
「は?……」
突然のことに南雲純恋は理解が追いつかなかった。
毎日の手入れを欠かしたことのない艶々の黒髪。日々のメイクには最低でも一時間。目に見えない箇所でも私は妥協しない。
何故なら私は国民的10人組アイドルグループWONDER31のメンバーだからだ。
今日着ている私服も撮影に使うって聞いてたから、いつもより気合を入れていた。
それなのに……。
「#&×〆¥#*(これが我の今宵の晩餐か)」
「なんで私がドラゴンに食われなきゃなんないのよ〜!?」
理由も分からぬままドラゴンは私を問答無用に鷲掴みにして何処かへと連れ帰った。
私がなんでこんな目に遭っているのか?その理由は一時間程前に遡る。
私はいつものようにマネージャーからチケットを貰ってタクシーに乗り込み、次の現場に向かっていた。
「あの、お客さん」
「はい?」
「違ってたらごめんなさい。もしかして、アイドルの南雲純恋ちゃんですか?」
「ええ。そうですけど」
「やっぱり!いやね、実は私も家族の大ファンなんですよ!昨日もこの前テレビでやっていたスープカレーを作って食べて、とても美味しかったですよ」
「ありがとうございます!」
数年前まで地下アイドルだった私にはこんなの夢のまた夢だった。
しかしこうやって街の人に話しかけられるのも今となっては最早日常。
昔から私はかわいいものが大好きで、その中でも特にテレビで歌って踊るアイドルの笑顔が大好きだった。
だから私はアイドルを目指してアイドルになった。
子供の頃からの憧れだったアイドルになったはいいけど、現実は夢で描いてた以上に厳しくて本当に大変だった。
でもその努力は無駄にはならなかった。念願叶ってようやくグループが有名になって様々なメディアやテレビにも呼ばれるようになった。
これで私もあの頃憧れたアイドルのように輝ける。
だけど私の立ち位置はいつも端っこ。音楽番組に出ても私が映るのは最初と最後の引きの絵のみで活躍は殆どお茶の間には伝わらない。
グループでバラエティー番組に出ても私のやることはメンバーのありもしない日常話に愛想笑いをすることだけ。
そもそも私が番組に呼ばれないことだって珍しくはなかった。
握手会をやれば、私の列に並ぶのはいつも見慣れた顔ばかり。しかもグループの中じゃ人気は最低。新規のファンなんて増えもしない。
目立ちたくても目立てない。それが私は悔しかった。
自分で言うのもなんだけど私はグループの中では一番容姿に気を遣っている方だと思う。
てか1番かわいい。
アイドルになりたての頃は特にそう思っていた。
そもそもアイドルになろうなんてオーディションに参加する女の子は大体「私はかわいいです!」とか「私なら人気者になれます!」とか思ってる子ばっかりなのだ。事実私がそうだったから間違いない。(彼女の個人的な感想です)
(私なんか別に…)とか言ってる子も心の奥底ではそう思ってるはずだ。(やっぱり彼女の個人的な感想です)
つまるところアイドルとは自意識過剰な女の子達の集団なのだ。(捻くれて偏ってしまった彼女の個人的な感想です)
だからこそ私は思い知った。
かわいいだけじゃダメじゃないけどかわいいだけの子なんてこの世界にはいくらでもいるって。それこそウチのメンバーはみんな「誰よりも私が一番カワイイ!!」心からそう思ってる。
この世界でかわいいのは当たり前。決して特別なことではない。
故にかわいいだけじゃこの世界は生き残れない。
それを勅勘的に確信した私は、アイドルとして厳しい芸能界生き残るべく、かわいいだけじゃ足りない新たな魅力を手に入れることに全力を注ぐことにした。
そして私は考えたのだ。
誰もが想像するかわいい女の子の理想像、それは料理が出来る女の子だと。
よく言うでしょ。男を落とすにはまず胃袋からって。
王道ではあるのだが、なんだかんだ言ってもみんな料理ができる女の子が好きなのだ。
だから私はそれを目指した。
それでもやっぱり現実はそう上手くはいかない。
それも当然。これまでの私の得意料理といえばカップラーメンにお湯を入れるのが精々。
ご飯も炊けなければ、茹で卵すらも碌に作れず、作れると言ったカップラーメンでさえ、この前は後入れのスープの元を先に入れてしまい麺が全くほぐれなくなってしまった。
だけど私は諦めない。
死物狂いで料理を一から勉強し、自分の腕を必死に磨き上げるだけ。その間どれだけハンバーグを黒焦げにしたかなんて考えたくない。
だかやがて、その努力は実ることになる。
最初こそ苦戦したものの、自分なりに楽しさやコツを掴んでくるとみるみるうちに料理の腕が上昇。どうやら私には自分でも驚くほど料理の才能があったらしい。
つまり私はやればできる子だってこと。
今ではバラエティー番組や情報番組で私の料理が紹介されることは日常茶飯事、出版したレシピ本は瞬く間に100万部を超えるなど大ヒットを記録している。
その甲斐あって今ではグループの中でもフロントとして選ばれることも多くなった。このままいけば、いずれは私がセンターになる日も遠くは無いだろう。
その筈だったのに……
「あちゃー。こりゃ渋滞だな」
「渋滞?あの、どのくらいかかりそうですか?」
「うーん……この様子だと30分はまともに動かないかもしれませんね」
「30分!?」
今の時刻は11時過ぎ。
テレビ局の集合時刻が11時30分までだから、このままでは次の収録に間に合わない。
今まで元気な挨拶と遅刻をしないことが私の取り柄だったのに、このままじゃ今まで努力も水の泡になってしまう。
「どうにかなりませんか?このままじゃ私撮影に遅れちゃいますよ!」
窓越しからも前に大勢の車が連なってるのがよく分かる。周りも殆ど動いておらず、まるで時間が止まっているようだ。
「気持ちは分かるけど、この状況じゃどうにかって言われてもな……」
「そ、そうですよね〜。すみません、無理なこと言って……」
落ち着け私。こんな事でトラブルを起こして、それがSNSに上がって炎上でもしたらそれこそ全て終わりだ。
私は一度大きく深呼吸して心を落ち着かせる。
「(とにかくマネージャーに連絡だけは入れておかないと)」
私はバックからスマホを取り出しマネージャーに電話かけようと通話ボタンを押した、その瞬間であった。
とてつもない衝撃が私達を襲ったのだ。
それからのことはよく覚えていない。
ただ一つ確かなのは、私が乗っていたタクシーが後ろから車に突っ込まれ玉突き事故に巻き込まれたということだけ。
「純恋?もしもし…ねぇ、どうしたの!?純恋!?」
マネージャーの声が薄っすらと聞こえるけど、それに応えられるだけの力が私には残っていなかった。
私はそのまま薄れゆく意識に抗えないまま呑まれっていた。
そして私は目を覚まし、そこに広がっていた景色を見て直ぐに私は確信した。
ここは異世界だと。
マンガやアニメに疎い私だって簡単に理解できた。だって辺りに見える建物や景色が日本のそれでは無いからだ。
それに書いてある文字だって全く読めないしね。
ここはどこかの村のようだが、ここがなんなのかは私には全く調べようがない。
「あの、」
「○☆♪+*?」
何故なら通りかかった人に話を聞いてみても、なんて言っているかまったく分からないから。
そんな時だった。どうすればいいのかと、路頭に迷っている私を見兼ねてか一人の老人が私に話しかけてきた。
「&#:○¥→+→」
「いや、あの……」
「○♪¥/〒・÷!」
「え、」
老人は私の手を掴みどこかに連れていく。
最初こそ抵抗していた私だったが、老人は私にこの村のことを紹介してくれているようだった。
「#&☆$€%#」
「はぁ…」
依然と何を言っているかは分からないけど、どうやらこの村の人達は私を歓迎してくれていることだけは不思議と伝わってきた。
何故なら通りかかる人々が皆、私を見るや否や笑顔と拍手で迎えてくれるから。笑顔をされて嫌な気分にだなんてなるわけがないもの。
それがいけなかった。今考えてみれば、それでおかしいと気づくべきだったのよ。
やがて老人は私は村の奥へと連れて行った。
連れて行かれた場所には盛大に装飾された祭壇が置かれていて、そこに私は座らせれた。
私は意味も分からないままその場でじっと待っていると、村の人々達の様子が徐々におかしくなっていったのだ。
「あの、これは……」
人々達は何か異様な踊りと共に歌を歌い始めた。歌というよりは何かの呪文のようにも聞こえてとても奇妙だ。
それらが一通り終わると、彼らはまるで私を何か祀るように祈り出す。
そこでようやく私は異変に気づき、その場を離れようとしたのだが、すでに遅かった。
「ウソでしょ……」
屈強な二人の男が槍を私に向ける。言葉は通じずとも、本能的に彼らの言っていることが分かる。
全てを察した私は鳥肌が立ち全身の震えが止まらない。
人々の祈りが叶ったのか、さっきまで快晴で雲一つなかった空に暗雲が立ち込める。
「何よコレ……マジックか何かよね……」
そんなことを言いながら自分でも分かってる。
ここにいるのも、今起きていることも、全てタネも仕掛けも無いってことを。
大きな稲光と共に暗雲の中から現れたのは、辺りを簡単に覆い隠す程の巨大なドラゴンだった。
マンガやアニメで見たことのあるドラゴンより、よっぽどドラゴンで、凄まじい迫力だった。
それからは知っての通り。
私は何故かこのドラゴンの生け贄に差し出されたようで、あのままドラゴンの巣に連れて行かれたのであった。
「*○÷#%(実に美味そうな女だ)」
ドラゴンを舌舐めずりをしながらじっとこちらを見つめている。
「どうしよう……」
どうやらここはどこかの森の奥のようだ。さっきここに連れて行かれる道中、辺りに村のようなものは見当たらなかった。
故に誰かが助けに来るような気配は無く、助けを求める事も絶望的だ。
このままじゃ私の運命など決まってるようなものだ。
逃げようにも逃げられず、ただ食べれるのを待っているだけの時間。
まさか、こんな風に私の人生が終わるだなんてね。私の人生って結構呆気なかった。
「☆€×〆○+(女。最後に何か言いたいことは?)」
さっきからなんか喋ってるみたいだけど、何言ってるかさっぱり分からない。
「<×€%☆☆(おい、聞いているのか。何か喋ったらどうなんだ!?)」
「な、なんなのよ!?」
「#&#×☆→○(聞いたことの無い言葉。まさか我の言葉が通じていないのか?)」
ドラゴンは興味深そうに私の顔を覗き込む。
「(た、食べられる!……)」
するとドラゴンは口も開けず、私の額に自らの額を重ねた。
ゴツゴツした感触と共に何かが頭に流れ込んでくる。
「な、なにこれ……頭が痛い……」
まるで虫歯になってしまった時のようなズキズキとした痛みが私を襲う。
「・○→ルか?」
「え、」
次第に頭の痛みは和らいでくると、ドラゴンの話す言葉が鮮明に聞こえてくる。
「聞こえるか?」
「なんで?急に言葉が分かるように……」
「上手くいったようだな。我もお前の言葉が分かるぞ」
英語の意味が分かるようになったとかそういう次元ではない。
まるで自分の母国語のようにドラゴンの言葉が聞こえてくる。
「これってアナタの仕業?」
「そうだ。会話が出来ぬと最後の言葉も聞けんからな」
「じゃあお願い!私の話を聞いて!!」
「なんだ?」
私はドラゴン相手に頭を深々と下げる。
「お願い!私を見逃して!」
「それは出来ぬ」
「なんで!?」
「お前は今宵の晩餐だからだ。この機を逃せば、次は早くても50年後。そんなに長くは我も待ってられん」
「だからってなんで私なのよ!ほら、食べ物ならいくらでもあそこにあるじゃない!」
私の目線の先には、先ほどの村人達が備えた野菜などの食物が無造作に置かれている。
「野菜は食わん」
「は!?」
「あれはあそこの民達が勝手に送ってきたもの。我の好物ではない」
何よそれ。ただの好き嫌いじゃない。
「じゃあ、他の物を食べればいいでしょ」
「だから食べるのだ。人間の肉を」
「なんでそうなるのよ!よく分からないけど、アナタ強いんでしょ!?だったら他の動物でも食べてなさきよ!」
「ありとあらゆるモンスターの肉は食べてきた。故にもう食べ飽きたのだ」
「それで人間を食べてるってわけ?」
「そうだ。特に、美しい女の肉は格別だからな」
「だからなんで!……え?」
今のって私の空耳かしら。
「どうした、何か言おうとしたのではないのか?」
「ねぇ、今なんて言った?」
「なに?」
「さっき私のこと美しい女って言ったわよね?」
「言ったな。それがどうした?」
「それって私がかわいかったから、アナタに食べられるってことよね?」
「よく分からんが、カワイイという意味が美しいという意味ならばその通りだ。あの村の民には一番の美貌を持つ女を我に差し出せと命じてあるからな」
「……(よっしゃぁぁぁ!!!)」
私は必死に声を押し殺しながら盛大にガッツポーズをする。
アイドルになってそこそこ経つけど、私がカワイイってだけでこうやって何かに選ばれたのはこれが初めてだ。
料理が得意になったからでも、歌が上手だからでも、ダンスの上手さでもない。
私が一番カワイイから選ばれたのだ。
「おい、何か嬉しい事でもあったのか?」
「い、いや何も……」
再び現実に引き戻されるかのように私は落ち着きを取り戻す。
嬉しかったからって浮かれちゃダメよ。私は今死にかけてるんだから。でも、やっぱり嬉しい。
「変わったヤツめ。その長い黒髪もその珍妙な格好もそのせいか?異世界からの旅人よ」
珍妙って何よ!これでも、結構気合い入れてオシャレしてたのに。
「私がこの世界の人間じゃないって分かるわけ?」
「当たり前だ。竜王である我にとって分からぬことなどないわ」
「だったら私を元の世界に帰してよ!」
「断る。というか無理だ」
それでも私必死に食い下がる。
「どうして無理なのよ。そんなに私を食べたいの?」
「それもある。お前のような異世界人で美しい女を食べれる機会など滅多に無いからな」
あるんだ……。それに褒められてちょっと複雑。
「だが、竜王である我であっても異世界を行き来するような力は無い。あるのは異世界が存在するという知識だけだ」
絶望からか、自然と力が抜け私は崩れ落ちてしまう。
「そんな……」
これから私はどうすればいいのよ。
このドラゴンが言っている事が本当なら、仮にこの場から逃げ延びれたとしても元の世界には帰れない。
どうせ元の世界に戻れないなら、いっそのことこのままドラゴンに食べられて死んだ方がマシなんじゃないかってくらい思えてきた。
「静かになったな。覚悟が決まったのか?」
「……もういいわ。好きにして」
「そうか。ならば我に食われること誇りに思え」
ドラゴンは再び私の目の前にまでやってくる。
「怖いのか?」
さっきから体の震えが止まらない。覚悟はとっくに決まったはずなのに。
「あ、当たり前でしょ。死ぬんだから……」
「安心しろ。一瞬も痛みを感じさせぬまま食らってやる」
どうしよう。いざってなったらやっぱり怖い。
ようやく、私がカワイイって誰かに認められたばっかりなのにもう死んでいいの?
「さらばだ。異世界からきたカワイイ女よ」
そうよ。カワイイ私がこんな所で死ぬなんてそんなのダメに決まってる。
ドラゴンは口を大きく開け、一口で私を呑み込もうとする。
「私なんかよりもっと美味しい物を食べさせてあげる!!」
「なに?……」
その瞬間、私の必死の叫びがドラゴンの顎を閉じさせなかった。
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