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ギレッセン公爵夫人の帰還~その婚約は阻止させていただきます!~  作者: 有木珠乃@2/6コミカライズ配信開始


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第5話 強い味方

「狭くて汚いところですが、どうぞお入りください」


 ナンに案内されたところは、「隠れ家」という表現にはほど遠い場所だった。てっきり裏通りの、さらに奥まったところにあると思っていたからだ。


「まさか表通り、しかも商店街の中にあるなんて、想像してもいなかったわ」

「ふふふっ。ありがとうございます。フィリス様がそう感じられるのであれば、しばらくはあの男の目を掻い潜れそうですわ」

「おそらく、先に王城辺りを探すでしょうね。ロザンナのところへも行くかもしれない」

「そこはご安心ください。ここは兄の隠れ家ですから、すぐに連絡できます」

「えっ?」


 どうやって、と思っていると、奥の部屋に案内された。そこには水晶玉が置かれていて、机の向こうには……。


「お久しぶりです、フィリス様」

「っ! ヴィリー……」


 不甲斐ない主人のせいで解雇されたのに、茶髪から見える、ナンと同じ緑色の瞳は、とても優しいものだった。


「あなたも無事で安心したわ。それから……ごめんなさい。あなたたちを巻き込んでしまって」

「フィリス様。どうか顔を上げてください。あの男の横暴を防げなかったのは、私たちも同じなのですから」

「だ、だけど……!」

「謝罪は不要です。それに今は他にやることがあります」

「やること……」


 そうだ。王城にいるロザンナに連絡をしなければ。私は無事でいること。グレッグが来た時の対処法など、話すことは山のようにあった。


「王城にいるラルフには、すでに連絡を済ませておきました」

「っ! ということは、ロザンナのところにはまだ行っていない、ということなのね」

「ナンがフィリス様を見つけたのが早かったお陰です。どうやらギレッセン公爵邸では、まだフィリス様がいなくなったことすら、気づいていないようですから」


 ヴィリーの言葉に安堵するものの、一つ、疑問が浮かんだ。すると、まるで私の心を読んだかのように、ヴィリーは言葉を続けた。


「これでも、一週間前まで我が家のように出入りしていたところですよ。取り戻したい、と思うのはごく自然なことです」

「つまり、監視していたのね」

「できれば我々の手でフィリス様をお救いしたかったのですが……」


 私が先に出てきてしまったため、予定を変更した、ということかしら。


「いいのよ。あなたたちが密かに動いてくれていたお陰で、早く合流できたし、今後のことも話し合える。だけど一番は、あなたたちが無事なことを確認できて良かったわ。ずっと一人で……どれだけ心細かったことか」

「……フィリス様のことを、ロザンナ様がとても心配しておられている、と王城にいるラルフから聞きました」

「ロザンナが?」


 心配をかけまいと思っていても、やはり嬉しくなってしまう。だって私たちは双子だもの。どんなに離れていても、考えることは一緒だと思うだけで、心強く感じる。


「すでに連絡を済ませたのなら、次はどう動くつもりなの? 何か考えていたのであれば教えて」

「そうですね。予定としては、仲間を潜り込ませて、今いる使用人たちを徐々にこちらへ引き込もうと考えていました。けれどフィリス様がこちらに来たので、回りくどいことはせず、直接あの男を狙おうかと」

「グレッグを?」

「はい。どうせなら愛人と別れさせて、惨めな想いをさせてやりたいですね」

「まぁ!」


 それはなかなか……面白そうね。


「フィリス様は反対ですか?」

「なぜそう思うの? あなたたちにはあなたで、グレッグに対する恨みがあるのだから、遠慮なくするといいわ。私は……まだすぐに案が浮かばないから」

「そうですね。邸宅から出てきて、そんなに経っていませんから、お疲れなのでしょう。気がつかず、失礼しました」

「畏まらないでちょうだい。しばらく世話になると思うから」

「しばらく? どこか行く宛があるのですか?」


 私は首を横に振った。


 そんなの……あるわけがない。けれどヴィリーの計画が遂行するまでは、かなり時間がかかるだろう。それを思うと、これ以上迷惑をかけるわけにはいかなかった。


「では、ここにいてください。私もナンも安心しますので。また、ロザンナ様も同じようにおっしゃると思います」

「だけど……そうね。結局、迷惑をかけるのなら、その方がいいのかもしれないわ」


 途中で私がグレッグに捕まったら、ヴィリーたちの計画を台無しにしてしまうことだってあり得る。そっちの方の損失を考えるのなら、今はその言葉に甘えた方が得策のような気がした。迷惑をかけることは、避けられないのだから。


 そう思っていたのに、さらに予定を狂わす事態が私たちを待ち受けていたとは、この時、誰も想像していなかったことだろう。

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