商人、はじめます 6
これはもしや、勝手に誤解して、勝手に評価を上げてくれてる展開では!?
よし、この流れに乗っかってみよう!
私は嘘なんて一言も言ってない! 悪いのは、深読みしすぎなあなたの方ですよ、バルガスさん!
私は、心の中でガッツポーズを決め込みながらも、顔には「ふふん、私のハッタリ、見抜けましたか?」みたいな、謎の余裕の笑みを浮かべておく。うん、タダで評価が上がるなら、それに乗っからない手はない!
バルガスさんは、そんな私の(内心とは裏腹の)不敵な笑みを見て、さらに満足げに頷いた。
「コトリ君は、歳は若いが、一流の商人だ。その度胸、その切り返し、そして何より、その口の堅さ。素晴らしい。実に素晴らしい!」
(口の堅さ?)
「価値のある情報をちらつかせながらも、決して自分の手の内を明かさない。その歳で、それだけの規律を叩き込まれているとは……。さすがは『ヤマネコ商会』といったところですかな」
(うわー、なんか話がどんどん大きくなってる! 私がただ、『異世界通販』のことを秘密にしているだけなのを、『巨大組織の英才教育の賜物』みたいに勝手に解釈してるよ、この人!)
ちなみに、「ヤマネコ」の「コ」はコトリの「コ」だからね! ヤマネ一族の商会じゃなく、正真正銘ヤマネ・コトリの商会。もちろん、せっかくいい感じに勘違いしてくれてるんだから、わざわざ訂正しないわよ! むしろもっと誤解して!
バルガスさんは、ひとしきり感心した後、すっと真顔に戻り、机の引き出しから一枚の羊皮紙を取り出した。
「さて、と。雑談はこれくらいにして、手続きを進めようか。何事も、手順は重要ですからな。ここに、コトリ君の名前と、先ほど言っていた『ヤマネコ商会』という商号を書いてくれたまえ」
差し出されたのは、商業ギルドの正式な登録申請書だった。
私は、羽根ペンを受け取ると、自分の名前と商号を、震えないように、しかし力強く書き込んでいく。
私が書類を書き終えるのを待って、バルガスさんは続けた。
「よし。では、最後の手続きだ。登録料として、銀貨が1枚必要になる」
「はい、承知しております」
私は、このために用意してきた銀貨を、四次元バッグから取り出す。マーサさんから餞別としていただいた、大切な軍資金の一枚だ。
その銀貨を、テーブルの上に、ことん、と置く。
澄んだ金属音が、静かな部屋に響いた。
それは、私の覚悟の音だった。
バルガスさんは、その銀貨を指先でつまみ上げると、光に透かすようにして、じっと眺めた。
そして、次の瞬間。
彼は、その銀貨を、テーブルの上を滑らせるようにして、私の目の前に、すっと押し返してきたのだ。
「……え?」
「これは、私からの『投資』だ。登録料は私が代わりに払っておく」
彼は、にやりと、実に楽しそうな笑みを浮かべた。
「君という商人に、そして君がこれからこの街で起こすであろう『面白いこと』に対する、私からの、ささやかな投資だ。遠慮なく受け取っておきたまえ」
(……投資!? 登録料が、タダになった!?)
私は、目の前の銀貨と、バルガスさんの顔を、信じられないという顔で交互に見る。
ただの子供の戯言だと、一蹴されると思っていた。
なのに、この街の商業ギルドのトップが、私の未来に「投資」してくれた。
「……ありがとうございます、バルガスさん。このご恩は、必ず商売の成功でお返しします」
私が深々と頭を下げると、バルガスさんは満足げに頷いた。




