新たな拠点探し 8
私は、子供らしさを最大限に活用し、少しだけ背伸びした、健気な少女を演じる。
「もし、よろしければ……例えば、一週間まとめてお部屋をお借りする場合、ほんの少しだけ、お勉強していただくことは、できませんでしょうか……?」
上目遣い、首をこてん、そして両手を前でぎゅっと握る、あざとさのフルコンボ!
どうだ! これが、前世で培った、おじさんキラーの交渉術よ!
女将さんは、私のその姿を見て、きょとん、と目を丸くした後、たまらない、といった感じで、ふふふ、と笑い出した。
「まあ! まあまあ! なんてしっかりしたお嬢ちゃんでしょう! 商売を始めるだなんて、感心だわ!」
彼女は、ひとしきり笑った後、優しく私の頭を撫でてくれた。
「分かったわ。そんなに頑張る子の応援をしないわけにはいかないわね。それじゃあ、特別に、一週間で銀貨2枚と大銅貨5枚でどうかしら? 5泊分のお値段で、2泊分はサービスしてあげる」
(やったー! 交渉成立! しかも、想定以上の割引率!)
一泊あたり約357リント。
『石壁の宿』よりも安くなった!
しかも、朝食付きで、コロも同室!
これ以上の好条件は、望むべくもない!
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「いいのよ。その代わり、商売がうまくいったら、私にも一番に教えてちょうだいね? あなたの成功話を聞くのを、楽しみにしているわ」
「はい! 良い報告ができるように頑張ります!」
こうして、私は、銀貨2枚と大銅貨5枚 (2,500リント)を前払いし、無事に、一週間の安住の地を手に入れたのだった。
「それじゃあ、お部屋にご案内しますね。こちらへどうぞ」
「はい!」
(よし、完璧な拠点確保だわ! 事前調査で第二候補に挙げていた『石壁の宿』も、もう見に行く必要はないわね。この女将さんの人柄と、この宿の環境、そしてこの破格の割引条件。これ以上のディールは望めない。ここで即決してこそ、一流のビジネスパーソンよ!)
心の中で、私は自分の的確な判断力に自画自賛の嵐を送る。
そう、時には「これ以上を探さない」という決断力も、ビジネスにおいては重要なのだ。
(……なーんてね! 本当は、これ以上歩き回るのが面倒くさくなっただけだけど! ふかふかのベッドが、もう私を呼んでいるんだもの!)
うんうん、これも立派な「機会損失の回避」という経営判断の一つ。確かに面倒は回避できるけど、決してサボりじゃない。断じて違う。たぶん。
(それに、ほら、コロももう歩き疲れてるみたいだし? ね? そうだよね、コロ?)
私が念話で同意を求めると、足元のコロは『え? 全然疲れてないよ! もっと探検したい!』と、元気いっぱいに尻尾を振っている。
(……空気を読みなさい、我が相棒よ!)
まあいい。とにかく、これ以上歩き回るのは、従業員 (コロ)の福利厚生にも反する。うん、そういうことにしておこう!
◇
案内された二階の部屋は、私の期待を裏切らない、素晴らしい部屋だった。
部屋の隅々まで掃除が行き届いていて、チリ一つ落ちていない。
ベッドのシーツは、糊付けされたみたいにパリッとしていて、太陽の匂いがする。
窓からは、メインストリートの賑やかな景色が見下ろせた。
私は、部屋の鍵を受け取ると、我慢できずに、そのふかふかのベッドに、ばふっとダイブした。
次回の投稿は、2025/12/26 12:00-12:15頃の予定です。




