アップデートと旅立ちの決意 16
「……おい、お前ら、少し落ち着けよ」
不意に、これまで黙って話を聞いていたリックが、声を上げた。
彼は、泣きじゃくるエミリーや、不安そうな顔の子供たちを、やれやれといった顔で見回している。
「こいつは、俺たちを置いていくわけじゃねえ。むしろ逆だ」
リックが助け舟を出してくれた。13歳の子供に助けられる中身28歳の元OLって……。
私は、立ち尽くすエミリーの前に、そっとしゃがみ込む。
そして、彼女の小さな両手を、優しく握りしめた。
「エミリー、聞いて。私、みんなを置いていったりしないよ」
「……ほんと?」
「うん、本当。遠くへ行くんじゃないの。この街の中に、私のお店を開くだけ」
私は、できるだけ優しい声で、ゆっくりと語りかける。
「お店ができたら、エミリーも、いつでも遊びに来れるでしょ? そしたら、今日よりもっともっと美味しいお菓子を、たくさん作ってあげる」
「……おかし?」
エミリーの瞳がきらりと光る。
よし、食いついた!
「そう。ふわふわのスポンジに、甘いクリームが乗った『ショートケーキ』とか、チョコレートがとろける『ガトーショコラ』とか、私の故郷にはね、美味しいお菓子が、まだまだたくさんあるんだよ」
私の言葉に、エミリーだけでなく、周りで聞いていた他の子供たちも、ごくりと唾を飲み込む音がした。
うんうん、君たち、完全に私の術中にハマっているな! これぞ、未来の顧客の囲い込み戦略!
「でも、そのためには、もっとたくさんのお金が必要なの。だから、私はお店を開いて、リックお兄ちゃんにも手伝ってもらって、たくさんお金を稼いでくる。そして、稼いだお金で、この孤児院に、毎日、美味しいお菓子を届けられるようにしてあげる」
そこで、私は、エミリーの涙を、そっと指で拭ってあげる。
そして、とびっきりの笑顔で約束する。
「だから、ちょっとだけ、待っててくれるかな?」
私の言葉に、エミリーは、しばらく、じっと私の目を見つめていたが、やがて、こくりと小さく頷いた。
そして、今まで聞いたこともないくらい、はっきりとした声で言ったのだ。
「……うん! 待ってる! おかし、待ってる!」
え……? 今の、エミリーの声……?
あんなに、はっきりとした声をあの子が出した……?
私がここに来た時、あんなに小さく縮こまって、ほとんど言葉を発することもなかった、あの子が……。
『待ってる』って。私の作る『お菓子』を『待ってる』って……!
信じてくれてるんだ。私が必ず約束を守るって。もっと美味しいものが待ってる、明るい未来が来るって信じてくれてるんだ。
うっ……だめだ、これは。
胸の奥から、熱い何かがこみ上げてくる。視界がじわっと滲みそうになる。
ダメ、泣いちゃダメだ、私!
ここで私が泣いたら、この子が不安になっちゃう。約束が嘘みたいになっちゃう。
笑うんだ、私。最高の笑顔で、この子の期待に応えるんだ。
そうだ。この声を聞くためなら。この笑顔を見るためなら。どんなことだってしてやる!
次回の投稿は、2025/12/17 12:00-12:15頃の予定です。




