森のソロキャンプと運命のもふもふ 1
「きゃあああああ!」
眼下に広がるのは、どこまでも続く緑の海――森だ!
神様、人里の近くて言ったじゃない!
しかも転送って、こんな物理的に落とすこと!?
死ぬ! 転生した直後に、また死ぬ!
地面が目前に迫った、その時。
ザザザザザーーーッ!
巨大な木の、生い茂った枝葉が、落下する私の体を何度も受け止めてくれた。
まるで緑のクッションみたいに。
衝撃を吸収されながら、地面にぼすん、と不時着。
「……いってぇ……」
全身、葉っぱだらけ。
幸い、怪我はなさそう。
地面にそっと降り立つと、足がふかっと沈む。
見ると、長年積もってできたであろう、分厚い腐葉土の層が広がっている。まるで天然のクッションだ。
「……助かった」
でも、ちょっと待って。
なんで上空から!?
「神様ァァァ! 殺す気ですかァァァ!」
天に向かって抗議の声を上げる。
でも、返事はない。
しかも、普通、異世界転生って、王都の大通りとか、冒険者ギルドの前とか、せめて村の入り口とかに転送されるものじゃないの?
なんで森のど真ん中!?
しかも、見渡す限り木、木、木!
「神様ァァァ! せめて、せめて人里の近くに転送してくださいよぉぉぉ!」
天に向かって再度抗議の声を上げる。
やはり、返事はない。
風で葉っぱがカサカサ鳴るだけ。
なんか、バカにされてる気がする。
「はぁ……あの神様、絶対適当に転送場所決めたでしょ。『えーっと、この辺でいいや、ポチッ』みたいな感じで」
一人でぶつぶつ文句を言いながら、立ち上がる。
って、あれ?
視線が低い。
すごく低い。
前世では158センチの平均的な身長だったのに、今は……130センチくらい?
「うわ、本当に子供になってる」
自分の手を見る。
ちっちゃい。
すべすべで、傷一つない綺麗な手。
28歳のOL生活で荒れていた手とは大違いだ。
キーボードのタイピングで固くなっていた指先も、赤ちゃんみたいにぷにぷにしている。
「まあ、肌が綺麗になったのはラッキーかな。前世じゃ、どんなに高い化粧品使っても、この肌にはならなかっただろうし」
髪の毛を前に持ってくる。
おお、見慣れた黒髪だ。
でも、28歳の頃の、カラーリングやドライヤーで少し傷んでいた髪とは違う。
キューティクルが整った、つやつやの黒髪。子供の頃って、こんなに髪がきれいだったんだなぁ。
「これは……ちょっと嬉しいかも」
服装を確認。
白いワンピースに、薄い水色のローブ。
なんというか、RPGの村人Aって感じ。
でも、生地は意外としっかりしている。
「靴は……うわ、革靴か。森の中を歩くには向かないなぁ」
とりあえず、現状確認終了。
次は、周囲の確認。
見渡す限り、森。
人工物は一切見当たらない。
道らしきものもない。
「これ、どうやって街を探せばいいの? まさか、サバイバル生活スタート?」
いやいや、私、インドア派なんですけど。
キャンプとか、動画サイトで見るだけで満足するタイプなんですけど。
「あ、そうだ! チート能力があるじゃない!」
神様にもらった3つの能力。
【異世界インターネット接続】【もふもふテイマー&翻訳】【生活魔法 Lv.99】。
この中で、今使えそうなのは……。
「とりあえず、ネット通販で生活必需品を揃えよう! えーっと、【異世界インターネット接続】!」
心の中で能力名を唱えると、目の前にふわっと半透明のウィンドウが出現した。
おお、本当に出た!
しかも、タッチパネル式っぽい。
『異世界インターネット接続 Lv.1』
『利用可能機能:通販サイト(制限付き)、地図(簡易版)、検索(基本のみ)』
『所持ポイント:10,000,000P』
「1000万ポイント! よし、ちゃんと増えてる!」
神様との交渉の成果を確認し、ガッツポーズ。
1ポイント1円換算だから、1000万円。
前世の私の年収3年分もないくらいだけど、無一文からのスタートに比べれば天国だ。
でも、これはあくまで初期投資用の資金。
異世界でどうやって稼げるようになるか分からない以上、無駄遣いは禁物だ。堅実にいこう。
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