ギルド登録と初めてのビジネス 12
「……合格だ」
その声は、感嘆したように、少しだけ震えていた。
その一言が、合図だった。
次の瞬間、訓練場は、割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
「すっげええええええ!」
「なんだあの魔法! チートじゃねえか!」
「おい、嬢ちゃん! 俺のパーティに来い! 日給で金貨1枚出すぞ!」
「馬鹿野郎! うちのパーティは金貨2枚だ! それに、毎日美味い肉を食わせてやる!」
さっきまで私を馬鹿にしていた冒険者さんたちが、手のひらを返したように、熱狂的な賛辞と、スカウトの声を上げてくる。
うんうん、現金でよろしい!
私は、そんな彼らに向かって、にっこりと、最高の営業スマイルを浮かべてみせた。
(ふふふ、どうです、皆さん。私の市場価値、ご理解いただけましたか?)
私の快適なスローライフへの道が、今、大きく、そして確かに、開かれた瞬間だった。
◇
地下訓練場は、もはや私の独壇場、ワンマンライブ会場と化していた。
さっきまで私を「チビ」等と侮っていた、むさ苦しい冒険者たちが、今や目をキラキラさせた少年のように、私を取り囲んでいる。
「嬢ちゃん、すげえな! あの魔法、もう一回見せてくれよ!」
「俺のパーティに入れ! リーダーにしてやる!」
「いや、うちに来い! 専属のメイドとして雇ってやる! 掃除と洗濯だけでいい!」
(メイド!? 誰がメイドだ、誰が! 私は快適なスローライフを送るために稼ぎに来たんだ、他人の下着を洗うために来たんじゃないわよ!)
内心で全力でツッコミを入れつつも、顔には完璧な営業スマイルを貼り付ける。
うんうん、すごい人気だ。まるでアイドルのファンミーティングみたい。
まあ、ファン層が平均年齢30代後半、屈強な筋肉ダルマのおじさんばっかりだけどな!
そんなカオスな状況を収拾してくれたのは、試験官のゴードンさんだった。
「てめえら、いつまで騒いでやがる! 試験は終わりだ! さっさと戻りやがれ!」
地響きのような一喝。
その声に、冒険者たちはびくっと体を震わせ、蜘蛛の子を散らすように階段の方へと去っていく。去り際に、まだ名残惜しそうに「嬢ちゃん、気が変わったら声かけてくれよな!」とか言ってるけど、残念ながらその気は1ミリもありませんので!
静かになった訓練場で、ゴードンさんは、ごほん、と一つ咳払いをする。
そして、どこか気まずそうな表情を浮かべながら、私に向き直った。
「……嬢ちゃん」
「はい、コトリです」
「……コトリ。その、なんだ。さっきは、その……悪かったな。子供だと侮っていた」
おおっと!
まさかの謝罪!
この見るからに頑固一徹、自分の非は絶対に認めなさそうな筋肉ダルマ(失礼)が、素直に頭を下げてきた!
(うわ、この人、見た目に反してめっちゃいい人じゃん! ギャップ萌えってやつ!? いやいや、ないな! さすがにない!)
「いえ、気にしないでください。私が子供なのは事実ですから」
私がそう言って笑うと、ゴードンさんは少しだけ、本当に少しだけ、その険しい表情を和らげた。
「ふん。お前さん、見た目はチビだが、その中身はそこらの半端な冒険者より、よっぽど筋が通ってやがる。気に入った。何か困ったことがあったら、いつでも俺を頼れ。ゴードンと呼んでくれ」
「ありがとうございます、ゴードンさん!」
やった!
この街で、一番強そうな人とコネができた!
これは、今後のビジネス展開において、非常に大きなアドバンテージになるに違いない。
まさに、虎の威を借る狐、ならぬ、筋肉ダルマの威を借る少女! ふふふ、我ながら完璧な処世術だ。
ゴードンさんに続いて階段を上がると、ギルドの1階フロアは、さっきとは比べ物にならないほどの熱気に包まれていた。
どうやら、地下での私の活躍は、すでにギルド中に知れ渡っているらしい。




