ギルド登録と初めてのビジネス 10
ゴードンさんの合図と共に、木製ゴーレムがギギギ……という軋む音を立てて動き出した。
その動きは、見た目に反して、意外と素早い。
大きな木の腕を振り回しながら、こちらに迫ってくる。
野次馬の冒険者たちから、再びヤジが飛ぶ。
「ほら来たぞ! どうする、チビ!」
「泣き叫ぶなら今のうちだぜ!」
「犬っころ! 主人を守ってやれよ、食われる前にな!」
(うるさいなぁ、もう……)
私は、そんなヤジを一蹴するように、静かに、しかしはっきりと通る声で、隣にいる相棒に指示を出す。
「コロ。お遊戯の時間だよ」
『うん! やったー!』
私の言葉に、コロは嬉しそうに尻尾を一度だけ、ぱたん、と振った。
そして、次の瞬間。
コロの姿が、その場から消えた。
いや、消えたように見えた。
実際には、白い閃光のような速さで、ゴーレムに向かって駆け出していたのだ。
「「「なっ!?」」」
冒険者たちの、驚きの声が上がる。
ゴーレムが、その大きな腕でコロを叩き潰そうと振り下ろす。
しかし、コロはそれを、まるで予測していたかのように、ひらりとかわす。
そして、そのままゴーレムの懐に潜り込む。
(よし、いいぞ、コロ!)
私は、戦闘に参加しない。
ただ、最適な指示を出すだけ。
それが、一流のテイマーの戦い方というものだ(震え声)。
(いや、ホントは怖いだけです、はい。あの木製ゴーレム、地味にデカいし、もしこっち来たらどうしよう? コロよ、マジ頼んだ!)
『コロ、あいつの足元、狙って! 右足の、膝のところ!』
『わかった!』
念話で指示を送る。
コロは、私の指示どおりゴーレムの右足に狙いを定める。
そして、その小さな顎で、関節部分の木材に、ガブリと噛みついた。
バキッ!!!
訓練場に、乾いた破壊音が響き渡る。
木製のゴーレムの膝関節が、コロの牙によって、いとも簡単に砕け散ったのだ。
「「「うそだろ!?」」」
冒険者たちの、信じられない、という声。
ゴードンさんも、その鋭い目を驚きで見開いている。
バランスを失ったゴーレムが、ギギギと軋みながら、ゆっくりと傾いていき、やがてガシャンと音を立てて地面に倒れ伏した。
手足をばたつかせているが、もう立ち上がることはできないだろう。
戦闘不能。
砂時計の砂は、まだ半分も落ちていない。
訓練場は、水を打ったように静まり返った。
さっきまでヤジを飛ばしていた冒険者たちも、あんぐりと口を開けて、目の前の光景を信じられない、という顔で見ている。
「な、なんだ、今の動きは……」
「あの犬っころ、ただの犬じゃねえぞ……」
「あの牙、オークの骨くらいなら簡単に砕きやがる……!」
コロは、そんな周囲の驚きなど気にも留めず、私の足元に駆け寄ってくる。
そして、尻尾をぶんぶん振りながら、私の顔を見上げてくる。
『コトリ! どう? コロ、ちゃんとできた?』
『うん、満点だよ、コロ! すごく格好よかった!』
私が頭を撫でてやると、コロは嬉しそうに目を細めてヒコーキ耳になる。
その姿は、さっきの勇猛果敢な戦士の姿とは似ても似つかない、ただの可愛いもふもふだ。
このギャップが、たまらない。
(ふふふ、どうです、皆さん。これが我が家の愛犬 (神獣の可能性微レ存)の実力ですよ!)
私は、内心でドヤ顔を決め込む。
しばらく呆然としていたゴードンさんが、はっと我に返ったように、咳払いを一つした。
「……ま、まあ、まぐれかもしれん。よし、次の試験だ。お前の『生活魔法』とやらを、見せてみろ」
(まぐれ、ですって? ふふん、いいでしょう。なら、もっと驚かせてあげますよ!)
私は、にっこりと微笑むと、訓練場の中心へと歩み出る。
ゴーレムとの戦闘で、地面の土は荒れ、木っ端が散らばっている。
「では、ご覧ください。私の、冒険者としての価値を」
私は、まず、一番汚れが目立つ壁に向かって、そっと手をかざした。




