第184話 商業ギルドの緊急理事会は大パニック! 「すべては『東の国』の巨大シンジケートの計算通りだ!」(※違います)
彼らの口ぶりは、ダマールの悪行を「今初めて知った」というものではなかった。
ダマールが裏で汚い真似をしていることなど、この場にいる全員が薄々――いや、確信を持って知っていたのだ。
彼らは同じ「理事」ではあるものの、街の経済を牛耳るダマール商会の力は圧倒的であり、事実上、ダマールの独裁状態にあった。彼の強引なやり方に不満を抱きつつも、「逆らえば自分たちが潰される」という恐怖から、これまで黙認し、顔色を窺ってきたのが実態だった。
それは、ギルドマスターであるバルガスとて例外ではない。
彼もまた、ダマールと正面から対立して街の経済やギルドの秩序が混乱することを恐れ、あえて不正の証拠を深く探ろうとはせず、「必要悪」として見ないふりを続けてきたのだ。
だが、状況は一変した。
「ギルドマスター。問題は、この証拠を持ってきた『ヤマネコ商会』のコトリ会長です。あの少女は『掃除のついでにゴミが出た』などと言っていたそうですが……」
一人の理事が、額の汗を拭いながら進言した。
「ああ。そんな言葉を額面通りに受け取る者は、この場にはおるまい」
バルガスが重々しく頷くと、会議室の空気が一段と冷え込んだ。
「我々が『見ないふり』をしてきたダマールの不正。その決定的な証拠を、この街にやってきてからのわずかな期間でピンポイントに掘り起こした。そして、店を襲ったゴロツキたちを、返り討ちにして路上に晒し者にするという手際の良さ……。彼女は、冒険者としても実力者であると聞いているが、それにしても、たかが10歳の少女にできる芸当ではない。実際、彼女は私に言ったのだ。『頼もしい警備員たちがいる』と。今にして思えば、あれは我らへの警告であったのだろう」
「やはり……ギルドマスターの推測は間違っていなかったのですな……! 彼女の背後には、彼女の親族――東の国のヤマネコ一族の組織の影があり、彼らは、すでにこのハルモニアに潜伏していて、彼女の活動をバックアップしていると……!」
別の理事が震える声で言う。彼らの脳内では、コトリはすでに巨大シンジケートの若き首領か、あるいはその令嬢として完全に仕上がっていた。
「おそらく、ダマールが彼女に買収を持ちかけ、あまつさえ、脅迫したことで、東の国の逆鱗に触れたのだろう。この証拠の提出は、我々商業ギルドに対する『踏み絵』だ」
「なんと! ダマールがそんなことをしたのですか!?」
また別の理事が驚愕の声を上げると、バルガスは呆れたように嘆息した。
「ああ……。ダマールは、ヤマネコ商会を強引に買収しようとしていたらしい。たまたまヤマネコ商会に客として居合わせていたギルド職員から聞いた話だ。うちの職員には、あの店の常連が多くてね……。コトリ会長ははっきりと断ったそうだが、ダマールは彼女に『夜道に気を付けろ』等と、脅迫するようなことを言ったらしい」
「では、ヤマネコ商会を襲わせた黒幕はダマール!?」
「そう考えるのが自然だろうな……。まったく、猛獣の巣に自ら牙をむくなんぞ、身の程をわきまえず、馬鹿なことをしたものだ……」
バルガスの言葉に、理事たちはゴクリと一斉に唾を飲み込んだ。
「昨日の朝の騒ぎと、我らに突き付けたこの証拠は、『目障りな害虫を駆除しろ。さもなくば、お前たちごと潰す』……という、彼らからの最後通牒と考えて間違いないだろう」
「なっ……! な、ならば、一刻の猶予もありません! 直ちにダマール商会の強制捜査に踏み切り、ダマールを切り捨てるべきです! そのような恐ろしい組織を敵に回すなど、命がいくつあっても足りません!」
これまでダマールを黙認していた理事たちも、手のひらを返したように「排除」に賛同し始めた。自分の保身と、未知の巨大組織への恐怖が、彼らを突き動かしていた。
「うむ。街の経済への影響を最小限にするため、ダマール商会は即座にギルドの公的管理下に置き、事業を分割譲渡する。……そして、ダマールを排除した後、空席となる『理事』のポストだが」
バルガスは打算的な笑みを浮かべた。




