第127話 応募者ゼロの謎が判明!? 異世界の求人事情と秘密の唐揚げ
そう、そこが最大の謎なのだ。
こんなに好条件なのに、なぜ三日間も放置されていたのか。
私の質問に、二人は顔を見合わせて、それからミアちゃんが貼り紙を見ながら申し訳なさそうに言った。
「うーん、多分ですけど……この街の普通の人は、文字があまり読めないから、そもそも何が書いてあるか分からなかったんじゃないでしょうか……?」
「あっ」
私は固まった。
言われてみれば、そうかもしれない。
私には【翻訳】スキルがあるから、街の看板も書類も全部日本語みたいにスラスラ読めてしまう。だから、この世界の人も当たり前に文字が読めるものだと、無意識に思い込んでしまっていた。
冒険者ギルドではみんな依頼書を読んでいた(ように見えた)から、てっきりこの世界の識字率は高いものだとばかり……。
でも、あれは『冒険者』や『商人』という専門職だから読めただけで、一般の求職者――特に、日雇い仕事を探しているような層には、文字が読めない人も多いのかもしれない。
前世の「義務教育当たり前」の感覚で、「貼り紙をすれば伝わる」と思っていたのが、そもそもの間違いだったのね……。
「それに、この街で仕事を探すなら、普通は商業ギルドの紹介所か、知り合いの伝手を頼るのが一般的よ。こんな風に、店の前に貼り紙をして『誰でも歓迎』なんて募集、見たことないもの」
リアちゃんが追い打ちをかける。
「あー……なるほど……」
求人誌も求人サイトもない世界で、現代日本と同じ感覚で「公募」をかけても、誰もそのシステムを理解していなかったということか。
「怪しい」と思われていたのは、条件が良すぎたからではなく、「やり方が非常識すぎたから」だったのね……。
(……勉強になります!)
私はガックリと項垂れた。
でも、結果オーライだ。
そのおかげで、他の誰でもない、この二人が来てくれたのだから。
こうして、ヤマネコ商会に、最強の「看板娘」たちが加わった。
私の商品開発力。
リアちゃんの接客力。
ミアちゃんの事務処理能力。
そして、コロの癒やし力。
盤面は整った。
さあ、ここからが本当の「ヤマネコ商会」の快進撃の始まりだ!
◇
その夜。
私は厨房で、一人怪しげな儀式……ではなく、明日の「まかない」の仕込みをしていた。
求人票に書いた『美味しいまかない付き』という甘い誘い文句。
これを「誇大広告」で終わらせては、ホワイト企業の名折れだ。
従業員の胃袋をガッチリ掴んでこそ、真の経営者というもの!
「ふふふ……記念すべき初日のメニューは、茶色い正義こと『鶏の唐揚げ』だ!」
私は通販で購入した『若鶏のモモ肉(2kg)』を、リズムよく一口大にカットしていく。
そして、ボウルに調味料を投入する。
『特選丸大豆しょうゆ』(ちょっといいやつ)
『本みりん』(奮発した)
『料理酒』
『おろし生姜』(チューブ)
『おろしニンニク』(チューブ)
チューブを使うのは、断じて手抜きじゃない。 効率化なのだ!
醤油の芳醇な香りと、ニンニクの背徳的な香りが混ざり合う。ああ、これだけで白飯三杯はいける。
私はジッパー付きの保存袋に肉とタレを入れ、「美味しくなーれ」とおまじないをかけるように念じながら、手でよく揉み込む。
さて、ここで問題発生だ。
本来なら、ここで冷蔵庫に入れて一晩寝かせたいところだけど、あいにく我が家には電気も冷蔵庫もない。
このまま常温で放置すれば、明日の朝には「熟成」を通り越して「腐敗」したバイオハザード物質の出来上がりだ。
普通なら詰んでいる。
でも、私にはチートがある!
「悪いけど、菌の繁殖は許さないわよ! ……《冷却》! 《保存》!」
私は魔法で保存袋を冷蔵庫と同じ「チルド室温度」に固定し、さらに鮮度が1ミリも落ちないように結界を張る。
世界を救う勇者が使うような高位魔法を、まさか鶏肉の漬け込みに使うとは神様も思うまい。
でもいいのだ。食中毒ゼロ、旨味マシマシ。これぞ生活魔法の正しい使い方!
「ふふっ、完璧ね」
冷んやりとした保存袋を満足げに眺める。
待ってて、リアちゃん、ミアちゃん。
明日のランチタイム、あなたたちの舌をとろけさせてあげるから!




