第106話 深夜のジャム工場。魔法の全自動調理で大量生産開始!
「ふふっ、つまりこの純白の砂糖と、きめ細やかな粉を使えば……現地の職人さんがどんなに頑張っても真似できない、洗練された味が出せるってことよね!」
私は純白のグラニュー糖を指ですくい、光にかざしてほくそ笑む。
このキラキラした粉末こそが、私の商売の切り札だ。
「よし、まずは主力商品である『妖精の宝石ジャム』から!」
鍋に、森で採ってきた大量の森苺と、通販で買った最高級グラニュー糖を放り込む。
そして、味の引き締めととろみ付けに欠かせない、レモン果汁もたっぷりと回し入れる。
【レシピサイト】で、一度に大量に作る際のコツ(アクを丁寧に取り除く、焦げ付かないように火加減を調整するなど)を再確認。
(ふむふむ、なるほど。でも、私の場合は……)
「《調理》!」
一言念じるだけ。
アク取りも火加減も、全て魔法が全自動でやってくれる。
うん、チートって素晴らしい!
ジャムがコトコトと煮込まれている間に、同時進行で次の商品に取り掛かる。
集客用の『森の恵みクッキー』だ。
これも、【レシピサイト】の動画を見て、サクサクに仕上げるプロの技を真似する。
バターをクリーム状に練って、砂糖を加えて、卵を少しずつ混ぜて……。
この地味な作業も……。
「《攪拌》!」
ボウルの中の材料が、ひとりでに、しかし完璧な速度と力加減で混ざり合っていく。
おお、ハンドミキサー機能まで付いてるとは!
生活魔法、恐るべし!
生地を寝かせている間に、最後の仕込み。
『安らぎのハーブティー』の茶葉作りだ。
森で採ってきた『安らぎの葉』を、丁寧に水洗い(もちろん《洗浄》魔法で)し、水気を切る。
そして、それを大きな網の上に広げて……。
「《乾燥》!」
一瞬で、葉っぱから水分が抜け、パリパリの状態に。
同時に、ハーブの持つ、爽やかで、心を落ち着かせるような香りが、厨房いっぱいに広がる。
(うーん、いい香り……! これ、絶対に売れるわ!)
私は、出来上がった茶葉を、指で優しく揉んで細かくする。
うん、完璧な出来栄えだ。
そうこうしているうちに、ジャムもクッキーも、次々と完成していく。
粗熱が取れたジャムを、卸値で買った瓶に詰め、クッキーと茶葉は昼間通販で購入したクラフト袋へ。その口元に、同じく通販で手に入れた色とりどりのリボンをキュッと結んでいく。
深紅のジャムには金の縁取りのリボンを。
ハーブティーの袋には、爽やかなグリーンのリボンを。
そして、クッキーの袋には、暖かな陽だまりのようなオレンジ色のリボンを。
厨房のテーブルの上には、あっという間に、私の手による商品たちがずらりと並んだ。
キラキラと輝くその姿は、まさに『宝石』の名にふさわしい。
学園祭の前日に、徹夜で準備をしていた時のような、不思議な高揚感と達成感を思い出す。
(……いや、ごめん。大学の学園祭の準備で徹夜してたのは、同じサークルの友人たちで、私は「じゃ、お先ー」とか言って、ちゃっかり先に帰ってたんだった。後でめちゃくちゃ文句言われたっけ……)
そんな、どうでもいい過去を思い出す。
あの頃の私が、まさか異世界で、一人でこつこつと夜なべ仕事をするなんて、想像もしてなかっただろうな。
(ふふふ……! でも、悪くない! これで、準備は整ったわね!)
あとは、これを売るための「場所」と、手伝ってくれる人を確保するだけ。
明日は、リックをスカウトしに行かなくちゃ。
四次元バッグの中には、準備万端の商品たち。
そして、私の胸には、明日からの新しい挑戦への、燃えるような期待。
来るべき、露店開業の日に向けて。
私の小さくて、でも、とてつもなく大きな商売が、今、静かに、しかし確かに、その産声を上げたのだった。




