第105話 ガラス瓶を大量仕入れ! 商業ギルドの登録証が最強すぎました
私はすかさず【異世界インターネット接続】を起動し、地図アプリ(詳細版)を開く。
衛星写真並みの正確なマップと、現在地を示すピン。
これと紙の地図を照らし合わせれば、もはや迷うことなどあり得ない。
(よし、ルート確認完了! テクノロジーの勝利ね!)
私たちはナビに従い、最短ルートで市場の裏手にある卸問屋街へと向かった。
狙いは、ガラス製品を扱う問屋だ。
夕暮れ時の問屋街は、店じまいの準備をする商人たちで慌ただしい。
私は、ガラス問屋の親父さんに声をかける。
「すみません、このガラス瓶を100個ほどいただきたいんですけど」
「あん? 100個だぁ? 嬢ちゃん、お使いか? 一見さんにそんなに卸す在庫は……」
親父さんが渋い顔をしたその瞬間、私は『商業ギルド登録証』を、まるで水戸黄門の印籠のように掲げた。
「『ヤマネコ商会』代表、ヤマネ・コトリです。新規取引をお願いできますか?」
「……! こりゃあ、本物の登録証……! しかも、今日の日付じゃねえか!」
親父さんの目の色が変わる。
商業ギルドの証は、この街での信用の証。子供だろうが何だろうが、これを持っている相手は「客」ではなく「取引先」になるのだ。
「へえ、若くして大したもんだ。……いいだろう。業者価格で勉強させてもらうよ」
結果、一般価格よりも3割ほど安く、瓶を仕入れることに成功した。
もちろん、全て四次元バッグに収納して、手ぶらで帰還だ。
(ふふふ……これぞ、大人の買い物!)
◇
その夜。
宿の客たちが寝静まり、メインストリートの喧騒も遠のいた頃。
『木漏れ日の宿』の厨房は、私だけの秘密の工場と化した。
カランコロン、と。
女将さんが「頑張ってね」と、夜食用のミルクとパンを差し入れてくれる。
うん、この宿、本当に居心地が良すぎる。もはや第二の実家だ。
(……なんてね。この世界に、第一の実家なんてないんだけど!)
私は、心の中で一人、小さくツッコミを入れる。
そう。もう、元いたあの世界には、二度と帰れない。
仕事から疲れて帰っていた、あの狭い賃貸マンションにも。
たまに顔を出していた、実家にも。
時々、ふと思い出す。
お母さん、お父さん、それに数少ない友達も、突然の事故で、たくさん泣かせちゃっただろうな。もう、みんな元気になっているといいな。
ほんの少しだけ、胸の奥が、きゅっと痛くなる。
でも、私は、もう前に進むって決めたんだ。
ここには、コロがいる。孤児院のみんながいる。そして、私を応援してくれる、新しい出会いがあった。
(……感傷に浸ってる暇はないわね!)
私は、パン、と一つ、自分の頬を軽く叩いて気合を入れる。
「よーし。ヤマネコ商会、本格的に生産開始だ!」
まずは材料の調達だ。
容器は現地のものを使って「地元の品」っぽさを演出するけど、中身は妥協しない。
味が全ての勝負だもの。ここは文明の利器をフル活用させてもらうことにしよう。
私は【異世界インターネット接続】を開き、通販の製菓材料のページへ。
『最高級グラニュー糖(純度100%) 1kg 300P』×5
『北海道産 特選薄力粉 1kg 400P』×5
『発酵バター(無塩) 450g 800P』×5
『有機レモン果汁 100% 500ml 500P』×2
ポチッとな。
瞬時に届いた段ボールから、真っ白な砂糖と、きめ細やかな小麦粉を取り出す。
宿の食事も、孤児院のみんなにお土産で買ったパンも、ちゃんと白くてふわふわだったから、小麦粉自体はこの世界にもあるはず。
でも、食べてみて思ったけど、やっぱりちょっとざらつきがあるというか……この世界の文明レベルじゃ、日本の「特選薄力粉」みたいにきめ細やかにはならないと思うのよね。
それに、砂糖。
市場を歩き回った限りでは、果物や蜂蜜は売ってたけど、精製された白い砂糖は見かけなかった。……もしかしたら、薬屋さんとか貴族御用達のお店にはあるのかもしれないけど、少なくとも庶民が気軽に買えるものじゃなさそう。




