第104話 女将さんも虜に! 『妖精の宝石ジャム』で製造拠点をゲット
「……まあ!」
ようやく絞り出したような声で、彼女は感嘆の声を漏らした。
「なんて……なんて、美味しいものなの、これ! 甘いだけじゃなくて、この、きゅんとするような酸っぱさ……! それに、この豊かな香り……! こんな食べ物、生まれて初めてよ!」
「ふふ、気に入っていただけたみたいですね。よければ、残りのパンもどうぞ」
私は、手に持っていたパンの残りとスプーンを、女将さんに差し出した。
女将さんは、「あら、いいのかい? 悪いわねぇ」と言いつつも、嬉しそうにそれを受け取ると、今度は自分でたっぷりとジャムを乗せ、もう一口、もう一口と、夢中になって口に運んでいる。
うんうん、そのリアクション、100点満点です!
ひとしきり感動した後、彼女は、はっとした顔で私に向き直った。
「コトリちゃん、あなた、これを売るつもりなのね?」
「はい、そのつもりです!」
さすがは商人や家族連れを相手にしている宿屋の女将さん。
ただ美味しいで終わらない。すぐにビジネスに結びつける、その思考の速さ、素晴らしい!
「つきましては、女将さんにお願いが……」
私は、ここで一呼吸置く。
ここからが、本番の交渉だ。
「このジャムや、他のお菓子を作るために、夜、皆さんがお休みになった後で、こちらの厨房の隅を、少しだけお借りすることはできませんでしょうか? もちろん、薪代など、かかった経費はお支払いします。それから、お礼として、出来上がったジャムやクッキーも、好きなだけ……」
「いいわよ!」
私の言葉を遮るように、女将さんが、満面の笑みで即答した。
(え、早っ!?)
あまりの快諾っぷりに、今度は私がきょとんとする番だった。
てっきり、「うーん、厨房は神聖な場所だからねえ……」とか、もうちょっと渋られるかと思ってたのに。
「もちろんよ! こんなに素晴らしいものを作るためなら、厨房くらい、いくらでも貸してあげるわ! 薪代なんていらないわよ。その代わり、時々、味見させてくれればそれで十分!」
女将さんは、私の手をぎゅっと握りしめて、ぶんぶんと上下に振る。
その瞳は、完全に「美味しいものの虜」になった食いしん坊のそれだ。
(……チョロかった! いやいや、失礼。私の商品の魅力が、それだけ圧倒的だったということね!)
こうして、私は、女将さんの胃袋をがっちり掴むという、最も確実な方法で、無事に、最初の製造拠点 (キッチン)を確保したのだった。
◇
交渉成立の興奮も冷めやらぬまま、私は一度、自室へと戻った。
ベッドの上で、コロが「おかえりー」と尻尾を振っている。
「ただいま、コロ。順調よ。製造拠点は確保したわ」
でも、まだ安心するのは早い。
場所は確保した。
パッケージの装飾も、さっき通販で届いたから手元にある。
問題は、肝心の「容器」がまだ手元にないことだ。
(市場調査の時に買ったサンプル用の瓶一つじゃ、商売にならないものね)
私は四次元バッグから、今日手に入れたばかりの、ピカピカの『商業ギルド登録証』を取り出す。
銅色に輝くプレート。これこそが、私の次なる武器だ。
「さて、と。コロ、もうひとっ走り付き合ってくれる? 今度は『仕入れ』の時間よ!」
『しいれ! いく!』
私たちは再び宿を出た。
とはいえ、私はこの街に来てまだ数日。卸問屋がどこにあるかなんて、知る由もない。
そこで役立つのが、今日のお昼に買った『ハルモニア商業地図』だ。
広げて確認すると、市場の裏手の区画に『問屋街』という書き込みがある。
(なるほど、ここね。でも、路地が入り組んでて分かりにくいわ……)




