豆腐の角に頭をぶつけて
俺はラノベの小説を書いている。異世界ファンタジーの転生もの。最近では当たり前のように出てくる設定だが、俺の場合はちょっと違う。
転生とはいえ、ファンタジー世界が広がっている。転生元は日本なんだけど、転生先は西洋の中世風のものが多い。だから、日本のことわざとか、日本の風習とかをそのまま持って行くとおかしなことになってしまう。
例えばだ、スターウォーズの世界に納豆が出て来たとしたらどうだろう。
ジュダイが言うんだ。「フォースと共に納豆があらんことを」っていう。
それはなんかおかしいだろう。フォースってのが何だかわからんけど、納豆は駄目だ。納豆にはご飯というモノが付き物だから、フォースはあかんだろう。フォースは。
だから、納豆を出すためには、まずはフォースが何かを説明しないといけないし、フォースと共に納豆を食べて健康になるということは、そもそもその世界で納豆が作れる技術があるか?ってことになる。
納豆だって作るのが大変だぞ。良く知らんけど。
別に納豆じゃなくてもいい、鉛筆でもいい。例えば、チューバッカが鉛筆を以ってメモを取っていたらどう思う?ボールペンでもいい。万年筆ならばよさそうだけど、鉛筆やボールペンだとだめだろう。もじゃもじゃの毛皮で鉛筆を持っていたらそれはごん太君になってしまうじゃないか。ごん太君はスターウォーズの世界にそぐわないだろう。たとえ、わくわくさんのフィギュアが出て来たとしてもチューバッカの横に置くことはできない...ことはないのだが、世界観が壊れてしまう。そういう文明の中で、鉛筆だとかボールペンだとかいうものが存在してはいけないのだ。そりゃ、かつてはあったかもしれないけど、地球にあったかもしれないが、チューバッカの生まれた国というか星ではボールペンはないだろう。たぶん、きっと、ない。
そういう設定がラノベにもある。異世界転生だからといって、なんでも日本のものを持ち込んじゃあいけない。日本人が読者だからといって、そこに甘えてはいけないのだ。
だから、ラノベの中で「豆腐の角に頭をぶつけて」と主人公が言う時に、ちょっと待て、この世界には豆腐というものが存在するのだろうか?と作者である俺は考えてしまうのだ。
それと同時に、主人公も考えてしまうわけだよ。
「豆腐、とはなんだ?」国王は答えた。
「それは、白くて柔らかい食べ物で、角があるものだ」俺は答えた
「白くて柔らかい食べ物で、角があるもの?」国王は首をかしげた。「それは、なんの役に立つのだ?」
「いや、役に立つとか立たないとか、そういうことではなくて、ただ、そういうものがあるのだ」
「角があると何か役に立つのか?」
「いや、だから、役に立つとか立たないとか、そういうことではなくて、ただ、そういうものがあるのだ」
「それは、どこで手に入るのだ?」
「残念ながら、ここにはないのだ」
「では、なぜそんなものを知っているのだ?」
「それは、俺が元いた世界にあったからだ」
「元いた世界?」
「いや、なに、忘れてくれ。東のほうの国にあるのだ、とても遠いところにある」
「東の方の国か」国王は遠くを眺めた。
この国は、魔王に支配されようとしている。暗黒の欲望が東から迫ってくるのだ。魔王の歩みはのろいが実に確実にやってくる。そう、4年に1回あるうるう年のように、一歩一歩着実にやってくるのだ。たまに100年に1回程、進まないときがあって、あれ、なぜあるのかないのか。と天文学者が言っていたのだが、まあいい、よくわからないが100年に1回位ならば誤差で十分だろう。と思っていたら、なんと2400年には一歩進んでしまって大惨事になってしまった。魔王の歩みは、あまりにものろいので観光地化していたのだが、まさか2400年に進むとは思わなかったのだ。露店が潰れ、出し物の金魚すくいや射的や綿あめが潰れてしまった。チョコバナナなんて悲惨なものだ。焼きそばがまき散らされて大変なことになっている。あれを見ろ、タピオカジュースが喉につかえているじゃないか。いやいや、タピオカが何なのか、既にわからなくなっているのだから、それが枝豆のようなものなのか、白玉のようなものなのかわからないだろう。とにかく、タピオカは太いストローで吸わないといけないので、ちょっと小さめのストローで吸うとずこっとなって詰まってしまうのだ。それを無理矢理ずずずずずっとすすると、ぱこーんと喉の奥に入ってきて大変なことになってしまう。げほげほとせき込みながら、これがこんにゃくゼリーだったら、どれだけ恐ろしい事になっていただろうか。うずらの卵だったら、きっと俺は、と思わずにはいられない。現在、小学校ではうずらの卵を使われなくなったので大丈夫だと思うが、うずらの卵がない八宝菜は味気ないだろうなあ、と思いつつ、君よ早く大きくなれよ、と俺は改めて思った。
そんな俺の思いを知ってか知らずか、国王は言葉を続けた。
「東の方の国、そこに豆腐というものはあるのか」国王は遠くを眺めた。
「ある、きっと、たぶん」
「行け、勇者よ。きっと、そこに豆腐はあるのだろう。たぶん」
「はい、かしこまりました、国王陛下」
勇者は国王の命を受け、東の方の道に進んだ。なんだ、東の方ってのは?消防署の方と同じか、そっちの方か来たってだけなのか?それとも何か?東方より賢者が来るのだから、賢者の来るほうに行けば賢者がわんさかといるんじゃないか、きっと、多分、論法か?とそんな筆者の思いをよそに勇者は東に向かったのであった。
勇者は道を進む。
途中、きびだんごを貰ったり、イヌイットに出会い、東方見聞録の記事を読んだりしながら、去るもの追わずと言いきびだんごを盗み食いしていった猿を見送った。
どんぶらこっこ、どんぶらこっこ、と何かが流れた。
熊が出れば相撲を取り、海底に二万マイルにある竜宮城のようなものに免許を更新に行った。顔写真を撮られながら、勇者は勇者の免許を更新した。
道中には、大豆を作っている農家があった。勇者は大豆畑の前に立ち止まった。
水もたっぷりあった。
なぜか手順書が落ちていた。
1. 大豆の準備と浸水
2. 粉砕して「生呉」を作る
3. 煮てから濾す(豆乳とおからに分ける)
4. 豆乳を温めてにがりを加える
5. 型に流し込み、重石をして成形
6. 完成!水にさらしてアク抜き
勇者は考えた。なんて無理な問題なんだろう。豆腐というものがわからないままに、国王は豆腐を作れと命令をする。私にはどうすることもできない。命令に背くことはできないのだ。いくら、大豆があったって、豊富な水源があろうと、手順書さえ落ちていようとも、それが何ものかわからない。なまごとは何か、にがりとは何か、異国の言葉で語られる豆腐なるものに、さらなる専門用語がついてくる。ターム、それが私を悩ませる。ミームそれも私を悩ませる。勇者は、国王をはじめとして皆がいやになってしまった。そもそも、勇者役なんてやりたくなかった。木の役だってよかったんだ。目立ちたいなんて思ったことはない、私はただただ・・・。
勇者は頭を抱えた。
勇者はよろよろとよろめきながら、大豆の畑に立ち入った。大役に疲れ果てた勇者は、畑の中で倒れそうになっていた。
無闇に国王の言葉にあわせるんじゃぁなかった。俺は、俺は、俺は。大豆畑から零れ落ちそうな子供たちを助けていたいだけだったのだ。なぜ、大豆をすりつぶした豆腐なんかにこだわってしまったのだろう。そのまま湯がいて枝豆として食べればいいじゃないか。そのほうがましなのに、豆乳を造ったりにがりを入れたりして、なぜこんなことに。蒟蒻問答が続いた。
筆者はポケットから豆腐を取り出して、思いっきり勇者に投げつけた。ぐしゃっと豆腐はつぶれて、勇者ははっとなった。ぬかに釘であった。
勇者は砂浜に立っていた。
そう、勇者はもう自分の足で歩けるのだ。
【完】




