借金傭兵リサ登場
逃げ場を失った二人と一匹。
そこへ現れたのは借金傭兵リサ――
波乱の同居劇が始まる。
逃げに逃げて、ようやく一息。
俺とシルクと、スマホの中のナナは、
人気のない森の小屋に転がり込んでいた。
息が荒い。
手汗でスマホが滑りそうだ。
「……なあナナ。さっき神罰機関の連中が言ってたよな。
秩序の逸脱者って」
「言ってたわね」
「もしさ、お前をあいつらに差し出したら……」
「あなたのスマホに寄生してる私を?
どうやって?」
「……冗談だよ」
俺は乾いた笑いを浮かべる。
(――いや、冗談じゃない。
選択肢として考えた。それだけだ)
「それに、どうせ俺はマイナス一億だ。
今さら最悪が一つ増えたって変わらねえ」
「ひど……」
ナナが画面の中で頬を膨らませる。
「せっかくいい男と運命の出会いをしたのに」
「どこがだよ。
得体の知れない獣とスマホに寄生された中退高校生だぞ」
「私は全然アリだけど?」
「お前の基準、どうなってんだ」
ナナの耳が赤くなり、尻尾がぴくりと揺れる。
――こいつ、照れてるな。
そのとき、小屋のドアが軋んで開いた。
「……あんたら、朝っぱらから何やってんの?」
金髪のポニーテール女が立っていた。
ボロボロの鎧。安物の剣。だが目だけは鋭い。
(――傭兵か。
装備は貧乏だが、目は死んでない)
「誰だお前!」
「借金取りに追われてるただの逃亡者。
ここ空き家だと思ったら……あんたら泥棒?」
「違う! 俺たちも逃げてるだけだ!」
「ふーん……」
女――リサは腕を組み、
俺たちを値踏みするように見た。
(こっちを警戒してる。
でも、敵意は薄い。借金絡みか?)
スマホが震える。
《リサ(傭兵)
借金 −2,000,000
(勇者パーティーに騙され、バリューバトルで大敗)》
ナナが弾んだ声を上げた。
「ミチル! この人も借金持ちだよ!」
「……二百万で人生詰むとか、安い女だな」
「はあ!?」
リサが目を剥いた。
(――ああ、こいつなら押せる)
俺は一瞬でそう判断した。
「なあ。お前、価値闘争
――バリューバトルに出てたんだろ?」
「……なんでそれを」
「顔に書いてある」
「適当言うな!」
「で、負けて借金背負った。違うか?」
「騙されただけよっ…」
リサの声が弱くなる。
よく見ると、目元に涙が滲んでいた。
「自分でダメージ受けてどうする。
安心しろ。一山当てて、まとめて返してやる」
「……あんた、勝算あるの?」
「あるに決まってるだろ」
俺は胸を張った。
「俺くらいになると、借金なんてただの通過点だ。
金は向こうから転がり込んでくる」
「……怪しい」
「でも嘘ついても得しないだろ?」
「……それもそうね」
(よし、引っかかった)
ナナが画面の中で頭を抱えている。
「ミチル、性格悪すぎ……」
「生き残るためだ」
「堂々と言うな!」
リサは少し考え込み、やがて肩をすくめた。
「……いいわ。
どうせ私はもう夜逃げ寸前だし」
そう言って、机の上に固いパンを並べる。
「腹減ってるんでしょ」
「助かる」
俺は遠慮なく齧りついた。
シルクはニンジンをかじり、ナナは満足そうに尻尾を揺らす。
こうして。
借金一億の中退高校生と、
借金二百万の傭兵と、
借金の元凶である神獣と魔獣の、
最悪な共同生活が始まった。
リサが地図を広げて言う。
「バリューバトル会場はここ。
明日、行くわよ」
俺はにやりと笑った。
(――ようやく、狩る側に回れる)




