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残価−100,000,000の神様 〜壊れた世界で価値を視る俺〜  作者: ふりっぷ


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語りの再生: 神格の視点

神格位を得たミチルに、神獣ナナの妖しい誘惑が迫り

世界の歪みを「色」として視る視点が、都市の再生を呼び覚ます。



「ミチル。あなたは神格位を得た。

神獣の私と混じり合う時が来たのかも知れないわ」


ナナは静かに笑っていた。スマホの画面越しだというのに、

その声音は、喉元に触れるほど近い。


「ナナ、何を言っている?」


「味見をしたいって言っているのよ」


指先を舐める仕草。

くすりと笑う声が、妙に甘い。


「ふふ。ミチルの血が、どんな味がするのかしら?」


俺は言葉を返そうとしたが、

その瞬間、腕に光のコードが走った。


視界がぐにゃりと歪む。


脳髄を灼けた溶岩が這うような、とんでもない痛みが襲った。

息ができない。汗が噴き出す。膝が勝手に地を打つ。


ナナの笑い声が、脳に直接響く。


――甘く、どこか毒を含んだ、鈴の音。


世界が、色に染まっていく。


人は赤い命の炎として脈動し、

土地は青く沈んだ影を纏い、

建物は黄ばんだ腐食の霧に包まれていた。


価値、格差、罪、祈り。

それらの濃淡が、露骨に鮮やかに浮かび上がる。


あまりに生々しくて、吐き気がこみ上げた。


――この世界は、最初からこんなに歪んでいたのか。


「これが神の視点よ」


ナナが囁く。優しい声だった。


「ミチルの神格位が上がれば、色だけじゃない。

情報も読める。弱点も、秘密も、記録も。

森羅万象の“内部”が手のひらに落ちてくる」


「……初めてお前を怖いと思った」


「いいわ、それで。

でも、誤解しないで」


声色がひどく柔らかい。


「私はミチルを喰らうんじゃない。

ミチルと私は、一つになるの」


光がすっと収束し、痛みが引く。

世界は元に戻った。


ナナは、いつもの通りスマホの中で笑っていた。


まるで、何も起きていなかったかのように。


「ミチル様、なにかございましたか?」


シルクが駆け寄っていた。

白銀の髪が、夕陽にほんのり金を帯びて揺れる。


「いや。久しぶりに人間らしい食事をしたから、少しな」


「ふふ。では、もっと食べてください」


柔らかく微笑み、そっと肩に触れてくる。

その仕草が、かえって胸に刺さった。


――俺は、ただ彼女を助けたかっただけだ。


なのに、話はどんどん大きくなっていく。


次の言葉が決定的だった。


「この土地は、既に貴方様のものです」


シルクはその場で三つ指をつき、頭を垂れた。


「神である貴方が好きなようになさってください。

……どうかここから、秩序の再定義を」


胸の奥がざわつく。


俺は、そんな立場を望んでいたわけじゃない。


けれど。


逃げる理由も、もう無かった。


◇  ◇


翌日。

俺は丘の上に立っていた。


下には、崩れた廃都が広がっている。

沈んだ塔。割れた橋。干からびた湖。


霧は薄い膜のように街を覆い、

息をひそめるように静まり返っていた。


だが、俺の目には見えていた。


黒く沈黙していた神殿の“再生炉”が

かすかに青く脈動し始めている。


夜明け前の、心臓の鼓動みたいな光。


「……動いてるな」


背後で、リサが低く息をつく。


「ルメルが土地に執着したのは、これか」


「うん」


ナナが答える声は、いつになく静かだった。


半ば顕現状態で、透き通る衣を揺らしながら宙に浮かんでいる。

その影は細く、光に溶けそうで、けれど確かにそこにいた。


「この残価密度なら……都市再起動のプロトコルが通る」


「つまり、形は変わるけれど

都市は“もう一度、生まれられる”ってことです」


シルクが言葉を継ぐ。

白銀の髪が、風に揺れる。


ナナはゆっくりとうなずいた。


「でも、ミチル。これは一度きり。

語りの供給が足りなければ、里はこのまま沈む」


俺は、迷わなかった。


「それでもいい。

この土地に生きた人間の物語が残っているなら、足りる」


その瞬間、シルクが俺の掌にそっと何かを置く。


白い結晶。


竜の祈りの凝縮体。

神殿に吸い取られ、彼女が生き延びた証。


触れた指先に、心臓の鼓動のような温かさが伝わる。


「これを核に繋げれば……」


「再生炉、再起動開始」


ナナの声と同時に、光が走る。


地面の紋様が目を覚まし、

沈んでいた塔の影が震える。


湖面に波紋が広がった。

干からびていたはずの水が、ゆっくりと呼吸を始める。


「セントリムから送った残光値、ちゃんと届いてる!」


ナナの瞳が輝いた。


風が吹く。


冷えていた空気に、かすかな温度が戻っていく。


枯れた街路樹が微かに芽吹き、

遠くの塔はゆっくりと、地響きをまとって立ち上がる。


金属が軋む音が、深い地底から響いてきた。

まるで大地が、長い眠りから目を覚ますかのようだ。


俺は目を細めた。


「これが……語りの再生か」


ナナが、穏やかに笑う。


「語りを繋いだのは、あなたたちよ。

信じ続けた人と、失われなかった竜の記憶」


その横顔は、少しだけ優しくて。

俺は、その表情に息を飲んだ。


俺は前に一歩出る。


「今日からここは――再生都市ソラリアだ」


その言葉が、都市の空気に溶けていく。


胸の奥で、神格位の重みが

ほんの少しだけ、軽くなった気がした。


第二章完結です。

物語も一旦完結とさせていただきます。


皆様、ご愛読ありがとうございました。

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