屑の美学と光結晶の欠片
神殿崩壊後、ミチルたちは街へ戻る。
最低と呼ばれながらも、彼は自分なりの祈りを選ぶ。
神殿の階段を下りながら、
俺は片手をポケットに突っ込んだ。
風は冷たく、崩れた祈りの欠片がまだ宙を漂っていた。
ナナは尻尾をしょんぼり垂らし俯いている。
「さっさと町に戻るぞ。バリューバトルの続きだ」
「えっ、神殿はどうするの?」
「神獣のお前がいるんだ。きっと再建できるさ」
「進化も出来なかったのに?」
俺は肩をすくめた。
「どうせ化け物になる未来しか浮かばねぇよ」
ナナが尻尾をぶんぶん振って怒る。
「また暴言吐いた!
進化って、そういうもんじゃないから!」
リサが笑いながら言う。
「でも、そういうミチルがいるから、
ナナも安心できるんでしょ?」
俺は空を見上げた。
街の空気は、ここから見下ろすと濁って見えた。
でも、俺にはあの雑踏のほうが落ち着く。
街に戻って数日。
神殿の崩壊がギルドの報告書に載った。
“神獣の離脱による信仰値低下”──それが公式見解だった。
俺はスマホを見ながら、パンを齧る。
「……神獣がいなくなったから神殿が崩壊した?
本当にそうか?」
ナナが尻尾を揺らしながら言った。
「光結晶が砕けたのは確かだけど、崩壊は早すぎるよね」
リサが外出から戻ってくる。
「勇者パーティーが嬉々として光結晶を持って行ったって噂広めておいたよ。
とばっちりがきたら敵わないから」
「……あいつら、光結晶を“覚醒装置”に使った。別に嘘じゃない」
ナナが耳をぴくっと動かす。
「ポンコツでもクラスチェンジしたのは間違いない。
もしジンが“神格覚醒”までしたら、私たち……」
リサが真顔で言った。「
ヤバいわよ。散々恨みを買ったし、あいつらの価値観は“秩序の支配”だから」
俺はため息をついた。
「でも、あいつらだって自業自得だ。語りを封じて、
価値を偽装して、信仰を数字にした。
それで世界が守れるわけないだろ」
ナナが静かに微笑む。
「ミチル、もし勇者が神格覚醒したら、
語りを“消去”する力を持つかもしれない」
――光欠片の震えが、俺の胸のように疼く。
「……語りを消す? それ、俺の存在否定じゃねぇか
まあ、保険はかけてある。心配するな」
全員を引き連れ、俺はリサのアパートの屋上にいた。
夕焼けが、借金まみれの空を赤く染めている。
俺はポケットから、小さな光の粒を取り出した。
「……あっ、光結晶のかけら!」
リサが眉をひそめる。
「それ、神殿から持ち出したの?
ギルドに報告してないでしょ」
「ほんっと最低ね」
俺は肩をすくめた。
「褒めるなよ。ちょっとした保険だって言ったろ。
あいつら──勇者パーティー──
完全な覚醒を求めこの欠片を探すはずだ」
俺は光結晶のかけらを握りしめた。
その光は、微かに震えていた。
語りの残滓が、まだこの中に残っている。
「……語りは、保険じゃない。
でも、語りを守るためには、こういう“最低”も必要なんだよ」
ナナが微笑む。
「それが、ミチルの“屑の美学”だね」
リサが笑う。
「でも、最低な奴ほど、語りが深いのよね」
俺は空を見上げた。
赤く染まった夕焼けの向こう、夜が滲み始めていた。
「最低でも、生き残る。
それが俺たちの語りの続きだ」
ミチルの“最低な保険”が、
次回の大騒動に繋がります。




