覚醒勇者(未完)
覚醒勇者、ついに登場
──しかしその“進化”は未完だった。
ジンが動揺している隙に
スマホ画面に勇者パーティーの弱点が表示される。
だが――空気が震えた。
先制した賢者セラの放った火球がリサを襲う。
「断価の刃っ!」
リサは目の前に迫った火球を二つに割った。
火球は光結晶の背後にある巨大なステンドグラスに炸裂
熱風が頰を焼き、光と影の破片が鋭い音を立てて舞い散る。
ジンはその中で、態勢を立て直し、シルクの爪を弾き、
返す刀で態勢の崩れた胴を狙う。
爪が割れながら辛うじて躱すシルクに、
白銀の刃が、まるで祈りの象徴のように輝く
――割れた爪から、微かな血の臭いが漂う。
「ここまで来て何故、お前達は救済を拒むのか――
真偽眼で見るとゴミのようなステータスなのに」
彼の瞳に、一瞬だけ迷いが宿る。
俺はその隙を見逃さない。
「お前のそういうところだ。
人に借金背負わせる、くそ野郎!」
俺はスマホを握りしめて前に出る。
「左の剣豪カイル、右目弱視──」
右手で砂を掴み、迷いなく戦士の顔面にぶちまけた。
「おらっ、目ぇ開けんなよ!」
カイルが呻いた瞬間、ミチルの蹴りが腹に突き刺さる。
「借金持ちの蹴り、なめんなよ!」
聖女リオラが治癒詠唱を始める。
すぐにスマホが反応する。
《弱点:病気の妹/価値残滓:保護欲・罪悪感》
画面に浮かぶ赤い警告アイコン。リオラの妹の名前が、
ぼんやりと表示されていた。
俺は一瞬だけ躊躇する。
「……おい、それはちょっとガチすぎるだろ」
ナナが画面の中で小さく頷く。
「うん、ジンに無理やり従わされたのかも」
俺はリオラに向かって叫ぶ。
「俺は人も嵌めるし、弱点も突く。
でも、お前と違って“いい人”でいたいんだよ。
それが俺の価値だ!」
リサが笑った。
「それって最高にあなたらしいわね」
「私も…あなたのように素直に生きられたら」
リオラの詠唱が止まる。
勇者パーティーのバフも解け動きが鈍った。
ナナの光が、祭壇の結晶と共鳴し石畳が振動を始めた。
《信仰値:104 → 132》
戦闘はまだ終わらない。
だが礼拝堂を満たすのは、もはや殺意ではなく――
“価値”という名の祈りだった。
ナナが叫ぶ。
「ミチル、スマホを制御に回して!
信仰領域が崩壊する! もう限界!」
俺がナナに気を取られた瞬間
ジンの剣が閃き、空気を裂いた。
「俺は勇者だ。何人もクラスチェンジの邪魔はさせん!」
床に赤い紋が走る。
《偽装ダメージ:2,800,000》
見えない衝撃が胸を貫き、息が詰まる。
「ぐっ……何度やられても慣れないぜ……!」
ジンが脇を駆け抜けていくのをとめられない。
リサは横に飛び、杖を握るセラを牽制している。
シルクはカイルに手傷を負わせてはいるが、
爪の負傷が響き、止めを刺せなかった。
光結晶の輝きが激しく脈動する。
「ナナ、間に合うのか!?」
「あと一秒――!」
「どけっ!!!」
ジンがナナから伸びている二箇所の接続コードを切り飛ばし、
光結晶に無理やり手を伸ばす。
大地が震え、天井のモザイク画が崩れ落ちるほどの輝き。
「……これが、《覚醒勇者》の力……!」
眩しさの中で、ジンは自らのステータスを確認し、
勝ち誇ったように叫ぶ。
「見ろ! 覚醒時の攻撃力、三倍! 防御力、四倍!
これぞ最強の進化形態だ!」
しかしその横で、俺は散らばった光結晶の欠片を拾い、
ジンの弱点を覗き込み、ため息をついた。
「……ねえ勇者さま。なんで一番大事な《秩序の祝福》が消えてるの?」
「な、何だと?」
ステータス欄には、不気味に点滅する
「???」の文字が並んでいた。
ジンは慌てて光魔法を放つ。
だが――
「ぐわっ!? 味方まで巻き込むなぁぁぁぁ!!」
「いやっ! ジン! やめてっ!」
カイルとリオラは慌てふためき、パーティ全体が炎の渦にさらされる。
一方のジンは、痛みを感じないらしくケロッと立っていた。
「ははは! 効かんな!」
「さすが覚醒勇者だな!」
と、俺は両手を挙げ褒めたたえた
――皮肉たっぷりに。
その後、勇者パーティはセラが炎に巻かれた二人をレジストし、
半壊状態で神殿を後にした。
本人だけは「これが覚醒か……!」と悦に入っていたが、
俺たちは口を揃えてこう呼んだ。
――《覚醒勇者(未完)》、別名《強奪くそ野郎》と。
最強の進化形態、
その代償は“秩序の祝福”の喪失。




