神域の祭壇と勇者の影
神殿の奥に眠る“光結晶”と、
ナナの進化への葛藤。
神殿の奥へと進むにつれ、空気が変わっていった。
苔むした石壁には、古代語で刻まれた祈りの文。
ナナがそれを見上げて、ぽつりと呟く。
「……これ、神獣への信仰文だよ。
“価値を繋ぐ者に、光を”って書いてある」
リサが足を止める。
「ここから先が“神域の祭壇”。
結界が張られてるから、
魔獣や価値狩りは入れないはずだけど……」
ミチルは飄々と笑い、スマホを掲げた。
「ナナ、内部の“価値残存”を解析しろ。
光結晶以外にも宝があるかどうか見極めてから進む」
スマホ越しに浮かぶナナの姿が、緊張して頷いた。
スマホに通知が走った。
《警告:価値偽装反応を検出》
《距離:120m/識別:勇者パーティー構成員》
俺は息を呑んだ。
「やっぱり……来てるよな、あいつら」
ナナが震える。
「ミチル、神獣進化したいけど……怖いよ。
神獣に戻ったら、また“封印”されるかもしれない」
俺はナナの頭を撫でた。
「進化は、誰かに見せるためじゃない。
お前が“語りたい”からするんだろ?」
ナナが小さく頷いた。
「……うん。語りたい。
壊された秩序の定義を、繋ぎたい」
迷宮は価値狩りこそ出なかったが、複雑に絡み合って
侵入者を拒む作りになっていた。
「よし、俺達の方が早い」
「勇者パーティーも近づいているよ。距離30メートル」
「このままだと光結晶の前で鉢合わせか」
「さすが勇者パーティーだ。聖女も優秀だったな」
神域の祭壇は、
崩れかけた迷宮の奥に静かに佇んでいた。
「もう、すぐそこ。強い価値結晶が奥に眠っている。
……でも、注意して。私達も補足された」
中央には、淡く光る結晶が浮かんでいる。
それは、信仰の残滓が凝縮された“光結晶”。
ナナがそっと近づき、目を細める。
「……これ、すごい。
信仰値が濃い。触れたら、進化できるかも」
スマホに通知が走る。
《進化条件:光結晶との接続/信仰値100以上》
《現在:72》
リサが地図を畳みながら言った。
「この結晶、ギルドに持ち帰れば報酬も出る。
でも、ナナが神獣に戻すなら、報酬はゼロ。
借金減らすか、進化を選ぶか──ミチル、どうする?」
「……進化だ。
ギルドも結晶ごと持ち帰れとは言っていないはずだ」
ナナが笑った。
「ミチル、ありがとう。
じゃあ、行くね──」
その瞬間、祭壇の空気が震えた。
石壁の向こうから、重い足音。
剣の鞘が石を擦る音が回廊に反響し、壁の苔が微かに落ちる。
リサが低く呟く。
「……来たわね。勇者パーティー」
神殿の回廊に足音が反響した。
光の魔法が灯され、
神々しい光に包まれた一団が姿を現す。
「おや? 誰かと思えば、
借金持ちの神獣連れじゃないか」
低い声が響いた。
背中には聖剣、胸にはヒビの入った勇者の紋章。
――間違いない。
信仰の残滓に揺れるナナと、
迫る勇者の影。




