殉教者の街―信仰バリューバトル―
殉教者の街で始まったのは剣でも魔法でもない
「信仰」の戦いだった。
殉教者の街。石畳の広場に集った群衆の前で、
俺はいつの間にか「挑戦者」として祭壇に立たされていた。
ざわめきが波のように押し寄せ、
汗ばむ視線が俺の残価を値踏みするように突き刺さる。
――借金まみれの俺が、
新興教祖を相手に口で殴り合う日が来るとはな。
目の前には黒衣をまとった扇動者
――名乗りは「聖価師」。
「秩序の神は、いまだ眠り給う!
目覚めを乞う者こそ、真なる価値を得るのだ!
この俗人どもに、神の秩序が触れ得ようか!」
群衆がざわつく。
俺のスマホに浮かぶ数値は《信仰:7》。
対する聖価師は《信仰:129》
――圧倒的な差。
「難癖つけて、よそ者を追い出そうとしているのよ」
リサが隣で舌打ちする。
「なんだよ、信仰って?」
「ミチル、信仰1は価値¥10,000にも相当する。
ただし、特別な役職に付かなければ換金不能」
「逸脱者のあなたには何の価値もないよ。
バックレてもいいんじゃない?」
リサは乗り気でない。
「残価と別枠だってわかっただけでもやりやすいぜ」
「発言で群衆の心を動かした方が勝つ。
つまり、言葉の戦いだね」
ナナが補足する。
《バリューバトル開始》
――数値がスクリーンのように空へ投影され、
歓声と罵声が入り混じる。
「俗人は秩序に触れることが出来ないって?
安易に必要ない! 俺の体は借金と汗でできてんだよ!」
――その瞬間、群衆の中からどよめきが起きた。
手を合わせる者、拳を掲げる者。
価値が光の粒になって空へ舞い、俺の数値が跳ね上がる。
俺もスマホを掲げる。
《発言:自己開示》
――群衆の共感値+15。
数値が《信仰:22》に。
「安っぽい同情を買っているだけだ!」
聖価師が古文書を掲げ、群衆の一部を取り込む。
《発言:権威引用》
――《信仰:129 → 148》。
「ミチル、あいつの弱点は――」
「わかってる。俺にも見えたよ」
俺は嘲笑の笑みを浮かべる。
「アンタが言ってる神の言葉、
その古文書の裏に“寄進額一覧”って書いてあるのが読めるんだが?」
スマホが古文書のページを投影
――数字のリストが空に浮かび、
ざわっ、と群衆がどよめく。
「寄進? あいつ、金儲けが目的か!」
「俺の寄付、無価値かよ!」の野次が飛び交い、
《発言:虚偽暴露》
――対象の信頼値を直撃。
聖価師の《信仰:148 → 93》。
「なっ……!」
「価値ってのはな、上から与えられるもんじゃない。
生きて、選んで、積み上げるもんだろ!」
俺の声が広場を震わせる。
群衆の目が一斉に俺に向き、聖価師への不満ゲージが爆発的に上昇。
「俺達を養分にしやがった!」
「ぶっ殺せ!」
聖価師の《信仰:93 → 0》
「な……なぜだ、私は選ばれし器のはず……!」
スマホの画面に《勝敗判定》の光が走る。
《Winner:ミチル》。
敗北した聖価師は群衆に突き飛ばされ、広場の影に逃げ去った。
「……価値は、俺たち自身が決めていいものなのか?」
民衆のつぶやきが、小さな火種のように街に広がっていく。
「あいつ、ものの五分で129万も吹き飛んだのか」
思わず、喉の奥で笑いがこみ上げる。
「私なんか200万よっ」リサがよくわからない自慢をする。
「バリュー・バトル恐るべし、
あっという間に一生が台無しだな」
夜の街に、光りすぎる看板が瞬いていた。
そこに座るのは、慈善団体の代表を名乗る男。
笑顔で募金を呼びかける姿は立派だが、
ナナが示す残価表示は異常に高かった――
《残価:+19,000,000(偽装の疑い)》。
男の視線が、俺たちを掠めるように、かすかに止まる。
殉教者の街に巣食う宗教家達。
独自のバリューバトルに戸惑いながらも撃破。




