TAKE4『ご挨拶』
「おい!」
「ん?」
振り返ると、そこには先程泣き崩れていた男が一人。
「いいか!あまり下手に動くんじゃないぞ?万が一君みたいな可憐な…いや!新人が!こんなに可愛い後輩が怪我でもすれば大変だからな!!」
「は、はぁ…ありがとう…ございます?」
ガシッと肩を掴まれ困惑するうたほし。
目を見るからに明らかに、この男はヤバそうではある──「妖魔」とは別のベクトルで。
「おいおい、怖がってるだろ?離してやれこの変態が」
「そうよ。“セクハラ“で訴えられてもあたし達庇ってあげないんだからね?」
加えて二人、仲の良さげな男女が現れる。どうやらこの青年の知り合いらしい。
「悪かったね、この“大バカ“が先走っちゃって──。あ、でも直訴したいなら止めはしないから安心して」
「ちょっ、おま!?急になんて事言いやがるんだ!!俺は危険な戦場に変わりは無いと言うことをだな──」
「本当に!あんた“推野京子ちゃん“のガチ恋でしょ?何未成年に手を出してんのよ?あ、私は“松屋千鶴“よ。よろしくね、“新人“さん?」
仲の良さそうな三人組のお姉さんが、手を差し出す。
「は、はぁ──よろしくお願いします。」
おずおずと握手を交わすと、もう一人の好青年が今度は手を差し出した。
「俺は“梅林茂“だ──こっちは“竹宮真司“。よろしくな──」
「ちょっ!?俺の挨拶まで取るんじゃねぇよ!?」
「はぁ…よろしくお願いします、、さっきと雰囲気が違うんですね」
“竹宮真司“、“梅林茂“とも次いで握手を交わすうたほし。
先程のコントのようなやり取りを思い出す。
確かに、同一人物とは思えない程の好青年っぷりだった。
「まぁな!コイツ、肝っ玉が小さいからああやってボケてやると立ち直りが早いんだよ──。まぁ、今回は千鶴もボケに回ってくれたおかげでこの通りさ──」
「は、はぁ…なるほど」
(それじゃあさっきのおふざけは演技だったのか…割と根はしっかりしてるんだな。この人達──)
「ゴホンッ!…改めて、俺は“竹宮真司“だ。俺たち三人揃って“松竹梅コンビ“だ!よろしく、うたほしちゃん──」
「いつからそんなの結成したのよ…そんな覚えは無いんだけど?」
「というか、三人ならトリオだけどな──」
「お、ま、え、ら、なぁ──!!」
ケラケラと愉快に笑い合う三人。
どうやら本当に仲が良いみたいだ。
「よろしくお願いします。皆さん、随分仲がよろしいんですね?」
「そうね〜。あたし達、幼なじみだからね。」
「ああ。代々同じ土地で続く殺魔師の家柄だから、家族ぐるみで付き合いもあるし同期だからな」
「まぁ、頼りにならない二人だが安心しろ!俺がいる限りうたほしちゃんもこころちゃんも必ず守ってみせる!!大船に乗った気でいてくれ!」
ドンッ!と大きく胸を叩く真司。
それを見て、千鶴が呆れた表情でため息をつく。
「はぁ…それを言うならドロ船でしょ?船長さん──」
「確かに、こいつが船長なら間違いなく沈むな──」
「お、お前らなぁ!!」
「くすっ、あははは!!」
皆のやり取りを見て、思いがけずに笑いこけるうたほし。
そんな様子を見て、三人も釣られて笑う。
「いやはや…それにしても、あの子凄いよなぁ〜!“星波こころちゃん“!!あの年齢でもう既に参階級ってよぉ!…俺らより年下だぜ?なのに上司とか…才能の差を感じるわぁ〜」
「本当よねぇ!あ、ごめんね!!?君の事を悪くつもりは無かったの!!同年代だし、きっと気にしてるよね…?」
千鶴の言葉を受け、慌てた様子でギョッとする男二人。だが、当のうたほしには気にする様子は微塵も無かった。
「いないや、頭上げてください!!別に…彼女が優秀なのは事実ですし、本当に気にしていませんよ?だいたい、私には“守護呪文“しか無いので階級が上がらなくて当然ですし、なので本当に気にしないでください!!」
殺魔師は「魔」を「殺」す故に殺魔師である──。故に、その力を持たない者を一人前とは認められないのが現実であった…。
「今回はご一緒出来なくて残念ですが、いつかまた機会があったらぜひご一緒させてください!♪」
その様子を受けてほっとする三人。
本当に仲が良いんだなと、うたほしは微笑む。
「それじゃあみなさん──改めて“冬月うたほし“です。よろしくお願いします──」
「な!!ふ、冬月…!?!?」
驚いた様子で、茂が声を荒らげる。
「どうしたのよ茂?うたほしちゃんの家族の人と知り合いなの?」
「い、いや──特にそう言う訳じゃない…。気にしないでくれ」
「「??」」
疑問符を浮かべる一同。
やがて作戦の時間が訪れ、それぞれ所定の位置へと向かう為に解散する。
「それじゃあみなさん、お気をつけて──皆さんの“お荷物“は任せてください!!」
「おうっ!頼りにしてるぜ“荷物番“!!」
「こっちの事は任せて!あまりにも危険そうだったら、荷物置いていいから直ぐに避難してね!!」
真司、千鶴が揃って同じ方角へ向かう。
「ありがとうございます。真司さん、千鶴さん。茂さんも、お気をつけて──」
初手位置が二人とは別方向の茂。
何やら考え事をしていたのか、一瞬遅れて返事をする。
「あ、ああ──うたほしちゃんも気をつけて!」
茂の去る背を見届けて、疑問符を浮かべるうたほし。
そんな茂はと言うと──
(“冬月うたほし“か──。今回の作戦、本当に何も問題無く行くかもしれないな…。もしも彼女が作戦に加わってくれたなら──いや。よそう。例え仮に、彼女があの“伝説の殺魔師“──“冬将軍“の娘だとしても、今はただの壱階級の後輩だ──。俺たちが責任持って守ってやらなければならない!!)
内心で若干の高揚感を抱きながら、作戦に挑むのであった──。




