TAKE2 『勘違いの救援要請』
殺魔師とは、呼んで字のごとく「魔」を殺す者たちの事だ。
魔の定義は時代や思想、人によって変動する。悪逆非道の「妖魔」はもちろん、悪の道に逸れた「殺魔師」。古の時代は「病気」や「呪い」等の類いも「魔のもの」と定義され、「呪術師」や「陰陽師」、「祈祷師」や海外では「魔女」「魔法使い」に至るまで裏の世界に生きる者たちを総称して“殺魔師“と呼ばれた──。
殺魔師は主に、二つに分かれている。
一つは剣や弓等の武器や武術を以て戦う近接戦闘のエキスパート「戦士」。
もう一つは魔法や式神、薬(毒)を扱う遠距離戦闘のエキスパート「魔法使い」。
そして殺魔師には、階級制度もある。
下から順に──壱、弍、参、肆、伍、陸、漆、捌、仇、拾。
強さは全て一段階事に三の倍数となっていて、例えば壱階級が三人で弍階級。弍階級が三人で参階級といった具合だ。
「戦士」と「魔法使い」、十段階の階級。
それらすべてを総じて、人は皆わたし達の事を──「殺魔師」と呼ぶ。
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「いるじゃん、肆階級の殺魔師」
救援要請とは一体なんだったのだ?と言いたい程に、参階級の妖魔を相手取るには十分過ぎる布陣が揃っていた。
人手が不足している所か、オーバーな程に足りすぎていた。
弍階級が二人、参階級が一人。
そして──
「諸君!!!! よく来てくれた!!!!喜べ!! 私はこの場の指揮を任された“木枯左門字“である!!!!階級は肆!!この中では最長の指揮官だ!! 早速だが、階級順に右から一列に並べ!!!!」
侍ヘアーのいかついおっさんこと、木枯左門字隊長。
その声は爆発音のように響き渡り、顔圧とともに周囲を圧倒する。
階級は肆。
今回の討伐に必要とされる戦力としては申し分ない力を持つ殺魔師である。
その轟くような一声に、集まっていた他の殺魔師たちは一斉にびくついた。
「こ、木枯隊長って……あの……?」
「ああ、〝特攻指揮官〟だよな。戦術も戦略もなく、力押しで妖魔を討伐するっていう……。参階級が四体、肆階級が二体──これまで積み上げた討伐実績は確かにすごいけど、毎回負傷者が大勢出るって噂だぜ──」
(何故特攻する!!?あんた一人で十分じゃろがい!!!)
「無理だ…俺たちじゃ勝てねぇよ!!くそっ!!…今日は推野秋子ちゃんの生ライブ見たかったのに…」
(いやあんたもかい!!ここに同士おるやんけ!!!!!)
心の中でうたほしが叫ぶ中、爆音のごとき発声が再度繰り出された。
「おい貴様!!!! 何をコソコソと喋っている!! 階級順に右から並べと言っただろう!!!!」
「は、はいっ!!!!」
背中の丸印に記された“殺魔師の家紋“。その中に描かれた階級をもとに、皆が右から順に横一列に並ぶ。
弍階級が三人、参階級が一人……そんな顔ぶれだった。
「よーーーし集まったなぁ!!貴様らは皆一度は昇格を経験した討伐実績のある猛者たちだ!!今回の任務も必ず大いなる成果と名声となるだろう…心してかかるがいい!!!!!」
そう言って、檄を飛ばす──木枯指揮官特攻隊長。
(ん?ちょっと待って、今討伐実績がある猛者って言った?)
殺魔師の力の目安はシンプルである。
同じ階級三人で、一つ上の階級相当だ。例えば、壱階級三人で弍階級相当。弍階級三人で参階級相当。そういう計算だ…つまり。
「この布陣において、正直わたし──意味無い!!!!!」
今回の妖魔の討伐レベルは参──。隊長の階級は肆階級なのに、こんなに戦力が必要なのだろうか。
そう疑問に思いながら、うたほしは隣の少女に目をやる。
「星波こころです。階級は参。魔法使いです。得意な技は《星球》。《雲払い》もできます」
「なるほど、“厄徐系“の魔法に上級攻撃呪文・《星球》が出来るとはありがたい。こころ、よろしく頼む!──次!お前で最後だ」
上級攻撃呪文──《星球》。圧縮された炎の球を放つ高火力の魔法だ。本来伍階級相当の技を参階級で使えるとは、なかなかすごい事である。
(星波こころ…か──。“頭角を現す“って、こういう事を言うんだろうな──)
関心しているうたほしの前に、“顔圧を現す“特攻隊長。
「名前、階級、系統を答えろ──」
「名前、年齢、住所を答えろ──ですか?そんな凄んで聞かれても、素直に答える女の子はいませんよ?」
「言っとらんわ!!!!!さっさと答えろ!!!」
呆れ顔のうたほしに向かって、唾が飛ぶ勢いで怒鳴りかける木枯左門字特攻隊長。
全くもって、ノリが悪い。
「やれやれ、わかりました──。私の名前はうたほしです。階級は“壱“で、系統は魔法使い。防御呪文と飛行が得意です」
「えっ!?あいつ……参階級かと思ってたけど、壱なのか!?」
隣の少女を挟んで、向こう側からひそひそと話し声が聞こえる。
(まぁ、このメンツの中で貴重な魔法使いがいるのが心強いのかもしれないけど…正直言って、攻撃面に関してはこころみたいにあまり当てにしてほしくないかな…)
「壱階級か……なるほど。近接戦ならともかく、遠距離から支援できる魔法師使いが二人いるのは心強い。階級が壱となれば出来ることは限られるだろうが──それで。貴様は他に何が出来る?うたほし──」
仁王立ちで値踏みする隊長。
期待の眼差しで熱い視線を向ける同僚。
同じ魔法使いとしてチラチラと興味深そうにこちらを見る少女。
そんな視線を一身に浴びながら、うたほしは淡々と答えた…。
「いいえ。それだけですが、何か?」
そう言って、ロッドを軽く握り直す。
「な、なんだと!?!?」
コクリ、と静かに頷く。
「おい、お前…」
「ん?何か…?」
不穏な表情で語りかける隊長。
(もしかして、攻撃手段が無い事がそんなにダメだったのだろうか……?)
確かに──階級は倒した妖魔や殺魔師の強さ、その数に応じて決まる為、うたほしのように防御呪文にばかり特化していると一向に階級が上がる事は無い。だが──
(魔法使いなら攻撃が出来ないとハブられるみたいな、時代遅れシステムが息づいていたのだろうか…?いくらなんでもそれは殺魔師差別というものでは無いのだろうか?)
ムスッとほっぺをふくらませるうたほし。
そんな彼女の不満は、膨れ上がったほっぺが赤らむ形で裏切られた…。
「右から順に並べと言っただろう…。何故一番下っ端のお前が、一番左に並んでいる??」
「あっ──」
察し。
うたほしの返答に、同僚たちは一様に顔を引き攣らせる。
平静を装ってはいたが、内心恥ずかしさのあまり悶絶しそうなうたほしだった…。




