TAKE1 『魔法使いのうたほし』
ルール其ノ一「殺魔師は表の人間にその存在を知られてはいけない──」
ルール其ノ二「悪事を働く妖魔を見逃してはならない──」
ルール其ノ三「常に任務遂行を最優先にしなければならない──」
ルール其ノ肆「人払いを怠ってはならない──」
ルール其ノ伍「自身より階級が上の者の命令には逆らってはならない──」
ルール其ノ陸「自分との階級差が三階級以上の妖魔と戦闘を行ってはならない──」
ルール其ノ漆「禁術に該当する力を行使してはならない──」
ルール其ノ捌「同盟関係では無い魔族とは絶対に手を結んではならない事──」
ルール其ノ玖「魔法使いは妖魔に対し、近接戦闘による直接的な戦闘を行ってはならない──」
ルール其ノ拾「これらのルールを破りし者、厳罰として【“西の果て“の大監獄】への流刑の後、終身刑、若しくは斬首の命に処す──」
引用:殺魔師全書「殺魔師十ヶ条」※改定前版
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神奈川県横浜市──上空。
『ヒュオオオオオッ──』
夜の冷たい風が、頬をかすめる。
時刻は午前3時。大抵の人が眠っている時間だ。
そんな闇夜の中、上空3000フィートの高さを少女が一人。木製ロッドに跨って優雅に飛行していた。
「ふんふんふ〜ん♪ ふんふっふんふっふ〜ん♪ ……あーむっ!」
水色の魔道士ハットに、紺色のローブ。同色のツインテールが風に揺らめくその姿は──誰が見ても、現代を生きる“魔法使い“そのものだった…。
そんな少女の片手には、大好きなイチゴドーナツ。眼下に広がる街明かりは、最高の絶景だ。
「うん!今日もいい景色!最高の気分!!」
本当にいい夜だ。本当に……。このあと携帯に入る無線連絡さえなければ──。
ピロリンッ──。
通知音と共に救援要請のメールが一斉送信される。
範囲階級は壱以上。つまり、誰でも出られる“簡単なお仕事“だ。
まぁ、救援要請と言われれば半分強制参加みたいなものなのだが…。
「うげぇ〜っ……救護要請かぁ〜。面倒くさっ!」
ロッドの先端に吊るしたスマートフォンを、嫌な顔でしぶしぶつまみ取る。
救援要請の文面にはこう書かれていた。
『階級“参“の妖魔が出現!至急、近隣の殺魔師に応援を要請する!!』
本当なら今日は非番だった。
推しの歌手のライブ配信を見ながら、アイス片手にダラける予定だったのだ……。
だが、遠方で妖魔が大量発生したせいで周辺の有力な殺魔師はほとんど不在。運悪く呼ばれてしまったというわけだ。
オマケに…【殺魔師】というのは存外、昼番が多く、夜に出回っている人数は意外と少ないのだ。一般的には知られない存在だからと言って、夜にだけ活発になる存在じゃないのだ。
妖魔は──
「はぁ……仕事かぁ〜。さっさと終わらせて、帰ってお風呂入って、アイス食べよ──」
ため息をつきつつ杖を握り直し、速度を上げる。
その瞬間、ビュオッと風が頬を切る。
この広い夜空を自由に飛び回れるのは、飛行術を修得した魔法使いだけの特権だ。
この広大な空を自由自在に飛べる──その快感が、開放感が──私は好きだ。
「参階級なら……ギリギリ余裕、かな??」
そう口にした瞬間──不吉なフラグが立った。
まさかこのあと、あんな出来事が待っているとも知らずに……。




