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僕は死にたい

作者: ずんだ

初めての投稿です。

 まぶしい、電車に揺られながら僕は思う。日光がスマホに反射し目に入るので当たらないようスマホを顔に近づつけ、指を機械のようにに下から上へと規則的に動かす。画面には写真と文字が出ては消えていく。こんな高い物買ってもらった、結婚しました、大会優勝した。そんな他人のおめでたい出来事の文字と写真は僕には避けたいものですぐに上へとやる。

 電車のブレーキ音がイヤホンから出る流行りの曲にかぶさって耳に入る、すぐ後に体は左に引っ張られそれを合図にスマホをポケットにしまう。着いた、今日も一日が始まる。周りは同じ制服の高校生たちがぞろぞろとドアの前に集まる。僕はカバンを持ちその人たちの後ろに行く。ドアが開き皆外に出て右に向かう。太陽は僕を焼く、今日の気温は30℃超えるとかでまだ朝なのにとても暑い、昼の体育ではどのくらいの暑さなのか。僕はそれを想像し足が重くなる。

 校舎が見えてきた。去年新しくしたとかで白の壁は目立った傷はなく周りの高校と比べてとてもきれいだ。僕はあたりを見渡す。あの家の車、あの看板にある電話番号、なんだか知らないものばかりだ。もう何回も見てきた風景だがいつもはスマホを見ているのでじっくりとはあまりない。スマホを見ないのは最近、歩きスマホで登校する人が多く近所から苦情が来たため道のはじには先生たちが見張っているため。スマホを見ないと現実を見てしまう。目の先には学校があって生徒が歩いている。もう始まるんだという現実が見えてしまう。それが嫌で見たくないからスマホに目が行く、少しでも意識をそこに集中させたい。

 校門を通り玄関へと向かう。しかし前には人がごった返してなかなか進めない、玄関前は元々スマホを使ってはならず僕はうだるような暑さの中で待つ。徐々に進んでいき中に入る。すこし涼しさを感じて2年生の上履きがある場所に行く。中でも相変わらず人が多い。

「こう、おはよう」

 上履きを取ろうとすると後ろから声が聞こえ振り向くと、そこには友達の裕がいた。

「おはよう」とイヤホンを外し返事する。

裕とは二年生の初めごろに話しかけてくれてそこから仲良くなった。新しいクラスには仲のいい人が特におらず友達がなかなかできないでいた僕の唯一の友達。とても元気でクラスのいろんな人と話している。二人でたわいもない話をしながら2階に登り廊下を歩き教室に入る。

「涼しいー」

 裕が大きく叫ぶとクラスの人たちはこちらを向き笑う。今年の春から実装されたクーラーの冷風が駅からここまでの徒歩で熱くなった肌を刺激する。クーラーはもう少し後になって使う予定だが最近の暑さで早く使うことになった。

 二人は自分の席に向かって歩く。僕は席に座り教卓の上にある課題を入れる白いカゴを目にし課題のプリントを出して入れようと立ち上がる。その途中、視界の隅に裕が他の友達と話している光景がずっとある。見ないようにするが離れない。何枚かすでに入れられてるカゴに自分のプリントを入れる。裕が大きく笑い僕はそちらのほうを見るがすぐに歩いて、席に座る。気持ちよかったクーラーの冷風は当たりすぎたのか寒くなって嫌になる。イヤホンをつけるが曲よりもクラスの話し声に集中してしまう。机に伏せながら僕は曲を聞く。


 「帰りも歩きスマホをしないように、さようなら」担任が野太い声で言い終えると一斉に机と椅子を後ろに下げる。僕は教室を出るところで「一緒に帰ろう」と裕に呼び止められ笑顔でOKする。今日の授業、課題、クラスの人のことなどいつもと同じ話題で駅まで歩く。着くやいなや二人ともスマホをすぐに出す。僕はイヤホンで流す曲を探す。もう話すことがないわけではないがいつの間にか二人ともスマホ見るようになった。二人で一緒のことをしているのである意味ではこれもコミュニケーションの一種なのかもしれない。周りの高校生たちは僕たちのようにする他、話したりふざけたりしている。

「裕じゃん」

 大きな声に僕は気になり振り向くと知らない人がすこし離れた所で手を振っている。裕も「おー」と返事して手を振りその人のところへと走っていく。行っちゃった、誰なんだろう。まだ残る暑さをさっきよりも感じながら呆然とそれを見つめる。キィーと電車のブレーキ音が鳴り急いでドアの前に行き、目の前の席に座る。電車が動き楽しそうな裕の姿が窓越しに見えるがすぐに街の風景に変わる。晴天の空の下で照らされながら建物がずらっと並び合間に見える道には小学生や中学生が話して歩いている、しかし僕にはうっすらとまだそれが窓の向こうに見えた。周りの話し声がやけにうるさくイヤホンの音量を上げスマホの位置をいつもより下げ指をせわしなく動かす。出ては消える文字と写真、鳴っては消える音と声を眺める。僕の頭には「死にたい」という文字が残り続けている。

 

 自分の部屋に入るとムワっとした熱気が押し寄せる。朝から窓を開けていないので部屋は外よりも暑くなっていた。すぐに窓を開けて扇風機をつける。風にあたっていると教室で寝たふりをする自分が思い浮かぶ。僕は風が目障りに感じて電源を切る、バッグをそこらへんに置きベッドにダイブする。

 スマホを取り出しSNSを開きつぶやく 「何か死にたい」。スマホと共に手をだらんと下げ、もう一方は目を覆おう。静寂に包まれた部屋に窓から車の走行音、子供の遊ぶ音が入る。ピン SNSの通知音が鳴り僕は手をどけて横を向く。ぼんやりとした視界の中見てみるとコメントが来ている。

「私も同じです。いろいろつらいことがあってあって死にたいです」

 徐々にピントが合ってきてそれを読む。返信なんて恥ずかしくて全くしないが今はこの人に向かって伝えたい。指をのっそりと動かし文字を打つ。

「そうなんですね、僕は今日、学校ではほとんど一人でした。なのでずっと寝たふりです」

 返信すると同時に笑みがこぼれる。おそらく初対面で顔や性別声など何もわからない人に自分の辛いことを打ち明けられるのはなんだか不思議だ、でも自分のことを何も知らないから相手に変に気を使ったりする必要がなくこういうのを聞けるのかも。

「その気持ちわかります私も友達と呼べるような人は少ないです」

 すぐに返信が来た。この人も友達が少ないのがなやみなんだ。僕の暗い心に一筋の光が当り温まる。僕はこの人と友達になりたくなる。なんだかこれまでとは違う感じだ、一年生のときや今の友達である裕のときとは違う心から望む友達。これまでは一人でいるのが不安で誰でもいいから友達という関係を作ろうとしていた、気が合うとかそんなの関係なくただ一人になるのが怖くてその気持ちを消したくて友達を作る。もちろん時がたてば適当に選んでも楽しいこれからも友達でいたい、でも裕とは距離を感じる。裕はクラスのみんなと仲がいい、だからいろんな人が話すし、話しかける。僕は逆だ男子なら少しだけたまに話す人はいるがそんな頻繫に話さない、その違いが僕と裕の見えない距離だと思う。なかなか親密と呼べる、気の許せる仲になれない。でもこの人は同じ悩みをもち気が合いそうだ。

 僕は相手のプロフィールを見る。名前はアイコンの横にあるハナ、趣味は散歩でアイコンの写真には猫が写っている。ネットから拾ってきたのか飼っているのかは判別できない。性別は名前からおそらく女性だろう。僕はどんな顔なのかを想像しながらハナさんとの会話を見返す。最初のコメントにある「いろいろ」の言葉に目がつく、他にもつらいことがあるんだ、そうだとしたら僕の話を聞いてくれたから今度はハナさんの話を聞こう。

「ハナさんは何かほかにつらいことがあるんですか?。僕でよければ聞きますよ」

 何かナンパしているような感じがあるが僕にはそんな気持ちはない、同じ気持ちを持つもの同士少しでも力になりたい。さっきのようにすぐに返事が来ない、スマホを見ていないのか、もしかしたら出会い目的でみられていると感じて警戒しているのか。僕がじっと画面を見ていると返事が来た。

「ありがとうございます。でもここでは話したくないです、個別チャットで話しませんか」

 個別チャットとは二人きりで会話できる場所でありほかの人が見たりコメントなどはできない。僕は少し動揺しながらも「いいですよ」と送る。すぐに個別チャットも場所に移る。何も送られてない真っ白な画面が映し出されるが僕はさっきのオープンな場所より妙に少しだけドキドキしていた。

「来てくれてありがとうございます。では話しますね」続けて文字が映し出される。「私は学校でいじめを受けています。クラスの人から無視されて教科書や体操服など私物は隠されて何個かは燃やされました。そして男子の人たちに無理やりされました。先生は無視して親は寝たきりで頼れません、実は最近、生理が来てなくて検査したら陽性でした。子どもができてました。もう何が何だかわかんなくてこの頃は学校サボってSNSを見ています。なぜかわかりませんがあなたの投稿を見て返信してしまいました。あなたにならなんだか安心して話せます。それでお願いがあります。私と死にませんか」

 「えっ」、思わず声に出る。内容が重いのもあるが何より最後の一文がさっきまでの助けたいという慈悲深さを一気に消え去り代わりに恐怖を覚える。自分の予想よりも深刻な現状に浅はかさを感じる。「死にたい」と言っていたのにいざ死のうなんて言われると怖気づいてしまうが彼女は本気だ、本気で死にたいんだ。なら自分は死にたいのか、彼女と同じでつらい、彼女ほど深刻ではないがつらいのは事実だ、だから「死にたい」と思う。いや本当にそうなのか死にたいから「死にたい」と自分は思っているのか、もしそうなら彼女の頼みに躊躇なく答えて一緒に死ぬはずだ。

 なんで「死にたい」って打つ?、それを誰かに見てほしいから、共感してほしいから、慰めてほしいから、誰かと話したいから。

「あなたも死にたいんですよね」

 僕はメッセージを見つめる。死にたいと思っているでも死にたくない、矛盾した気持ちに頭は混乱して働かない。そして思う。死にたい。






 

 

 





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