表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/29

【7話】多くの感謝


 オフェリアが魔術師団で働き始めてから、一週間が経った。

 

 日課の仕事である回復薬づくりはとても順調だ。

 ひとつの問題もなく、日々楽しく仕事ができている。

 

 だが今日の仕事は、回復薬づくりではない。

 

 オフェリアは今、アディールと一緒に馬車に乗っていた。

 向かっている先は、ラグドア王国の国境沿いの街――セプテアだ。

 

 今日の仕事は出張治療。

 セプテアは先日、邪悪な心を持つ魔物たちによる襲撃があった。

 多数の負傷者が発生しているとのことだ。

 

 彼らを治療すること。

 それが今日の、オフェリアの仕事だった。

 

 

 セプテアに馬車が到着した。

 馬車から降りた二人は、大きな教会に向かった。

 

 ここは今日の会場。

 出張治療は、この大きな教会を借りて行われる。


 教会の中に入ると、既に多くのケガ人がいた。

 

「治療はひとりずつ行う。彼女の前に縦一列に並んでくれ」


 アディールの声を受けて、ぞろぞろと人々が動き始める。

 長蛇の列ができた。


(これだけの人数にひとりずつ治癒の光をかけたら、ものすごく時間がかかってしまうわね。……ここは一気にやってしまいましょう)


 治癒魔法の効果範囲というのは、非常に狭い。

 ひとりずつかけるというのが常識だ。

 

 でも、治癒の光は治癒魔法とは違う。

 その常識にはとらわれない。


「今から一気に治癒します。みなさんその場から動かないでくださいね」

「そんなことが可能なのか!?」


 瞳を大きく見開いたアディールに、オフェリアは笑顔で頷いた。

 

 両手を合わせたオフェリアが瞳をつぶる。

 淡い光が教会全体を包み込んだ。


「おお! 治ってる!」「ホントだわ!」「すげぇ! なんて力だ!」


 教会中から歓喜の声が上がる。

 治癒の光によって、集まっていた人たちのケガは一瞬にして治った。


「なんということだ……。こんな大規模な治癒魔法は初めて見た。まさに奇跡だ」


 通常ではありえない広範囲の治癒。

 それを目の当たりにしたアディールは、ひたすらに驚いていた。

 

「ありがとうございます!」「あなたは女神様です!」「助かったぜ!」


 歓喜の声の次に上がったのは、いっぱいの感謝の声。

 

 それを受けて、オフェリアの口元が綻んだ。

 

 ラグドア王国では、どんなに仕事をしても感謝されることはなかった。

 特別な力を持っているんだからやって当然。むしろもっと頑張れ――誰も彼もがそんな態度で接してきた。

 

 こんな風に大勢の人に感謝してもらったのは、これが初めてだ。

 この人たちのケガを治せて良かった――心の底からそう思うことができる。

 

 隣ではアディールが楽しそうに微笑んでいた。

 その視線はオフェリアへ向けられている。

 

「どうしたのですか?」

「素敵な顔で笑うと思ってな」

「……」


 笑顔を褒められたのは初めてだ。

 顔に熱が集まってきてしまう。

 

(きっとお世辞よ!)

 

 そう思うようにするも、顔に集まった熱はしばらく消えてくれなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ