【6話】ルシアの狙い ※ルシア視点
ラグドア王国の王宮には、ルシアの私室が設けられている。
その部屋にてルシアは、楽し気な笑みを浮かべていた。
「面白いくらいにうまくいったわね」
オフェリアのすべてを奪う――それがルシアの狙いだった。
そのためにルブリオに近づいて、オフェリアを国外追放するようにお願いした。
狙いは見事に成功。
婚約破棄された挙句に国外追放されたことで、オフェリアはすべてを失った。
そして今、そのポジションにはルシアがついている。
「ざまぁみなさい!」
オフェリアのことは、昔からずっと大嫌いだった。
ルシアの生家――リシューム公爵家は由緒ある聖女の家系だ。
この国では、治癒魔法を使うことのできる人間を『聖女』と呼ぶんでいる
リシューム公爵家に生まれてきた人間は治癒魔法を使うことができ、代々聖女と呼ばれてきた。
ルシアもその例に漏れず、治癒魔法を使うことができる。
彼女もまた聖女だった。
しかしその力は、オフェリアには遠く及ばない。
あの力は規格外だ。
ルシアはルブリオに、大天使の加護をさらに強化した大聖女の加護を持っている、と言ったがあれは作り話。
ルブリオを騙すためについた嘘だ。
大聖女の加護なんてものは存在しない。
つまりルシアには、オフェリアのような特別な力はないのだ。
それが昔から、ずっと悔しかった。
貧乏な男爵家の出でありながら、生粋の聖女であるルシアよりも特別な力を持つオフェリアのことが許せなかった。
だから生意気な彼女のすべてを、奪うことにした。
うまくいって、せいせいしている。
ルブリオの婚約者になったのは、オフェリアを国外追放するためだ。
それ以外に意味はない。ルブリオに対しての好意なんて微塵もない。
ルブリオは多少が顔がいいだけのバカだ。
好きになんてなるはずがなかった。
目的を果たした今、ルブリオの役目は終わりだ。
もう彼の婚約者でいる理由はない。
だがルシアは、まだこの生活を続ける気でいた。
「だってこんなに贅沢ができるんですもの」
指につけている高級指輪をうっとりと眺める。
この指輪はルブリオが買ってくれたものだ。
彼はルシアにぞっこん。上目遣いでおねだりをすれば、なんだっても買ってくれる。
好き勝手に贅沢できる今の生活は楽しい。最高だった――たった一つの点を除いて、だが。
ルシアはオフェリアのポジションに成り代わった。
そのせいで、これまでオフェリアがこなしていた仕事をやらなければならなくなってしまったのだ。
これが非常に面倒くさい。
昨日は作業室にこもって、一日中回復薬を作り続けていた。
そのせいで今日はもうクタクタだった。
(あんなことはもうやりたくないわ。バカ王子に相談して、どうにかしてもらいましょう)
ルブリオはなんでも言うことを聞いてくれる。
それっぽい理由を言えば、仕事を免除してくれるだろう。
「失礼します」
白いローブを着た男性が部屋に入ってきた。
ラグドア王国に仕えている神官長だ。
「ルシア様、防御結界を貼ってください。オフェリア様が前回貼ったときから、そろそろ五年が経ちます」
防御結界というのは、国内を守るバリアのようなものだ。
これがあると、邪悪な心を持った魔物が国に入ってこられなくなる。
しかしこの防御結界というのは、一度貼ればずっと効果が続くというものではない。
五年で効果が切れてしまう。
だから五年ごとに、結界を貼り直さなくてはならないのだ。
「それも私の仕事なの? 私今、とっても疲れているのよ。聖女は他にもいるじゃない。そいつらにやらせたら?」
「結界を貼ることができるのは、大天使の加護を持つオフェリア様だけでした。聖女にはその力がありません。そしてオフェリア様がいなくなった今結界を貼れるのは、大聖女の加護を持つルシア様だけなのです」
「……わかったわ。後でやっておくわよ」
そう言うも、やる気なんてさらさらない。
というかそもそも、ただの聖女でしかないルシアには結界を貼ることができない。
今のはこの生活を続けるための演技。形だけの返事だ。
「よろしくお願いします」
神官は部屋を出ていった。
ルシアはベッドに仰向けになって倒れ込む。
「疲れたわ」
ため息をついて、ギュッと目をつぶった。