【4話】宿と仕事
「乗ってくれ」
「……し、失礼します」
成り行きで王宮に行くことなってしまったオフェリア。
アディールに促されるまま、レシリオン王国魔術師団と一緒に馬車に乗った。
そのまま揺られること数十分ほど。
馬車は王宮に到着した。
アディールが馬車から降りる。
オフェリアもそれに続いて降りた。
「君たちは先に修練場へ戻っていてくれ。オフェリアにお礼をしたら、俺もそこへ行く」
アディールの言葉に馬車に残っている団員たちは、はい、と大きく返事。
団員たちを乗せた馬車は、王宮とは逆の方向へと走り去っていった。
「一緒にきてくれ」
コクンと頷いたオフェリアは、アディールの横に並んで歩いていく。
二人は王宮に入った。
大理石が敷き詰められた幅広の通路を歩いていく。
「アディール。隣にいるそのかわいい子は誰だ?」
正面から歩いてきた赤色の髪をした若い男性が、アディールの手前で足をとめた。
金色のジャケットを着ている身なりは豪華で、堂々としている。
歳はアディールと同じくらいだろうか。
「彼女はオフェリア。定住先を求めてここへきたらしい。オフェリアはウルムを襲っていた魔物を倒してくれたんだ。しかもそれだけでなく、ケガ人の治療までしてくれた」
「おお!」
赤髪の男性がオフェリアへ顔を向けた。
口元にはいっぱいの笑みを浮かべている。
なんだか親しみやすそうな雰囲気の人物だ。
「民を救ってくれてありがとう! このクルーダ、国の長として礼を言う!」
(国の長って……ええええええ!?)
オフェリアは大きく驚愕。
相手はまさかの国王だった。
あまりにも親し気な雰囲気をしていたものだから、国王だなんて思いもしなかった。
「立ち話もなんだし、続きはゲストルームで話そう」
まだ状況を飲み込めていないが、国王にそう言われたら頷くしかなかった。
ほどなくして、三人はゲストルームに入る。
大きなソファーに、アディールとクルーダが横並びで座った。
「オフェリアもかけてくれ」
クルーダの声にオフェリアは、失礼します、と緊張で震えた声を上げる。
二人が座っている対面のソファーに腰を下ろした。
「オフェリア、緊張する必要はないぞ。コイツは細かいことは気にしない男だ」
「国王である俺をコイツ呼ばわりするとは……幼なじみとはいえそれはどうなんだよ」
二人のやり取りは、のほほんとしている。
それを見ていたら少しだけ緊張がほぐれてきた。
クルーダがこちらをまっすぐに見てきた。
「君は国民を助けてくれた恩人だ。なにかお礼をさせてほしい。好きなものを言ってくれ」
「私は当然のことをしただけです。お礼なんていりません」
「正義感のある素敵な女性だね」
感心したようなクルーダの言葉に、アディールも大きく頷く。
まったくの同意だ、と言わんばかりだ。
「しかし恩人に対してなにもしないというのは、俺のメンツにかかわる。これでも一応、レシリオン王国の国王なんでね」
ここで断るのは、逆に失礼にあたる行為なのかもしれない。
なにかしらを言った方がよさそうだ。
「……では、宿と仕事をくださいませんか?」
オフェリアはこれから、この国で暮らしていく予定だ。
であれば、住まいとお金を稼ぐ手段を見つける必要があった。
ベルクからもらった耳飾りを売ってお金にすればいいのかもしれないが、できればそれはしたくない。
恩人であるベルクからの餞別は、大切にとっておきたかった。
「住まいは王宮に用意しよう。使っていない部屋がたくさんあるしね。食事ももちろんこちらで用意するから、生活の心配はいらない。仕事の方は……」
「俺に預けてくれないか?」
うーん、と悩むクルーダに、隣にいるアディールが声を上げた。
「治癒魔法を使える人物というのは希少だ。魔術師団にぜひほしい」
「そうだね。オフェリアが入ってくれたら、ウチとしてはすごい助かる」
「……ということなんだが、どうだろうか?」
「お願いします!」
伺ってきたアディールに、オフェリアは迷うことなく返事をした。
話を聞く限り、アディールは治癒の力を使える人材を欲している。
大天使の加護の力を存分に発揮できそうな仕事だ。オフェリアにぴったりな仕事だった。
(いい滑り出しができたわ!)
この国にきてまだ少しなのに、生活する場所と仕事をもう見つけることができた。
最高のスタートを切ることができた。
「他にはいいの? ドレスでも宝石でも、欲しいものがあれがなんでも言ってくれていいんだよ?」
「はい。生活する場所と仕事を用意していただいただけで十分です。ありがとうございます」
「謙虚な女性だな。素晴らしい女性を連れてきたみたいだね、アディール」
「あぁ。こんな女性に出会ったのは初めてだ」
アディールがにこやかに笑う。
(いい人そうでよかったわ)
上司になるアディールは、とてもいい人そう。
オフェリアはホッと安堵する。
ラグドア王国にいたときの上司は最悪だった。
こちらの言い分はまったく聞いてくれず、ひたすらに働かせてきた。
ノルマを達成できなければ、ひどい暴言を吐いて厳しい罰を課してきた。
アディールはそんなことはしないだろう。
優しく笑う笑顔がその証拠だ。
こんな人の下で働けるなんて先は明るい。
最高のスタートを切れたと、オフェリアは改めて実感した。