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【3話】魔術師団の団長との出会い


 ラグドア王国を出てから十日後。

 

 オフェリアを乗せた馬車は、レシリオン王国に到着していた。

 目的地である王都まであと少しだ。


 そのとき。


「きゃあああ!!」


 外から悲鳴が聞こえてきた。

 ここからそう離れていない。

 

「馬車をとめてください!」

「ですが国王様からは王都まで送るようにと――」

「ここで降ります!」


 御者の心遣いは嬉しいが、悲鳴を聞いておいて知らんぷりをする訳にはいかない。

 

 馬車の動きがとまる。

 オフェリアは扉を開けると、すぐさま馬車から降りた。

 

「ここまで送っていただだいて、ありがとうございました!」


 御者に深くお辞儀。

 それから、悲鳴が聞こえてきた方へ駆け足で向かった。



「キィイイ!」


 そこにいたのは、コウモリの顔をした小柄な魔物。

 

 牙をむき出しにして甲高い声を上げている。

 背中には小さな翼が生えていた。

 

 尖った爪を振り上げて、街の住民を襲っている。


「やめなさい!」


 コウモリの魔物に大きな声を浴びせたオフェリアは、両手を組んで瞳をつぶる。

 

 瞬間、オフェリアから淡い光が放たれる。

 温かみのある優しい光だ。

 

 その光が、魔物の全身を包んだ。

 

「イイイ!?」


 上がったのは驚愕の声。

 それを最後に、コウモリの魔物は光に包まれて消滅した。

 

 大天使の加護には、邪悪なものを消し去る力がある。

 それが、今オフェリアが放った淡い光――『浄化の光』。

 

 邪悪な心を持つ魔物がこの光を受けると、跡形もなく消滅するのだ。


「ありがとうおねーちゃん!」


 近くにいた少女が声を上げた。

 

 右腕から血を流している。

 コウモリの魔物にひっかかれたのだろう。

 

「右腕を出してみて」

「……う、うん」


 差し出された少女の右腕に手を近づけたオフェリアは、ギュッと瞳をつぶる。

 少女の右腕を淡い光が包む。

 

 でもそれは、浄化の光ではない。

 これは『癒しの光』。

 

 対象者の傷を癒す力だ。

 

「え、もう治ってる!?」


 少女が驚きの声を上げた。

 まばたきまばたき一つするくらいのほんのわずかな時間で、右腕のケガはきれいさっぱり治っていた。

 

「もしかしておねーちゃんが治してくれたの?」

「うん、そうだよ」

 

 大天使の加護の力は、治癒魔法よりもずっと優れた力を持つ。

 今みたいな軽いケガであれば、このように一瞬で治すことができる。

 

「すごーい! おねーちゃん天使様みたい!!」

「どういたしまして」


 笑顔でお礼を言ってくれた少女の頭を撫でる。

 少女はさらに喜んでくれた。

 

「他にもケガをしている方はいませんか? 私が治します」


 声をかけると、数人がオフェリアのもとへ集まってきた。

 傷を受けた箇所に違いはあれど、みんな軽傷だった。

 

 その人たちのケガも、同じようにして一瞬で治していく。

 

「ありがとう!」「助かったわ!」「美人な上にこんなすごい力を持っているとは驚きだ!」

 ケガを治した人たちは、みんな笑顔でお礼を言ってくれた。

 

 そうやって感謝してもらえるのは、なんとも気持ちいい。

 ケガを治せてよかった、と心から思える。

 

「私からもお礼も言わせてください」

 

 近づいてきたのは五十代のくらいの男性。

 オフェリアに対して、深く頭を下げた。


「私はデンス。この町、『ウルム』の町長をしている者です。あなた様のおかげで本当に助かりました」

「いえいえ。私は大したことはいません――うん?」


 二人のすぐ近くに、馬車がとまった。

 

 白いローブを着た数人が、馬車から降りてきた。

 銀髪の男性を先頭にして、彼らはこちらへ近づていてくる。

 

「あなたが町長だな」

 

 銀髪の男性がデンスに話しかける。

 

「ウルムが魔物に襲われていると通報を受けて駆けつけたのだが……どこにも姿が見えないぞ。魔物はどこへいった?」

「それがですね、この方が不思議な力を使って魔物を退治してくれたのです!」


 オフェリアへデンスが顔を向けた。

 感謝と尊敬の眼差しをしている。


「しかも治癒魔法を使って、ケガ人の治療までしてくれたのですよ! 我々にとって恩人です!」

「不思議な力というのはよくわからないが……治癒魔法を使えるとは珍しいな」


 銀髪の男性が感心したように声を上げる。

 

(違うけど……別にいいかな)


 オフェリアの力は大天使の加護による、治癒の光。

 治癒魔法ではない。

 

 しかしその辺りの説明をするとややこしくなる。

 ここは黙っておいた。


「そういえばまだ、自己紹介をしていなかったな。俺はアディール・エルバーン。レシリオン王国魔術師団の団長だ」


 銀髪の男性――アディールが小さく微笑んだ。

 

 歳は二十五歳くらいだろうか。

 

 滑らかな銀色の髪に、宝石のように美しい赤い瞳をしている。

 その顔立ちは、恐ろしいくらいに整っていた。


 身長はオフェリアより頭二つ分ほど大きい。

 細身に見えるが、よく見ればしっかりと筋肉がついていた。


「えっと、君は……」

「オフェリアです。定住先を求めてこの国へやってきました」

「ありがとうオフェリア。ちゃんとお礼をしたいから、今から王宮まできてくれないだろうか?」

「お礼なんていいですよ。大したことはしていないので」

「恩を受けてそのままというのは俺の主義に反する」

 

 ニコッと笑ったアディール。

 体を乗り出すと、グイっと顔を近づけてきた。

 

(ちょっ! 近い近い近い!!)

 

 オフェリアは顔を真っ赤にしてしまう。

 

 こんなにも顔立ちが整った人に急接近されて、もうパニック状態。

 ほとんど無意識に、小さく頷いてしまった。

読んでいただきありがとうございます!


面白い、この先どうなるんだろう……、少しでもそう思った方は、↓にある☆☆☆☆☆から評価を入れてくれると嬉しいです!

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