【16話】距離の縮め方 ※アディール視点
近頃のアディールは、オフェリアのことばかり考えてしまうようになっていた。
初めて会ったときから、彼女のことは魅力的に感じていた。
外見はもちろんそうなのだが、心が綺麗だった。
とてつもない力を持っているのにもかかわらず、謙虚で見返りを求めない。
あんなにも心が美しい人間には、初めて出会った。
そしてオフェリアと一緒にいる時間が増えていくにつれて、さらに魅力的な人間だということがわかった。
もっと知りたい。
もっと近づきたい。
今ではそんなことを考えるようになっていた。
しかも最近では、独占欲のようなものまで生まれている。
オフェリアがティグスに乗って帰ると言ったとき、心の中にモヤっとした感情が生まれてしまった。
それでつい、冷たくなってしまったのだ。
獣相手に嫉妬してしまうなんて、我ながらに恥ずかしい。
独占欲はさておき、つまりアディールはもっとオフェリアとの距離を縮めたいのだ。
しかしそれには、問題があった。
これまでアディールは、女性と婚約したことはおろか遊んだことすらない。
女性との距離の詰め方がわからないでいた。
だからアディールは、最終手段に出る。
幼なじみであるクルーダを頼ることにしたのだ。
以前、もう二度と相談しないと言った手前力を借りるのは恥ずかしいが、他に手段がない。
もう、そうするしかなかった。
「入るぞ」
クルーダの部屋へ入る。
机に座っているクルーダは、ペンを持つ手を必死に動かして書類仕事をしていた。
「どうした?」
「……女性との距離を詰め方を教えてくれないだろうか」
「そうか!」
ペンを置いたクルーダが、勢いよく立ち上がる。
口元にはそれはもう満面の笑みが浮かんでいた。
「ついにオフェリアに告白することにしたんだな!」
「告白ではないし、そもそも一言もオフェリアとは言っていない」
「え、オフェリアじゃないのか? ……まさかお前、他に女ができたのか?」
「いや、オフェリアのことだが……」
「なんだよややこしいな!」
「ややこしくしたのはお前の方だろ! 勝手に決めつけるからそうなる!」
アディールは息を切らす。
本題に入る前だというのにもう疲れてきた。
(疲れ果てる前に、早く本題に入ってしまおう)
「俺はもっとオフェリアのことを知りたい。ただそれだけだ。別に告白とかじゃない」
「……仕方ない。そういうことにしておいてやるよ」
クルーダの言い方はやけにひっかかるが、あえてそこは黙っておく。
我慢だ。
ここで指摘すれば、また関係ない言い合いに発展してしまう。
もう無駄なことに体力は使いたくなかった。
「デートをするのが無難だな。二人で街へ出かけるんだ。そこでプレゼントを買うのさ」
「デート……それをすれば距離が縮まるのか?」
「あぁ。一日が終わる頃には、お前らは最高のカップルになってるぜ」
親指を立てたクルーダが、パチンとウィンクしてくる。
キメ顔なのが、また腹が立つ。
(だからそういうことではないというのに……!)
言いたくなるが、ここは我慢だ。
拳をグッと握って耐える。
「ちなみに誘うときは『デートに行こう』とかはダメだぞ」
「そういうものなのか?」
「がっつきすぎると、女の子はひいちゃうんだ。テキトーに他の理由をつけて誘い出せ」
「……知らなかった」
暗黙のルール的なものだろう。
そんなものがあるとは知らなかった。
クルーダの態度には思うところがあるものの、やはり頼って正解だった。
「頑張れよ! 陰ながら応援してるぜ!」
クルーダが眩しい笑顔を見せる。
その笑顔はまっすぐで迷いがない。
(ありがとうな)
心から応援してくれている幼なじみに、アディールは心の中でお礼を言った。




