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【15話】扱いやすいバカ ※ルシア視点


 王宮にあるルブリオの部屋。

 

 そこのソファーに、ルシアは座っていた。すぐ隣にはルブリオがいる。

 二人は横並びになって、体を密着させていた。

 

「ルシア。君は世界一かわいいよ」

「ありがとうございます。ルブリオ様も、世界一素敵な殿方ですよ」


(なーんてね)


 ルシアば思ってもないことを言ってみる。

 なんともバカらしくて笑ってしまいそうになるが、今の生活を続けるためには必要なことだった。

 

 ルシアは以前と変わらない贅沢三昧な生活を送っている――いや、以前よりもずっとよくなった。

 

 ルブリオにお願いして、仕事をすべて外してもらったのだ。

 これでもうオフェリアがやっていた面倒な仕事をする必要もなくなった。


「言い忘れていたのですが、大天使の加護には多くの魔力を使うんです。他の仕事なんてとてもできません」

 甘えた声でそんなことを言ったら、ルブリオはすぐに仕事から外してくれた。

 

 ちょろすぎる。

 疑うことを知らないバカで助かった。

 

 そんな訳でルシアは今、最高の環境で生活を送れていた。

 ルブリオのご機嫌を取るだけでこれを続けられるなら、いくらでもやってやる。

 

 贅沢三昧のこの生活には、それに見合うだけの大きな価値があった。

 

「失礼します!!」


 ノックもなしに部屋に入ってきたのは、ラグドア王国騎士団の団長だ。

 息を切らし、額には大量の汗をかいている。

 

「僕は今婚約者と大事な時間を過ごしているんだけど……なんのよう?」


 ルブリオの声は不機嫌でいっぱい。

 ピリピリとした雰囲気を放っている。

 

「国境沿いの街に国外から魔物が侵入し、襲撃してきました。この国が魔物の襲撃にあうのは実に十八年振り。オフェリア様が生まれて以降、初めてのことです!」

「……魔物だって? 見間違いじゃないのか。ラグドア王国はルシアの結界によって守られているんだ。魔物の襲撃なんて起きるはずがない」


 騎士団長へ向けて、ルブリオが偉そうに鼻を鳴らした。


「そうだよねルシア?」


 ルブリオがルシアへ顔を向ける。

 自信に溢れている表情だ。

 

 それを全力で肯定するように、ルシアは大きく頷いた。


「先日、国に結界を貼り直しました。悪い心を持つ魔物は入ってこれません」


(ま、それは嘘だけど)


 ルブリオにバレないように、ペロッと舌を出す。


「それみたことか。やっぱり見間違いだよ」

「しかし現場で対処にあたった兵士の報告では――」

「おい! ルシアが嘘をついてるって、そう言いたいのか!」


 ルブリオが怒号を上げる。

 キリキリと吊り上げた瞳で、騎士団長を睨みつける。

 

「お前の首なんて簡単に飛ばせるんだぞ!」

「ももももも、申し訳ございません!」


 騎士団長の顔が真っ青になった。

 ルブリオへ深々と頭を下げる。

 

「もう一度だけ聞いてやるよ。国境沿いの街でなにがあった? お前はなにを報告しにきた?」

「魔物の襲撃を受けたという報告を受けましたが…………それは見間違いでしょう。ルシア様に貼っていただいた結界がある以上、魔物に襲撃されることはありえませんから」

「それでいい。邪魔だから出ていけ」

「失礼します」


 安堵の表情を最後に浮かべて、騎士団長は部屋から出ていった。

 

(だっさ。こんなバカ王子に屈するなんて、恥ずかしいことこの上ないわね。私なら絶対ゴメンだわ)


 どんな状況でもルシアなら戦うことを選ぶ。

 騎士団長の背中に、軽蔑の視線を送った。

 

「悪かったねルシア。臣下が無礼なことを言ってしまった」

「お気になさらず。私はまったく気にしていませんから」

「君はなんて器が広いんだろう」


 ルブリオは感心したように声を上げた。

 騙されているなんて、少しも思っていないのだろう。

 

「それにしても、最近おかしなことばかり起きるな。農作物の不良に、災害の発生……。ルシアの力によってこの国は守られている。だからそんなことは起きっこないのに、どうしてだろう……」

「いいですかルブリオ様。その話はすべて悪質なデマです」


 ルブリオの瞳をまっすぐに見つめる。

 

「デマを流しているのは、レシリオン王国の評判を落とそうとしている人間です。敵対国、反政府組織――そういう汚い心を持った人間はたくさんいますからね。騙されないよう、注意なさってください。絶対に信じてはいけませんよ」

「そうだよね。嘘に決まってるよな。だってルシアがいるのに、そんなことが起こりようもないんだから!」


 ルブリオはうんうんと頷く。

 その瞳は曇りのない純粋さで、まったくといっていいほど疑っていなかった。


(扱いやすいバカで助かるわ。これからもずっとその調子でお願いね)


 わずかに開いたルシアの口から笑みが漏れる。

 それはただの嘲笑だったが、きっとルブリオには違うものに見えていることだろう。

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