【11話】クルーダからの頼み
「今日もお姉様の手際は素晴らしいです! 完璧です!!」
午前十時の作業室に、元気いっぱいの快活な声が響いた。
声を上げたのはオフェリアの隣にいる、同僚のステラだ。
ステラもいつもこうして、オフェリアを褒めてくれる。
そのときには毎回瞳をキラキラとさせている。
今日の瞳も、もちろん眩しい輝きを放っていた。
「ありがとう。ステラの精製スピードも上がってきているわよ。前に比べたらずっと速くなったわ」
よくできました、と言って、オフェリアは笑みを浮かべる。
ステラの頭へと手を伸ばして、優しく撫でた。
「わーい! お姉様に褒められました!!」
撫でられたステラは火がついたように喜んだ。
素直で元気な反応は、最高にかわいらしい。ずっと見ていられる。
「お楽しみのところごめんね。ちょっとお邪魔するよ」
作業室にクルーダが入ってきた。
オフェリアのところへやってくる。
「これはクルーダ様!」
オフェリアはにやけていた顔を引き締め、背筋をピンと伸ばす。
相手はこの国の王様。にやけたままの態度で接する訳にはいかない。
しかしクルーダは、
「いいよかしこまらなくて。もっと気楽にいこう」
ほがらかに笑った。
(そう言ってくれるのはありがたいけど……あまりにもフレンドリーすぎないかしら?)
もう少し自分の立場というものを考えてほしい。
なんてそんなことを言えたらいいのだが、さすがにそれは無理なので胸にしまっておく。
「オフェリアに話があるんだけど、今少しいいかな?」
「かしこまりました」
回復薬づくりは順調に進んでいる。
少し開けるくらいは、なんの問題もない。
作業室を出たオフェリアとクルーダは、ゲストルームへ入る。
二人は対面どうしになっているソファーに腰をかけ、向かい合った。
「この国の端の方にペルラ村という場所があるんだ。そこは農作物が頻繁に取れる地域……だった」
「だった?」
含みのある言い方に、オフェリアは疑問の声を上げた。
「そう、かつてはね。でもここ半年ほどは、農作物の不作や不良が相次いでいる。原因は不明だ。必死になって探っているけど、まったくわかっていない」
下を向いたクルーダは、深いため息をついた。
そして顔を戻す。
オフェリアを見る瞳はいつもより真面目で、真剣さが宿っていた。
「アディールから報告を受けたけど、君は不思議な力を持っているらしいね。現地に行って様子を見てきてくれないかな?」
「……お役に立てるかわかりませんが、それでもよろしければ行ってみます」
大天使の加護はすさまじい力だが、万能の力ではない。
どうしようもできないこともある。
それでも、やる前から諦めたくはなかった。
「ありがとう! いっぱいのケーキを用意しておくからね!」
(アディール様……そんなことまで報告していたのね)
ケーキを食べられるのは嬉しいが、これではなんだかオフェリアが食いしん坊みたいだ。
その報告はしなくてもよかったのに、とオフェリアは心の中でアディールを少し恨んだ。




