【10話】気になる女性 ※アディール視点
アディールは王宮にあるクルーダの私室を訪れた。
オフェリアが魔術師団で働き始めてから、今日でちょうど一か月が経った。
彼女は信じられないような大きな成果ばかり上げている。
一か月という大きな節目に、クルーダへそのことを報告しにきた。
「瞬時の回復薬精製。広範囲の治癒魔法。そして、結界ね……。どれも信じられないことだな。この結界というのは効果が出ているの?」
「あぁ。オフェリアが結界を貼って以降、魔物の襲撃は発生していない。結界の効果と見て、まず間違いないだろう」
「彼女はすさまじい力を持っているようだね。治癒魔法を使えるから魔術師かと思ったけど、そうじゃないな。もっと上の力をもつ偉大な存在だと思う」
「それは俺も同感だ」
あれだけの力を持っているのだ。
オフェリアはただの魔術師ではない。
(定住先を求めてやってきたと言っていたが、前の国でなにかあったのだろうか?)
そのとき。
アディールの脳裏に、一緒にケーキを食べたときの映像が浮かんだ。
あのときオフェリアは、『私が前にいた国とは大違い』と言っていた。
(……気になるな)
「難しい顔をしてどうした?」
「以前オフェリアが、『私が前にいた国とは大違い』と言っていたの思い出してな。それが気になっていた」
「訳アリなんだな」
「……どうしたら話してくれるんだろうか」
一瞬だけだったが、あのときの彼女は寂しそうな顔をしていた。
もし少しでも力になれるのであれば、全力でそうしたい。
オフェリアのしてくれていることは、この国にとって素晴らしい利益をもたらしている。
だから恩を感じている。アディールとしては、それを返したい。
でも、それだけではなかった。
一生懸命にする仕事をするオフェリアの姿を近くでみて、アディールは大きく感動した。
あんな感情を抱くのは初めてだ。
だから少しでもいい。
彼女のためになにかがしたかった。
「そんなの決まってる」
「どうすればいいんだ?」
「今より親密度を上げるんだ。そうすればオフェリアの方から話してくれる」
「……なるほど。参考になった」
人間関係の構築が苦手なアディールと違って、クルーダはこういうことに詳しい。
相談してみて正解だったかもしれない。
クルーダがニヤニヤする。
「しかしあのお前が、女の子を気にかけるとはな。今までどんな女の子にアプローチされても気にもしなかったのに。ついにお前にも春がやってきたのか」
「――!? そういうことではない!」
慌てて否定するも、クルーダのニヤニヤはとまらない。
まったく信じていなかった。
「恋の相談ならいつでも乗ってやるよ。困ったらいつでもこの部屋にきていいからな」
「……お前のところにくるのはこれが最後だ。もう二度とくるか」
(真剣に相談しているというのに茶化すとは、なんというヤツだ!)
相談してみて正解、と思ったが、あれは撤回だ。
勢いよく背中を向けて、アディールは部屋を去っていく。
背中越しに、またなー、という声が聞こえたが完全に無視だ。




