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婚約破棄されたけど、予知夢で全部知ってたので国ごと救って隣国王に嫁ぎました

作者: 芽春誌乃

7作品目です!


※この作品はカクヨムでも掲載しております。

「ユリア・クラウゼ! 本日をもってお前との婚約を破棄する!」



 ――――その日、わたしは予知夢で見たとおりの場所に立っていたのだ。



 絢爛豪華な玉座の間。

 王のみ座ることが許されるその椅子に腰かけたコルティナ国王レオナール陛下は顔を真っ赤にしながらわたしを糾弾する。


「王妃とはこの国に1つしかない椅子だ。そこにお前が座るだと?」


 レオナールの隣にはわたしと対照的に顔立ちのよい娘がいた。

 ドリーナだ。

 彼女はいつも儚げな表情をしており自信なさげな口調が特徴的だ。

 そんな弱弱しく美しい姫を守りたいと思ってしまうのが男というものなのだろう。

 わたしのように意志の強い女よりもかわいらしい娘に心惹かれるのは当然のこと。


「冗談じゃない。お前のような冷酷で醜い女は王妃には相応しくない!」


 公衆の面前で婚約破棄を突きつけてきた国王の横でそっと笑むドリーナ。

 今まで目の敵にしてきたわたしが転がり落ちていく様はたいそう滑稽なのだろう。


「ユリアさまはわたくしが民に施した物資を横取りしたのです……」

「ユリア! あまりにも度が過ぎるぞ!」


 なんの根拠もない噂話をすっかり信じた国王はさらに激高する。


「ユリアさまが! まさかあのドリーナ嬢にそんなひどいことを……!」


 さらに周りにいた貴族たちも怒号を上げる。

 みんなわたしではなくユリアの言い分を信じているのだ。



 ――――まぁ、そうなることはわかっていたけどね。



 これだけひどい仕打ちを受けてもわたしは動じません。


 なぜなら……すべて夢で見たから。





 初めて“その夢”を見たのは16歳の誕生日の前夜だ。

 わたしは超名門貴族の生まれ。誕生する前から国王との婚約は既定路線であり将来の栄華は約束されていた。

 このまま幸せな人生を……と思っていたとき、夢を見た。


 ――――夢の中でわたしは婚約破棄され、爵位も屋敷も奪われ、野ざらしの荒野で倒れていた。


 こんなことになるなんて……なんてひどい夢だ。


 けれど、そこで終わりじゃなかった。

 命を落としかけたわたしを助けたのは隣国アルメリアの若き国王、ハインリヒ陛下だった。

 夢は救いのあるものだったのだ。


 助けられたわたしはアルメリアの王妃となり、かつてわたしを貶めた者たちは自らが育てた腐敗によって滅んでいく。

 そんな光景がすさまじい速度で流れていった。


 そして夢の最後にこう告げられたのだ。



 ――――これは未来の記憶。お前が選べるもう1つの運命。



 夢で起こったことが現実になるなんて信じていなかった。


「本当に起こることなのね……」


 けれど、あの日から何度も夢に見たことが実際に起こってしまうという光景を見てしまった以上は信じるしかなかった。


 ――――わたしの見た夢は予知夢だ。

 そう確信したわたしは覚えている限り夢の内容をすべて記録し、その日に備えた。

 偽りの噂に耐え、周囲の視線を冷たく受け止め、夢の中で滅びた王国を救う方法を学び続けた。



 ――――なぜなら、わたしには見えているから。



 この先、国を覆う疫病、魔物の侵攻、そして内乱。

 それらの災厄を回避する手段を夢が教えてくれたから――。


「弁解はないのかこの悪女が!」


 レオナールは叫ぶ。


「お前は聖女に選ばれたドリーナを嫉妬し、貶めようとしたのだ。詫びの1つもないのか!」


 ……まったく、どこの脚本家が書いた芝居なのやら。


 思わずため息をつきそうになるが、レオナールの機嫌を損ねても面倒なのでぐっとこらえる。


 ドリーナが聖女ですって? まさか。

 神託を下す女神さまはドリーナを聖女に選んでなどいない。

 真の聖女の証はわたしに宿っている――けれど、それを今証明しても意味はない。


 わたしがこの場で暴れても、泣いても、誰も信じはしないのだから。


 だからわたしはただ静かに頭を下げる。


「ご決断、確かに承りました。婚約の破棄、そして爵位剥奪、すべて受け入れます」


「なっ……⁉」


 ざわめく会場。

 レオナールは面食らったような顔をしている。

 もっと泣いてすがってくるとでも思ったのかしら?


 甘いわ。

 わたしはあなたにすがるために生きてきたわけじゃない。

 わたしは夢に見た未来をつかむためにここにいるのだから。





 王都を離れた翌朝。

 わたしは小さな旅装束で国境近くにある野ざらしの荒野で倒れていた。

 その夜、満月の下。予知夢で見た光景と同じ黒い馬が近づいてくる。


「――――!」


 馬から降りてきた男は赤い髪に紫紺の瞳を持ち、鋭い気配をまとっている。

 背はレオナールと違ってかなり高い。

 どんな服でも着こなしそうなスタイルのよさはこの暗闇でもよくわかる。


「あなたは確か――――レオナール王の婚約者であるユリアさまですか」


「はい。ハインリヒ陛下。初めまして。ユリア・クラウゼと申します」


 わたしを見下ろす彼は夢と同じ声音で静かに言った。


「こんなところでなにを……」


 このセリフも夢の中で見たものとまったく同じだ。

 わたしは手筈どおり起こったことを事細かに説明する。


 するとわたしの受けた仕打ちに同情したハインリヒ陛下は膝をついてわたしの手を取ると両手で包み込み温めてくれる。


「へ、陛下。お、おやめください。わたしのようなもののために膝をつくなど……」

「麗しい淑女がひどい仕打ちの末、野ざらしの荒野で倒れている。当然のことだ」

「陛下……うれしいです」


 ハインリヒ陛下はわたしのすべてを受け入れてくださった。

 だから予知夢のことも信じてくれた。


「私はあなたの予知夢の力とどんな逆境でも折れることのない勇気を必要としている。来ていただけますか?」


 その手をわたしは迷わず取った。




 アルメニア王国にたどり着いたわたしは豪華な一室をハインリヒ陛下からいただいた。


「なにか他に要望があったらいつでも言ってくれ」

「ありがとうございます陛下」


 陛下のわたしへの歓迎っぷりはすさまじかったようで、使用人いわく国賓を迎えるくらいの緊張感でもてなせとの命令を受けているとのこと。

 正直ここまで歓迎されるとは思ってなかった。

 夢は断片的なものでしかないから細かなところまでは見ることができないからだ。



 その夜。再びわたしは予知夢を見た。

 内容はアルメリア王国に迫る危機についてだ。

 わたしは朝起きるとすぐにハインリヒ陛下に相談した。


「わかった。伝えてくれてありがとう。すぐに動こう」

「あの……本当に予知夢があっているのかどうかわかりませんが――――」


 これまで当ててきたとはいえ今回も夢で見た内容が現実になるとは限らない。

 わたしはいつもよりも弱弱しい声でそう伝えた。


「信じる。君を……君の力を」


 そう強く言い切ったハインリヒ陛下。


 アルメリア王国ではすぐに対策会議が始まった。

 予知夢で知っていた情報を地図に起こし、感染源の村を隔離し、魔物の巣を潰し、密かに陰謀を張り巡らせていた魔術師団を摘発した。


「君は本当に……未来を知っているのだな」

「はい。すべて余すことなく……」

「ありがとう。本当にありがとう。これで何万という民の命が救われた」


 わたしの力で誰かを救うことができた。

 だが、本番はこれからだ。





 半年後、予言どおりコルティナ王国は疫病と内乱で混乱を極めていた。


 ドリーナは聖女としての力がまったく使えず、結界は崩壊。

 その結果、魔物の大群が王都を襲い民は逃げ惑っていた。


 そのとき、突如としてアルメリア王国軍が国境を越えた。

 コルティナ王国の惨状を見かねたハインリヒ陛下は救援要請に応えて出兵を行ったのだ。


「我らは救援に来た。……ユリアさまの導きのもとに」


 戦場に響く騎士団長の声。

 その後ろにはアルメリア国王の紋章を掲げた金色の馬車。


「ユリアさまのおなりである」


 そして、わたしが馬車から降り立つと――――。


「……ゆ、ユリアだと⁉」

「こ、この……女。生きていたの⁉」


 地に伏す元婚約者とその王妃が顔を上げた。


「なぜ、あんたが――――」


 ドリーナはその悔しさを前面に押し出した表情をする。

 一方のレオナールはなにが起こっているのかわからず口を開けながら呆然としている。

 これがコルティナの暗君か……ある意味婚約破棄されてよかったなと思いながら2人に近づいていく。


「わたしはアルメリアの王妃として祖国救援のために参りました」

「う、嘘だ……。お前は悪女なんだからなにか裏があるはずだ!」

「裏はありませんよ。ただ、あなたの統治能力ではこの国は治まらないとしていったんアルメリアの庇護下に置かれることが決定しました」

「国を取る気なの⁉」


 わたしの発言に自らの地位が脅かされることを恐れたドリーナが発狂する。


「人聞きの悪いことを言うな。お前たちがこのまま玉座に居座れば苦しむ民が増える。それを回避するための手段だ」


 わたしの肩を優しく叩いて2人の眼前に現れたハインリヒ陛下。


「うう……お、俺の国がぁ……」

「わたくしの地位が……」


 呆然とする2人に対してわたしは優雅に微笑む。


「あなた方の愚かさが招いた未来です。……では、次は処理を」

「ま、待ってくれユリア! 頼む、助けてくれ……属国だけは嫌だ!」

「そういうセリフは夢にでも言っていてくださいまし」


 その後、コルティナ王国はアルメリアの庇護国となり、平和を取り戻した。

 わたしは王妃として国の改革に携わり、ハインリヒ陛下とともに民に寄り添う政を始めた。


「君とならどんな未来も超えていける気がする」


 あの時、夢の中で掴んだ未来は確かに現実になったのだ。


「……わたしもそう思います、陛下」


 手を取り合ったその瞬間、未来は完全にわたしたちのものになった。

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