第十三話
(なんかすごい空気なんだけど……あ、そうか。勇者御一行が全滅してたっけ。テンション間違えたー……)
「あ、あのー……この度は御冥福を申し上げると言いますか、勇者さんのパーティーの皆様方に関しては私の力も及ばずに……」
「生きてたのかおっさん!!!マジかよ!信じてたぜ!」
勇者御一行の事に関しては俺も思うことがあったので、素直に謝罪をしようとしていた所、レックスがよく分からないことを言いながら胸に飛び込んでくる。
その瞬間、ギルドのあちらこちらから怒号のような歓声が沸き上がり、皆英雄の帰りを祝福した。
「嘘つきなさいレックス。あなた、一番に死んだと勘違いしてたでしょ」
「な……ほ、本物ですよね……?」
そう口にするクノアとエマ。クノアは口ではなんともなさそうにしているが、その顔には嬉しそうな笑顔が浮かんでおり、エマは手をワナワナと震えさせて俺の顔をまじまじと見つめていた。
「俺に偽物も本物もないだろ。……しかし、これはいったいどういうことだ?」
勇者には増援を頼んでいたが、結局のところ増援を待たずに一人で終わらせてしまった訳だし、そこへの追及はあると思っていたが想定外の方向に話が進んでいたらしい。
「だっで……だっでぇ、ローランざんがじんだどおぼっでえぇぇ!」
受付嬢は泣きじゃくり、鼻水を垂らしながらそんなことを言っている。成る程、死んだと思われていたわけか。受付カウンターに置かれているマジックバックのせいだろうか?……それにしても。
(レベリングしてた時も思ったけど、この世界の人、勝手に人を殺しすぎじゃない?)
こんな物騒な世界で育ってこなかった俺にとって、この世界の人の感覚は少し変なものに感じていた。
(ま、次からちょっと気をつけるか)
価値観の違いが大きな過ちを招く可能性もあるので、こちらの世界の感覚を気にして行動するようにしよう。そんなことを考えていると、ずっと黙っていた勇者が口を開いた。
「ローランさん……どうやって……?四天王――コルソンはどうしたんですか……?」
「……倒したさ」
(倒したのは俺じゃないけどね)
心の中でそう付け加える。
「そういや、これ。勝手に借りて悪かったな。助かった」
俺は勇者に聖剣を手渡す。コルソンとの戦いのMVPは間違いなく幽鬼だが、聖剣も影の立役者として頑張ってくれていた。実際、聖剣を盾として使うことができなかったら死んでいた可能性も高かっただろう。
「いえ。お役に立てたのならよかったです。――こ、これは……?」
勇者が聖剣を手に持った瞬間、くすんだ色をしていた聖剣が光り輝き始めた。それは以前よりも眩しく、燦然と輝く剣には今までよりも強大な力が秘められているように感じられた。
「以前よりも強い……?」
「ああ、それなんだが、コルソンからドロップした触媒を使って強化しておいたんだ。少しだが、強くはなってると思うぞ」
「四天王のドロップアイテム!?そっ、そんな貴重なものを!?」
「それ以外の使い道もないし、気にしないでくれ」
「ち、ちょっと!」
勇者は引き留めようとするが、それを手で制しつつ俺は受付カウンターに向かって歩く。そこに置いてあったマジックバックを手に取った俺は受付嬢へと話しかける。
「このマジックバックは?」
「は、はいっ!それは、エマさん達が持ち帰ったものです!状況から、ローランさんのものと思われますっ!」
「ではもらっていく。それと、四天王のことなど諸々報告したいのだが……さすがに今日は疲れた。悪いが明日に回してもらっても大丈夫だろうか?」
「もちろんですッ!細かい業務などはこちらでやっておきますので、ごゆっくりとお休みください!」
「ありがとう。そうさせてもらうよ」
マジックバックを持った俺は、ギルドの外へ向けて歩き出す。ギルド内にいたものは皆歓声をあげ、英雄の背中を見送っていた。
「そうだ」
思い出したかのようにつぶやいた俺は振り向き、背中を見ていた4人組に対して言葉を続ける。
「レックス、クノア、エマ、そして勇者。お前たちも明日ギルドに来てくれ。時刻は……そうだな、12時にしよう」
「わかったぜ!クノア、エマもいけるよな?」
レックスが食い気味に返事をする。レックスが確認をとった二人も頷き、肯定の返事を返す。
「わ、私も……いけます」
すこし遠慮気味に勇者が了承する。その返事を聞き再度振り向いた俺は、扉に手を掛ける。
「おっさん!集まるのはいいけどよ、なんの話なんだ?」
扉を開いた瞬間、レックスから声が飛んでくる。
「まあそう焦るな、明日話してやるさ。それに……今日は疲れ――」
(あれ、)
ドサッ、という音と共に自分が倒れたことに気づく。
「おい、おっさん!」
意識を失う寸前、最後に聞こえたのはレックスの声だった。
「おっさん!気が付いたかっ!?」
意識を取り戻した俺は、ギルド内部の医務室にあるベッドの上に寝転がっていた。
「近くで叫ぶな。……心配をかけたな、悪かった」
レックスの隣にいるエマが泣きそうな顔でこちらを見ているのに気づいた俺は、気まずいような感情を覚え謝る。
「ローランさん!お目覚めになったんですねッ!」
どこから聞きつけたのか、扉の奥から受付嬢がやってくる。その手にはペンと書類が握られており、仕事を放り出してこちらへ来たことは容易に想像がついた。
「ああ、心配をかけてすまなかった。……どれぐらい寝ていた?」
「現在は、ローランさんがお倒れになった翌日の午前11時です!約16時間ほどお眠りになっていました」
(結構な時間眠ってしまったな……)
思っていたよりも疲労が溜まっていたらしく、想像していたよりも長い時間睡眠をとっていたらしい。ただ、それだけ寝たからか倒れた後とは思えないほど体は活力に満ちており、運動を求めていた。
「ふむ……ちょうどいいな。俺は少し出てくるから、12時に再度ギルドに集合してくれ」
「わかったぜ」
少し間をおいてレックスが言葉を続ける。
「……ただ、出かけるってどこに行くんだ?」
「なに、ちょっと走ってくるだけだ。なんなら一緒に走るか?」
体を動かしたかった俺はそう答える。ついでに言うと、長時間ご飯も食べずに運動をしていたから相当な空腹にも襲われていたため、どこかで昼食を摂ろうと考えていた。
そんな俺の言葉が意外だったのか、レックスは目を見開いて答える。
「マジで!?おっさんが!?もちろん行くぜ!」
「私は行かないわよ。汗臭い男どもと走り込みなんてごめんよ。それに、まだご飯も食べてない」
「わ、わたしも遠慮しておきます……レックス君についていける気がしないので……」
各々がそう答える。このままだとレックスに強制連行されると察した二人は先に断り、実際連れて行こうと目をキラキラさせていたレックスの顔が少し暗くなる。
「じゃあ決まりだな。早くいくぞ、12時に遅れたら大変だ」
「応!」
ベッドから立ち上がった俺はギルドの外へ出る。その後ろをついてきていたレックスは、やる気に満ち溢れたような顔をしていた。
「おっさん!勝負しようぜ!」
性懲りもなくそんなことをいうレックス。それに対し俺は……
「じゃあ、ここから南の城門まで競争な。お前が勝ったら……そうだな、昼飯を豪華にしてやる。負けたら屋台で飯だ」
そう言いながら振り向くと、レックスは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。その数舜後、はっとしたような顔をする。
「おう、望むところだぜ!……いつでもいいぜ!」
「それじゃあ。位置について、よーい……」
「ドン」。その号令と共に、レックスと俺は走り始める。
未だ黒い雲に覆われた空からは、一筋の光が伸びていた。それは、二人が走る方向のずっと先。荒れ果てた地へ建つ魔王の住まう城を燦然と照らしていた。
この先、どんな困難が待ち受けていようとも、どんな苦境に立たされようとも、全力で走り続ければ、或いは。
(――邪神討伐、か)
この男は、そんな偉業をも成し遂げてしまうのかもしれない。
今回にて、第一章完結となります。ここまで読んでいただいた方には感謝の思いしかありません。本当にありがとうございます。
今後としては、幕間として1~2話ほど挟んだのち、第一章の改稿や第二章の執筆に取り掛かれればと考えています。少し期間は空くかもしれませんが、ある程度の構想は出来上がっている状態ですので気長にお待ちいただけたらと思います。
最後に。感想や評価、レビューなどいただけると著者の励みになりますので、宜しくお願いいたします。改めてとはなりますが、第一章を読んでいただいたすべての皆様、本当にありがとうございました。




