第十話
「【死の舞踏】!」
「【瞬歩】!」
(どうする!?生半可な攻撃じゃダメージは入らないッ!ならば時間を稼いで……いいや、ダメだ。援軍の見込みはない)
コルソンが放つスキルをどうにか避けながら、この戦いの突破口を探す。
「【ウィンドブラスト】!」
俺はコルソンの足下で魔法を爆発させ、発生した砂塵で視界を奪う。
「ちょこまかと……ッ!鬱陶しい!」
しかし、コルソンが腕を一振りすると砂塵は晴れ、こちらを見据えて走ってくる。
そうして至近距離まで近づいたコルソンが尻尾での薙ぎ払いを放つ。スキルを使っていない唯の攻撃。しかし、それですら受けると致命傷であろう威力を内包していた。
だがッ!
「【居合術・後の先】!」
またしても俺は攻撃を弾き、ダメージが入ることはない。相手の攻撃で受ける衝撃を利用し距離を離した俺は、もう一度足元に魔法を放ち視界を奪う。
「【ウィンドブラスト】ッ!」
「それは意味が無いって分かったでしょうッ!?」
先ほどと同じようにコルソンが腕を一振りさせ、一瞬で砂塵が晴れる。
しかし、俺に欲しかったのはその一瞬であった。
(暴走させろ……ッ!もっと、もっと魔力をッ!)
視界を回復させたコルソンの目に映ったのは、無属性の魔力の塊だった。
「そ、その魔力は……」
「俺のとっておきさ」
それは3人組に襲われた時、エマが放とうとしていた魔力と同じものである。
本来、魔法と比べMPの消費が激しいためこういった形で魔力を放つことは少ない。
(これが俺の最高火力だ……!)
だが、半端な攻撃ではダメージが通らない以上、最高火力をぶつけるしかない。
俺の作り出した魔力の塊は一定の形を保っておらず、今にも崩壊しそうなほど不安定な状態であった。
(だが……まだッ!)
コルソンを一撃で倒すためには、まだ足りない。俺はさらに魔力を注ぐ。
しかし、塊が大きくなるほど制御ができなくなっていき、遂に崩壊が始まる。
(ここまで、か)
諦めかけたその瞬間、爆発寸前だった魔力の塊が安定していくのを感じた。少しずつ魔力の塊は小さくなっていき、最終的にはサッカーボールほどの大きさにまで縮小した。
(なぜ……!?)
「私が魔力操作の援護をします!あなたは狙いを定めてッ!」
そこに立っていたのは、勇者だった。頭からは血を流しており、今にも倒れそうなほど足は震えている。聖剣を杖のように持ち、こちらへ魔力を発していた。
(ナイスアシストすぎるだろ!)
勇者によってさらに圧縮された魔力は、先ほどまでとは違い波打つ鼓動のような波動も、圧倒的なプレッシャーも放ってはいなかった。しかし、魔力の密度は格段に上がっており、まるで魔法かのような洗練さを持っていた。
「やめなさいッ!【闇弾】!」
それを見たコルソンはその危険性に気づいたのか、妨害しようと魔法を放ってくる。だが──
「もう遅いッ!」
「いっけえええぇ!!!」
俺が腕を振ると、凝縮された魔力の塊はコルソンへ向かって猛スピードで飛んで行った。着弾と同時に轟音が鳴り響き、先ほどまでの魔法とは比べ物にならない規模の爆発が起きる。
「やったか!?」
俺はお決まりのセリフと共に爆発で上がった煙を見る。
数舜の後、煙が晴れる。そこにあったのは......
「コホッ、コホッ……今のは危なかったわ。だけど、もう終わりのようね?」
ボロボロな……だが、未だ余力を残しているコルソンの姿であった。
「無念……」
ドサッ、という音と共に勇者が倒れる。それと共に、勇者が握っていた聖剣が地面に転がる。
「クソっ……どうすれば!」
俺は武器を持っていなく、勇者も戦える状態ではない。最強の武器である聖剣にも頼れ──いや、
(勇者、聖剣……そうか、その手があった!)
「【瞬歩】ッ!悪い、借りるぞ勇者」
俺は勇者の方へ走り、地に転がっている聖剣を拾う。すると、先程まで燦然と輝いていた聖剣は光を失ってしまう。
だが、俺はそんなことを気にも留めず、聖剣を構える。
聖剣は見た目で言えばショートソードの部類に入るのだが、『ローブレ』内での武器種指定はされていなかった。それは、主人公がどの武器スキルでも放つことができるようにという意図のもと調整された仕様が理由だ。
──ならばッ!
「秘義……【燕返し】!」
「ッ──!」
剣聖のレベル15にて覚えることができるスキル、【燕返し】。刀を装備している時にしか使うことはできず、刀と剣聖の相性がいいと言われる理由の一つ。
(刀の専用スキルも使えるってことだよなぁ!)
それは、正に神業。人生全てを剣に注ぎ込んだ男が編み出した一閃。聖剣による一撃はコルソンの懐に吸い込まれるように振り抜かれ──コルソンの体に弾かれた。
(やっぱり駄目、か……)
世界最高峰の斬れ味を待ち、杖のように魔力を増幅することも可能であり、秘められた力を解放することで魔王をも倒しうる最強の武器、聖剣。
それは──勇者が為の剣。勇者以外がその力を振るうことは、他ならぬ聖剣自体が許さない。
「あははははッ!やっぱり貴方には使えないじゃない!勇者じゃない貴方が聖剣を手にしても意味はないのよ?早くその聖剣をこちらに渡しなさいッ!」
「誰が渡すかよバーカ、この剣が欲しかったら、俺を倒して奪ってみろってんだ」
「アナタ……後悔するわよッ!【破装の翼】!」
俺はコルソンの放ったスキルを聖剣で受ける。【破装の翼】には装備破壊属性が付いてあり、生半可な武器や防具で受けようものなら貫通し、ダメージを与えてくるスキルである。……しかし、
聖剣とは、この世界の根幹に関わる重要な要素であり、『ローブレ』では主人公が持ち、世界を救うことのできる最強の武器。
そんなゲーム的に、世界観的に大事なものが破壊できるよう設定されるだろうか──否、聖剣は破壊不可能なのだ。
「なぜ!?」
「聖剣が破壊できるとでも思っていたのかッ!?破壊不能オブジェクトだよッ!」
コルソンの翼は聖剣に弾かれ、俺はその衝撃に身を任せるまま距離を取る。
そして勇者の倒れている方へ行き、声をかける。
「【ヒール】!勇者、動けるか!?動けるなら今すぐ逃げろッ!街で増援を呼んできてくれ!」
俺の言葉を受けた勇者はボロボロの身体で立ち上がり、少し悩んだ素振りを見せた後にダンジョンの外に向けて走っていく。
「ああ、それでいいんだ」
逃げて行った勇者を見て、そうつぶやく。
「ああ、ほんと鬱陶しいッ!【闇弾】!」
「【居合術・後の先】ッ!──さあ、耐久戦といこうか!」
俺は最強の盾を構え、そう吠える。コルソンはまるで、「よくもやってくれたな──」と言わんばかりに悪鬼のような形相でこちらを睨んできている。
「ククッ!そう睨むなよ!美人が台無しだぜッ!?」
「鬱陶しいのよ、口を開かないでもらってもいいかしら!?」
「まあそう言うなよ。これから何時間と遊ぶことになるんだぜ?交友は深めていかないとなあッ!」
俺は、底をつきかけているMPを横目に虚勢を張る。
──残された時間は、あと少し。




