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第7話:雪原の戦い3

クロイツ子爵は焦っていた。敵のほぼ全軍が崩壊しかけているのに、自分の騎馬隊だけが、敵の騎馬隊とほぼ互角に戦っているのだ。負けていないからいいとも思えるが、他が快勝しているようで、ここだけ結果が出ていないのは問題だった。

「全軍突撃」そこでこの時と思い,ドラゴン旗を出して、突撃した。


敵はそれを読んでいたようで、中央から左右に見事に2隊に分かれた。

そのうちの一隊が、戦場を大きく迂回し、味方後方に向かった。

「まずい、あれは本陣にむかっている。何とかして止めないと」


クロイツは、焦って、本陣に向かった一隊を止めようと、馬首を廻らしたが、そこに残りの一隊が突っ込んできた。この隊はほぼ死兵となっていた。


勝敗はほぼ決したが、最後のあがきで敵将を打ち取ろうと本陣に向かった一隊を死んでも守ろうとしていた。敵将を打ち取ればあるいは逆転の勝ちもあるかもとの最後の博打を打とうとしていた。

クロイツはこのまとわりつく敵を振り切れずにいた。


本陣では、ほぼ勝利したと思い、楽観的な雰囲気が漂っていた。

そこに敵騎兵隊が向かってくるのが見えた。


本陣が動揺した。

「円陣を組め、槍衾で、騎馬隊を通すな、シュバルツ様を守るのだ」

「ヒュドラ旗あげろ、円陣を組め」


黄色に白くヒュドラが描かれた旗が掲げられた。ヒュドラ旗は円陣で、防御的な陣形である。

通常、歩兵は、騎兵に弱いが、統制の取れた槍衾を取った場合のみ、対抗できる。しかしこれは、騎馬が真正面から自分に向かってくるのに、冷静に対処しなければならず、かなりの勇気を必要とした。


だが、流石本陣である。精兵が揃っていた。流れるような動作で円陣を組み、一人も動揺せず槍衾をくみ上げた。全員が石附を地面に突き刺し、同じ角度で、槍を構えていた。隙が全く無かった。


敵騎馬隊は、何度も突撃を敢行したが、その度に槍衾で撃退された。しかし、このままでは、いつかはまずい状態になる。伝令を出そうにも、敵もそれを考え、少数の部隊が、何隊も遊撃しており、伝令は追い返されるか、打ち取られていた。


俺たちは、ほぼ敵を打ち取ってしまったので、ギャロップしながら、逃げてる敵をぽつぽつと打ち取っていた。


ほぼ残敵掃蕩の段階になったので、若干余裕こいていた。

「勝ったな。俺あんまり活躍しなかったけど」俺はぼやいた。

「まあまあ、ハン隊としては敵右翼騎馬隊を殲滅したんです。大活躍ですよ」

「ヤンとシュタインがな」

「あんまりいじけないで下さいよ。キッチンカーとか大活躍でしたよ」

「どうもそっち方面で、活躍するのが俺の本領かなあ」

うーん、やっぱり、兵站関係が俺の本領かな、戦闘でも頑張れる自信はあるんだけどなあ。


その時リュウが、急に真面目な顔になった。

「ハン、あれを見てください」リュウが本陣方向を指さした。

俺は目を凝らして、そちらを見た。


「なんだ、黄色い旗が上がっているぞ」

「あれはヒュドラ旗です。円陣です。防御的な陣形です。本陣に何かあったとおもわれます。急ぎ援軍をだすべきです」

「シュタインに伝令しろ、本陣を救えと」


「やったぜー、大手柄が転がってきやがった。野郎ども行くぞー」シュタインは躍り上がって喜んだ。

「本陣が危機だってやがら、何油断してんだか、これを救えば俺の大手柄だぜ、自分を売り込むチャンスだぜ、やっほーい」

「つづけ―、ドラゴン旗掲げろー」

シュタイン隊は土煙をあげて、本陣に向かった。最初っから突撃隊形だった。


敵騎馬隊の将は焦っていた。相手騎馬隊の隙をうまくつき、一隊を犠牲にして、敵本陣までやってくることができた。勇躍襲い掛かったところ、敵は円陣を敷き、槍衾を並べて対抗してきた。何度か突撃したが、槍衾をやぶることはできなかった。本隊は崩壊しかかっている。ここで、逆転するためには敵大将を討ち取るしかなかった。


「こうなったら、損害をかえりみず、突撃だ。槍に刺さって死んでも敵の槍の動きをとめろ、そこに次の騎馬が突入せよ。ここを破らねば、どうせ死ぬのだぞ」

全騎馬隊が死兵となり、突撃した。


「まずい、馬に槍が刺さり、抜けない」

「こっちもだ」

槍衾が乱れた。騎馬隊が陣のなかに入り込んできた。危機的状況だった。


シュタインは、背を低くし、突っ走りながら本陣の様子をみた。若干やばそうだったが、何とか間に合いそうだった。


味方の本陣の陰に隠れ、敵の死角になるように、近づいていった。本陣に至ってからは、それを回り込むように走り、敵の側面に突撃した。


敵将が、勝ったと思った瞬間。シュタイン隊が敵の横腹に突入した。

「つっこめー」シュタインが戦斧を振り回しながら、突入した。それに続いて部下たちも突入した。


あちこちで剣の触れ合う音、槍のぶつかる音が響き、切られた兵が馬から落ちていった。それは明らかに敵兵の方が多く、シュタインたちは敵を中央から分断し、反対側に突き抜けた。即座に反転し、違うところからつっこんだ。敵はバラバラになった。


「今だ、敵を半包囲せよフェニックス旗あげよ」青いフェニックス旗が上がった。

槍隊は円陣を解き、素早く陣形を変え、鶴翼となり半包囲の陣形をとった。シュタインの隊は、敵をそこに追い込むように背後から攻撃した。

ついに敵は包囲された。

敵陣より白旗が上がり、全員馬からおりた。降伏するようだった。


シュバルツ隊の歩兵が、敵を縛り上げようとしているとき、シュタインがゆっくりと本陣に寄ってきて叫んだ。


「おい、俺様が助けたんだからな。俺様の名前を憶えておけよ。俺はハンの所のクラウス・シュタインっていうんだ。忘れるんじゃないぞ」そう本陣に向かって大声で叫ぶと、馬首を返し、もと来た方に戻っていった。


「ぶ 無礼な」幕僚の一人が剣に手をかけた。

「よい。ああいう元気者は大好きだぞ。悔しいなら、おまえらもあれくらい言えるようになってみよ」

シュバルツはしごく楽しそうに笑っていた。


この戦いは勝ったようだった。


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