第6話:雪原の戦い2
ハン騎馬隊が突撃したのち、左翼も、中央も戦いが始まった。
まずは矢合わせからはじまった。
上空を大量の敵味方の矢が埋め尽くした。
矢が届くと、あちこちから悲鳴が聞こえたが、大部分は盾で防がれ、あまり損害はないようだった。
その後、歩兵がぶつかった。全体的にブルク王国軍が押していた。
「敵の押しが思ったより弱いな」シュバルツがつぶやいた。
「わが軍おしております」
「全軍で押しているから、罠ともおもえんな。そのまま押し続けろ」
歩兵は全軍が押し込んでいた。左翼の騎馬隊も少なくとも互角に戦っていた。
そこに伝令が入ってきた。シュバルツの前に片膝をつき、報告した。
「ハン隊、敵右翼騎兵部隊を粉砕しました。今後の御指示をこうとのことです」
「よくやった、ワイバーンにて敵を削るよう伝えよ」
「突撃しなくて、よろしいので」
「まだ機ではない」シュバルツがうっすらと笑った。
「そうお伝えします」
「うむ。行け」
「は」
伝令が戻ってきた。意に反して、ワイバーンだった。
「ドラゴンじゃーねーんだ」とシュバルツ。
「この機に、一気に決するわけではないようですね」とリュウ。
「………」もちろんヤン。
「うーん」
なんだろう、このまま敵の後方から突撃すればいいと思っていたけど、違うんだ。やっぱり伝令出してよかった。勝手に突撃しちゃうところだったよ。普通敵の騎馬隊を駆逐したら、そのまま包囲して、後方から突撃なんだがなあ。今回普通じゃない。良く分からんけど、命令には従おう。
「ワイバーンで敵を削るぞ」
ワイバーン隊形は、部隊を数部隊に分け、連続して突撃する方法である。車掛かりといってもいい。十騎ほど減った部隊を40騎ずつの6部隊に再編し、敵の右翼後方から突っ込んだ。
俺たちは、緑の地に白いワイバーンを染め抜いたワイバーン旗を掲げ、俺の部隊から突っ込んだ。敵は後方からの騎馬隊の攻撃を予測しておらず、面白いように簡単に攻撃できた。敵をある程度減らしたら、即座に反転すると、次にヤンの部隊が突っ込んだ。その次はシュタインがつっこみ、その後3部隊が次々と攻撃した、それを何度か繰り返した。敵は徐々に削れれていった。それに比べ味方の損害は皆無に近かった
ここはシュバルツの本陣。伝令が忙しく出入りしていた。
「敵右翼歩兵隊乱れます、ハン隊が攻撃していると思われます」
「よし、今だ、エーデル隊に突撃を命じよ」
右翼の歩兵隊の一部がサッと分かれた。そこからエーデルを先頭に30騎ほどの騎兵隊が現れ、真横から敵右翼歩兵隊を襲った。(このお話では、混乱を避けるため、右翼、左翼は、味方陣営から見ての方向とします。ですので、味方右翼は、敵右翼と戦うことになります)
先頭にたって駆けるエーデルは、まさに銀の矢のように戦陣を駆け抜けていた。疾走しながら細身のレイピアを縦横に操り、死体の山を築いていった。敵右翼をかすめるようにかけぬけ、敵横陣の先頭を切り裂いていった。その後を30騎がかけぬけ、さらに敵の傷を深くした。
横後からのの圧力で、敵右翼歩兵部隊の陣形はズタズタに切り裂かれ、最右翼の部隊は崩壊した。相手のいなくなった味方右翼先端が、敵右翼の横に回り込んで横撃しだした。
敵右翼歩兵部隊は、前、横、後から攻撃されて、見る間に浮足立った。
「まだ突撃するな。三方から圧力をかけ続けろと伝えよ」
「まだ、突撃しねーのかよ、敵はだいぶ弱っているぜ」
「俺もよく分からんが、なんか考えがあるんだろう」
「まあ今のところ損害はほとんどないので助かっていますが」
ほんと、損害がなくて助かっているよ、戦死者が出ると、俺が知らせに行かなくっちゃないので、大変なのよ。まあ領主の役目ちゃー役目なんでしょ―がないんだけれど、当然泣かれちゃったりするわけで、きついのよこれが。ほんと。
今回は俺も40騎を率いて攻撃した。でもこちらは騎兵で、混乱している歩兵を後ろから攻撃するのである。全く戦いという雰囲気ではない、ほとんど殺戮である。当然損害なんかない。なんか物足りないと言えば物足りない。いや、それでいいんだけどね。
「敵右翼が、押され、敵中央の陣に逃げ込んでいます。敵中央大混乱です」本陣で状況を観察していた副官が言った。
シュバルツが立ち上がり薄く笑った。
「いまだ。全軍突撃隊形とれ、ハンにも伝令を出せ。総攻撃をおこなう」
全軍に赤いドラゴン旗が掲げられた。真っ赤なドラゴン旗を林立させての総攻撃は、その絶大な破壊力が敵に恐れられていた。そして、それはブルクの赤い津波と例えられ、敵にとってはまさに悪夢となっていた。
そして、それがいま始まった。
「ヒャッホー、突撃だ。行くぞー」シュタインが歓喜の声を上げた。
「隊を再編成する。80騎づつ三隊に分かれて突撃だ。ドラゴン旗掲げろ」
俺は赤いドラゴン旗を掲げさせた。突撃である。
敵中央は、右翼の兵が敗走してきて、大混乱に陥っていた。
シュバルツ様は、これを待っていたのか。
「助けてくれー」
「追われているんだ、そっちにいれてくれ」
「こら、こっちにくるな」
「陣形が乱れる、追い返せ」
「何だって、味方だろうが」
敵中央は、なだれ込んできた味方を槍で追っ払おうとして、同士討ちが始まっていた。
シュタインとヤンが突っ込んでいくと、敵は抵抗せず、逃げ出した。それを追っていくと、敵を粉砕してきたエーデル隊と鉢合わせした。
「あんたたち気を付けてなさいよ、危うく同志撃ちだったじゃない」
疲れた様子もなく、エーデルがいった。言葉とは裏腹に上機嫌そうだった。敵を蹴散らして溌溂としていた。
「あんた、ハンのところの赤毛ね、噂は聞いてるわよ。強いんだってね。私についてらっしゃい」そういうと敵中央の陣に突っ込んでいった。
「げ、俺はあんたの部下じゃねーぞ」そう言いながらも、シュタインは、エーデル隊の後から突っ込んでいった。
中央部、左翼ともドラゴン隊形で敵陣に突撃していた。敵は右翼はすでに壊滅していた。中央はシュバルツ隊が前方より突撃し、エーデル隊が側方より、俺たちが後方より突撃したため四分五裂の状態になり、大混乱に陥っていた。敵左翼歩兵隊もほかの軍が壊滅したのを見て、逃走に移っていた。
ほぼ勝敗は決した。
ただ、クロイツ子爵の左翼の騎馬隊のみ、まだ互角の戦いを続けていた。
読んでくれてありがとうございます。
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