第4話:ランド王国
「なんでこんなことのなってしまったんだろう」ランド王国軍の指揮官スチュアート侯爵は、もう何百回口にした言葉を、またつぶやいた。
これはいってみれば、一種の懲罰なのだ。元はといえば、王が我が妻メアリーを後宮にいれよといったことから始まる。もちろん全く理不尽なことだから断固として断った。
王は暗愚だと思っていたが、ここまでとは思っていなかった。忠実な家臣の妻を奪おうとするとは、愚かにも程がある。この愚挙に対して、宮廷の家臣は誰一人としていさめなかったらしい。この国はもうだめなのかもしれない。
そうしたら、次はブルク王国を攻めろとの、命令を受けた。ブルク王国との境目の城は、あの名高い騎士の城だ。生半可な軍勢では、落とすことは絶対に不可能だ。それに季節は秋、もう少しで冬になる。戦争なんかできなくなる。それでも行けと命令された。
もう死にに行けと命じられたのと一緒である。私が死んだら、妻や子供たちがどうなるかは、分かり切っている。子供の保護を名目に、妻は後宮に入れられるだろう。私は絶対に生きて帰らなければいけないのだ。
軍勢は、それでも西部軍が動員され、全部で五千人はいた。私はできる限りゆっくり行軍し、冬になったら帰るつもりだった。
冬の手前に、騎士の城に着き、お座なりに攻撃した。しかし、軍監がついており、もっと本気で戦えと叱責された。
仕方なく本気で城攻めしたが、騎士の城は、物凄く硬く、全く歯が立たなかった。
むしろこちらに損害が多かった。いったい何のためにこんなことをやっているの全く分からなかった。単に兵を死なせただけだった。あまりの王の暗愚さにめまいがした。
そこへ冬が来て、雪が降った。これ幸いと、撤退しようとしたら、王から手紙が届いた。新年が来るまで帰ってくるなとの内容だった。全く意味不明だった。この寒さの中どう戦えばいいというのだ。さらに兵を無駄死にさせるだけだ。めまいを通り越して吐き気がしてきた。
どうしたらいいのか全く分からなかった。王は私の死を望んでいるとしか思えなかった。もう既に千人以上死傷者が出ている。凍傷のものも増えており、まともに戦える者は三千人位にへっている。軍監は王の言いなりであり、撤退もできない。
このどうしようもない状態の時に、ブルク王国が軍勢をおこし、城を助けに来たのであった。
戦いたくなかったが、こうなれば戦わないわけにはいかない。こんな戦に大義はない。なんでこんなことのなってしまったんだろう。
「うわーよく寝たよ」俺は傍らのリュウに言った。
「本当にこの天幕と、毛布は暖かいですね、良く寝れました。これで冬の戦いも大丈夫ですね」
「さて、朝飯食ってから、会議に出かけるか」
「このキッチンカーもよくできてます。他の軍から、見物人が相次いでますよ」
「要望があればいくらでも作ってやるよ」
「でも、冬の戦って、あんまりないと思いますが」
「まあそうだけど、今回みたいなこともまたあるかの知れんしな」
そこへシュタインがやってきた。目が輝いていた。「ハン様、これはいいっすねー、全然寝られて、元気いっぱいすっよ」
「いまもその話をしていたんだ、元気いっぱいなら戦の時も存分に頼むよ」
「暖かい食い物も食えるし、力が溢れてるっす」といって、シュバルツは戦斧をブンブン振り回した。
「おい、危ないって、ここでやんなくてもいいだろう」
「へへ、すまないっす」シュタインは、本当に力が有り余っているのか戦斧を振り回しながら自分の部隊に帰っていった。
「相変わらずですな」
「元気があるのはいいことさ」
昨日の会議室に、全員がそろった。
シュバルツ様が言った「今回の戦は、正攻法で行く。ユニコーン隊形とする」
みな無言で、説明をまった。この国では、陣形を魔物に例える習慣がある。ユニコーン隊形は会戦では最も一般的な横陣のことを意味する。
「敵は冬の長陣で疲れ切っている、斥候によれば、軍勢も三千人くらいに減っているようだ。普通に戦って、普通に勝つ。中央に私の陣、右翼にエーデル、最右翼にハンの騎馬隊を配する。左翼は、アンゲルとクロイツに任せる。歩兵がしのいでいる間に、両翼の騎兵が、敵騎兵隊を破り、後方より包囲する。これで勝てるはずだ」
「敵は五千人いたはずですじゃ。どこかに伏兵がいるとやっかいですじゃ」アンゲル伯爵が指摘した。
「このだだっ広い雪原のどこに伏兵をおけるのだ、はるか先まで見渡せるぞ」エーデル男爵がそううそぶいた。
「いや、危険性を指摘したまですじゃ」
「各所に斥候を放っているが、伏兵の報告もない、アンゲルのいう事も分かるが、この起伏のない平原だ、伏兵が出てくればすぐ分かる、その時対処すればよい」
「了解ですじゃ。ではユニコーンで。それが無難ですかな。戦は生き物ですので、その後の変化で、いかようにも変えられるユニコーンがやはりいいと思いますじゃ」
「そう考える」
「それでは俺達の騎馬隊が責任重大ですね」俺は緊張して発言した。
「俺もだ」クロイツも慌てていった。
「そのとおりだ。任せたぞ」
「はは」
これで明日の作戦が決まった。
俺は、自分の部隊に戻って、リュウ、ヤン、シュタイン、キムと会合を持った。
「防寒具と温かい食事により兵たちの健康状態は全く問題ありません。気力、体力とも充実しています」まず、キムがそう報告した。
俺は、出兵が決まってから考えた作戦を話した。
「ドラゴンとフェ二ックスの組み合わせですか、これは斬新だ」皆が驚いた。
「俺がドラゴンだな、やってやるぜ」と大張り切りのシュタイン。
「………」無言でうなずくヤン。
「では明日」
明日、俺の初めての戦いが始まる。うまくいくといいな。