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第3話:会合

シュバルツ様やほかの軍勢と集合するのは、この鉱山都市キリシュと決まっていた。

30年前にこの山で銅鉱石が取れることが分かり、採掘がはじまった。それから銅採掘が続き、徐々に規模を拡大していった。現在では、かなりの量の銅が産出されていて、王国北部の繁栄を支えていた。鉱山が拡大するに従い、ふもとの町も広く豊かになっていった。現在では城壁を廻らした立派な鉱山都市となっていた。


ほんと、この鉱山が発見されてから、北部は発展したなあ。羊毛その他を買ってもらって、恩恵は俺の領地にも及んで、多少豊かになった。有難いことです


我々の軍勢も、キリシュの城門前に到達した。


リュウが、門番に対して我々の来意を告げた。

「ハン子爵の軍勢である、開門されたし」

「お待ちしておりました。ご入城ください」門番の長と思しき騎士より、そう声が

かかったと思うと、城門がゆっくりと開いた。


軍勢は、俺を先頭にして、粛々と入城していった。

俺はこの町に入るのは初めてなので、珍しさもあって、周囲を見回した。

「あんまり、キョロキョロ見回すと田舎者と思われますよ」

「実際田舎者なんだから、飾らなくてもいいだろう。しかしこの町は面白いな」

「ま、別に良いですけどね、たしかに雑然としてますな」


城門の内部は、石で舗装された道が奥に続いていた、その両側には石つくりの建物が並んでいる。その建物の様式は統一されず、種々の様式が混在しており、雑然と言った印象は免れなかった。しかし、そこここから炊事の煙があがり、鍛冶屋と思しき所からは鉄を打つ音が響いていた。また行きかう人々も多く、老若男女が雑然と入り混じっており、喧騒の中に賑わいがあり、繁栄している様子が嫌でも感じられた。


案内の騎士が、中央の広場まで連れて行ってくれた。そこはいつもは何らかの集会があるときに使われる公園のようにみえた。だだっぴろい舗装された広場で、中央に池があった。その広場には既に多くの天幕が立ち並んでいた。その周囲を兵士が立ち働いており、夕食の準備をしていると思われた。軍勢はほとんど集まっているようだった。


だが、俺たちの天幕を貼る場所は十分にあった。その場所を示し、俺は部隊長に言った。


「よし、ここに天幕を張るように、暖かく寝ることは大事だ、頼んだぞ」

「は、了解しました」ヤンとシュタインが唱和した。


「キムは食事の準備を急がせろ」

「了解です、食事を作ります」

「頼んだぞ、温かい食事も大事だ」

暖かい寝床と、温かい飯が食えれば、兵も満足するだろう。してくれよな。俺がこんだけ苦労したんだからな。


「子爵殿はこちらに、シュバルツ様がおまちです」案内の騎士はそういって、俺とリュウ副官を、この町の領主の館に案内した。


この町は良質な銅鉱石がとれる、そのためたくさんの鉱夫が集まり、最初にその鉱夫たちに食事などを出す店や宿泊する店ができた。さらに人間が集まるにつれ、生活必需品の店ができた。そして街に余裕ができると博打場、娼館などができ発展していった町だ。


そののように町が中心部から徐々に外に向かって広がっていったため、その時々の流行の建物が作られたりしたので街に統一性がなく、全体に雑然とした印象になってしまっていた。が、逆にそのため町が息づいているように見え、全体が活気に満ちていた。


この国には、さいわい奴隷制度がない。現在の王が廃止したのだ。俺はそれだけでも尊敬に値すると思う。さらに人種差別も禁じている。その他の施策も素晴らしく仁政といっていいと思う。賢王と呼ばれるだけのことはあるのだ。俺もいい王様だと思うよ。あの王様になってから、俺の領地もかなり豊かになったからな。いまじゃ飢え死にする人なんかいないからな。感謝してます。


今のブルク王国の王様は、アルベルト・フリードリヒ王という。30年前に即位され、今は50台半ばくらいとと思う。即位すると即座に、関所などの通行税を廃止し、道路、港湾のインフラの整備をはじめたんだ。


はじめは費用が掛かり赤字だったようだが、街道が整備されると、南北に長い国土の、南の産物が王都から北へ、北の産物が王都を経て南へ、王都の産物が各地へ、東の港からの輸入品が王都へと流通した。珍しい物品をみた人々はそれを欲しがり、消費が刺激され、景気はどんどん向上していった。俺たちの領地の産物も王都に流通するようになり、かなりの金が入ってきた。それで食べ物を買えるようになったんだ。まったく王様さまさまだよ。


通常、物品の生産が増え、流通が促進されると、貨幣の不足がおこり、デフレになり景気が落ち込むのが普通なのだ。しかし物の生産が増えるに従うように金、銀、銅の鉱山が発見され、それにより通貨が供給されたためデフレが起こらず、景気は上昇を続けた。現在国内は好景気に沸いている状態なんだ。


これらは、鉱山発見も現国王のおかげと庶民は考え、国王の評判は上々であるんだけど。実はこれらは国王が即位すると同時に地方長官から宰相に抜擢されたグロッサー男爵の功績らしい。宰相就任と同時に、先をみこして各地に山師を派遣したそうだ。そこまで見通すなんて凄い奴がいるもんだよな。


王様は、実は先王の五男で、王位継承なんてできないと思われていたらしい。だから若い時は結構やさぐれていて平民に交じってかなり悪いこともしていたらしいのだ。しかし兄達が、死亡したり、養子に出たりして、長兄と王様だけ残った。その後長兄が突然病死したため王位が回ってきたわけだ。それで市中でやさぐれていた時代の経験がいま色々と役立っているようなんだな。人生いろいろだよね。


だから、この鉱山に奴隷はいない。いなくて幸いだ。俺も奴隷と奴隷制度が大嫌いだ。あの死んだような眼は見たくない。そのかわりといってはなんだが犯罪を犯した者に課される強制労働はある。奴隷の密売、強盗、婦女暴行などの重罪を犯した者が主で、これでは重労働させてもあまり可哀そうとは思わないな。そしてこの国では殺人を犯した者は、よほどの事情がない限り死刑なので、ここに殺人犯はいない。


俺はリュウと、領主の館に入った。広間には、今回招集された貴族全員がそろっていた。

「ハン子爵ここに、遅くなって申し訳ありません」

「よい、これで全員そろったな」シュバルツ侯爵がいった。

「はっ」全員が唱和した。

中央には千五百人を率い、この軍の大将であるシュバルツ侯爵がいた。金髪碧眼の巌のような大男である。年齢が確か45歳だときいている。


その右横には、兵五百人を率いるアンゲル伯爵がいる、灰色の瞳をもち白髪の老練な武将だ、60歳は越えているはずだ。


左隣にはやはり兵五百人を率いるエーデル卿がいる、珍しい女性貴族であり、20歳くらいの金髪碧眼の眼の覚めるような美人である。なんでも幼き頃より剣術を嗜み、現在達人といっていい域に達しているらしく、父親や長男と差し置いて、戦には出張ってくるらしい。すさまじいジャジャ馬とのうわさもある。父親はすでに諦めているようで、ここには特別に男爵待遇で参陣している。よくやるよと俺はおもうね。


そのさらに左には俺と同じ二百五十の騎兵を率いるクロイツ子爵がいる。このクロイツ子爵は、同じ騎兵部隊ということもあって、何かと俺に張り合ってきて、うっとおしいのだ。今も俺を睨んでいる。もうそういうのはいいと思うんだけどなあ。めんどくさく仕方ないよ。俺そんな優秀じゃないから。


「皆無事そろったな。ここまでの行軍大義であった。今夜はもう遅いので、軍議は明日としよう。みな休んでくれ」




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