第9話:婚約者
俺たちは、領地に帰ってきた。十数名ほど戦死し、帰れなくなったものもいるが、他は軽症者のみで、戦いにも勝利したため、意気軒高だった。
「あーやっと帰ってきたよ」俺は自分の屋敷に帰って、ソファーに寝転がった。
そこで違和感にきずいた。なんだか部屋がきれいになっている。部屋のあちこちにゴタゴタ置いていた衣類や、色んな物がなくなっている。きれいに掃除もされている。どうしたんだ?
「おかえりなさいませ」突然声がした。
そこに若い女性が立っていた。
「あっ ユング、なんでここにいるんだ」
「婚約者なのに、いつまでも結婚していただけませんので、押しかけました」
こいつは俺の婚約者のユング・ホッホベルクだ。死んだ親父がきめた婚約者で、王国南部の侯爵家の二女になる。茶色の髪に褐色の瞳を持つ大柄な美人で、性格も勝気なところがあるが、おおらかで優しさもあり、別に嫌っているわけではない。しかし今ランド王国との戦争が起きようとしているときに結婚は難しいと思っていたのだ。
「今は難しいといったろう、20歳になる前には何とかするから、抑えてくれよ」
「そう言われると思って押しかけてきました。今日からここに住みます。メイドも、執事も連れてきましたので、家の中のことは任せてください」
見回すと10人程度のメイドが控えており、執事らしい中年の紳士がいた。またその下につくだろう文官が数名控えていた。
今までは、周辺の農家の奥さんが、交代で掃除や食事の用意をしてもらっていた。もちろん賃金は払っていたが、いわば片手間なので十分とは思っていなかったが、こちらも男の一人暮らしみたいなもんで、全く気にならなかった。部屋は多少散らかってても当たり前、飯は食えれば十分と思っていた。
その農家の奥さんや、今まで家政を任せていた親父の代から使えていた老執事が、なんだかほっとした表情で俺を見ていた。
「お前たちはそれでいいのか?」俺は老執事にきいた。
「とっくに引退したいと思っていたところですよ。これで引退出来てほっとしています」
「私たちも、これではいけないと思っていました。メイドさんが来てくれて、これからお任せできるので、安心しました」
どーやら俺には逃げ道がないようだ。なしくずしに同棲になるんだろうか。
「えーっと、ユングに頼むしかなさそうな」
「あたりまえです、よくもこんな適当な生活をしてきたもんですね。これからは家事一切を私が取り仕切ります。家政はこのフィヨルドがしきります。侯爵家の筆頭執事をいただいてきました、辣腕ですので、どうぞよろしく」
まあ男やもめで適当な生活を送ってきた自覚はあるので、何も言えないのであった、生活が少し改善するかとの期待もあったが、さっそく尻に敷かれているような気がした。
「えーとよろしく。別に結婚したくない訳じゃあないからな、もう少し落ち着いたら考えようとはしていたんだ」
「よーくわかっておりますよ。でももう待てませんので、父に許しを得てまいりました.今後宜しくお願い申し上げます」
翌日目が覚めた。布団はふかふかだった。めちゃくちゃ寝心地が良かった。
着替えるときも、メイドがついてくれた。とんでもなく便利だった。
朝食も、ただのベーコンエッグとパンとスープだったが凄くおいしかった。
もしかして結婚生活って、すごくいいのかもと思った。
「旦那様、如何でしょうか」ユングが、かしこまっていった。
「うん、なんか凄く良い。早く結婚したくなった」
「結婚すると、もっと良いこともありますよ」ユングが微笑んでいった。
俺はせき込んでいった。
「そうかもな」なんか、本当に結婚したくなった。
「有難うユング、結婚したくなった。頑張るよ」
「それを聞いて、私もうれしく思います。その日をお待ちしております」
「ランド王国との間がきな臭い、それがかたずいたら、すぐに結婚したいと思う。なにシュバルツ様が策があるとおっしゃっていいる。すぐかたずくさ」
ユングと会話が終わるのを待ってフィヨルドが報告した。
「家政での無駄が31か所判明しました、即刻改善いたします。また子爵領の税務関係の不備49か所、商会との取引との不法なもも54か所、農民からの租税についての不正40か所を洗い出しました。即刻改善いたします。また、現在の御用商人のゴズド商会はいささか問題ありかと思います。明確な違法取引が最低14件発覚しました。それに比べ、オズワルド商会は違法取引見つからず、むしろ零細な商人に援助する、孤児院に寄付をおこなうなど、利益のみを求めず社会貢献えの意図がみられます。こちらの商人に便宜を図るべきと愚考いたします」
俺は驚愕した、一日でそれほど判明するのか。
「一日でそんなにわかるのか」
「はい、犯行があまりにも粗雑で、みえみえでした。全く問題なく判明しました。今まで問題なかったことが問題です」
「大変申し訳なかった。今後もよろしくお願いする」俺は冷や汗をかきながら言った。そんなにひどかったのかよ、そりゃああんまり内政にはまだ力入れなかったけどなあ。ゴスドめ威張ってたからいい気味だ。今後はオズワルドをひいきしてやろう。
「この改革をすることで、家政費用が3割削減できると思います、また税収も2割増収できると考えます」
そりゃあ楽になるな、それだけ無駄があったんだと思うとぞっとするよ。まあこれからはよくなるだろう。
そう話していると、王都から使者がきた。
「即刻王都に来られたし、急ぎ伝えたいことあり」と