第8話 雪原の戦い4
どうやら戦いには勝ったようだ。敵本隊はチリジリになり、一部は捕虜となり、残りは逃げていった。
それはいいとして、シュタインが意気揚々として引き上げてきた。凄い上機嫌で、本陣を襲った敵別動隊を粉砕した話をしているんだが、その最後にシュバルツ様に、俺のおかげで助かったんだぞというようなことをほざいたらしい。
俺は頭を抱えた。こりゃー謝らないといけないなあ。どう謝ろうか。
「この馬鹿」俺はシュタインの頭をぶったたいた。
「いてーなー、なにすんだ。ハンといえど許さんぞ」
さらにヤンが無言でシュタインを殴った。
「なんなんだ、ヤンまで、俺がなにか悪いことしたか」
「本隊を助けたのはお手柄だったよ、問題はそのあと、大威張りで、シュタイン様に、俺のおかげで助かったんだとほざいたろ」
そういう俺の横でヤンが大きくうなずいた。リュウはあきれた顔でシュタインをみている。
「そのとーりだろーが」シュタインが不貞腐れた。
「それが無礼だってんだよ、こい、一緒に謝りにいくぞ」
「え、やだよー」
「うるさい、一緒に来い」
俺はシュタイン、ヤン、リュウと一緒にシュバルツ様の本陣に向かった。
本陣は、各部隊長が集まり、ごった返していた。
「ハン参りました、シュタインが無礼を働き、誠に申し訳ありませんでした」
俺はシュタインと共に頭を下げた。シュタインの頭は、俺が無理やり下げさせたんだがな。
案に相違して、シュバルツ様は上機嫌だった。
「おお貴君がシュタインか、おかげで助かったぞ。礼を言うぞ」
「へへん、心配することなかったじゃん。やっぱり俺様はえらいな」
途端にシュタインがふんぞり返った。
「こういう奴でして、誠にすいません」
「よいぞ、若い奴はそのくらい元気がないとな。敵の死角をうまくついて、突撃したのは見事だった。これからも頼むぞ」
「まかしとけってえー」有頂天になっていた。
「で、ではこれで」俺は恐縮しながらシュタインを引きずって、後ろに下がった。
「みな揃ったな、此度の戦は、わが軍の大勝利だ。勝ち鬨をあげるぞ」
エイエイオー と皆で唱和した。いい気分だった。
「論功行賞は後に王都で行われる、ここでは、とにかく勝ったことを喜ぼうではないか」
おー、と全員が喜びの雄たけびをあげた。
「敵主力三千は壊滅、千人ほどの遺体が残されていました。捕虜は五百人前後です。敵将リチャード伯爵の遺体も確認されております。完勝と思われます」シュバルツ様の副官が淡々と報告した。
「今宵は、酒を許す。宴会だ」
ここで今回一番の歓声が上がった。
あのバカのおかげで、エライことになるかと思ったが、どーも大丈夫なようだった。シュバルツ様はなんだか非常に上機嫌だった。もしかして、ああゆう馬鹿が好きなのか。シュタインはおれが抜擢したから、能力は認めてるんだが、やんちゃすぎるところがどうかと思おもうんだが、俺と一緒でそれを可愛いと思えるのかもしれない。まあ悪い奴ではないからなあ。めちゃくちゃ強いし。まあリュウみたいな常識人ばかりじゃ面白くないのも確かだしな。ヤンは逆に無口すぎるしな。まあ人いろいろでいいか。
その後は宴会になった。
シュタインは誰彼構わず、自分の手柄をしゃべり倒して顰蹙を買っていた。
リュウがそこにはりついて、適度に押さえつけようとしていた。さすがだな。
あ、シュタインがとうとうエーデル男爵に絡みだした、ヤンがいさめようとしたが、間に合わなかった。思いっきり平手打ちされてやんの。いい気味だ。
ヤンは黙々と飲んでいた。
さっきからクロイツのやろーが陰気な目で俺を見ている。俺は手柄を立てて、あんたはヘマしたからな、だけどそれは俺に関係ないからね。反省するように。俺をそんな目でみないでね。
シュタイン様がクロイツ子爵に近寄って話しかけた。
「クロイツ、此度は貴君もよく頑張った、最後の所も敵が死に物狂いとなっていたので、仕方がない部分もある。あまり気にするな。今日は酒でものんで、忘れろ」
「は、ありがとうございます。今回は思ったように働けませんでしたが、今後はこれ以上軍務に励むつもりです」
「それでよい」
流石シュバルツ様だ、落ち込んでるあいつを、うまく激励したよ、上に立つものはこうででなくちゃね。その後シュバルツ様は俺の方に寄ってきた。
「ハン子爵、此度はお手柄だったな」恐れ多くもシュバルツ様が、俺をほめてくれた。
「有難うございます、しかし戦いで活躍したのは、シュタインとヤンですから。俺は恥ずかしながらほとんど戦っていません」
「有能な部下を持っていることは、有能な将の証だ、なんの恥じることがあろう」
「有難うございます」
「それより、あの冬季装備を導入したい。天幕、冬季用の軍服、キッチンカーを早急に全軍に導入したい。もちろん費用は負担する。どうだ、来年秋までにできるか」
「やれと言われれば、やって見せますが。冬の戦はほとんどないのでは、必要ありますか」
「今回の戦いの勝因の一つがそれなのだ、敵は冬季装備がほとんどなく、傷病者が続出しており、残ったものも体力が落ちていた。これほどたやすく勝てたのも理由があってのことだったのだ」
「はあ」
「次は、これを利用して敵を殲滅する、私に策がある。次の戦いは、かなり面白いことになるだろう、その準備をお願いしたい」
「わかりました。全力をつくします」
「頼んだぞ」そういうとシュバルツ様は、去っていった。
何だったんだろう、帰ったら、とにかく冬季装備を揃えるよう、準備しなくちゃな、忙しくなるな。まあ儲かりそうだから、いいんだけど。